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ー 真逆の放課後 ー
夕方のスーパー。
蛍光灯の白い灯りが無機質に商品を照らしていた。
そこではひとつひとつ商品が丁寧に陳列され、疎らに置かれている商品なんてひとつも見当たらなかった。
「笹原さん!あなた仕事早いし丁寧ねぇ!」
「…あぁ、ありがとうございます。」
「そ〜ね〜。もう少し愛想がよければねぇ…。
ほら、最近レジも人が足りてないでしょ〜?だから、笹原さんなら覚えも早いし〜、レジの応援回れるようにしてほしいのよ〜。」
「笑顔とか作れないの?」
「…っ……。」
その言葉が、ただただ苦しかった。
(私だって、人前で笑えるなら笑いたいよ。)
「努力します…。」
「えぇ。よろしくね。」
スーパーのアルバイト。ここは年齢層はパートのおばちゃん、40代くらいの従業員しか居らず、当然いじめをするような年代の方々ではないので、あやねにとって苦ではない職場環境だった。業務は簡単な陳列、調理補助で、接客はなるべく避けた。
お局パートの木下さん。
悪気のないようで、あやねの心に刺すような言い方が、あやねを苦しめるだけだった。
20時半。バイトを終える。
退勤を押すと、ポッケの中の小さな封筒を何度も確認する。
今日のバイト代だ。
ーー都内の某スタジオ。
白いフラッシュの音。
次々とポーズを決める神谷湊。
黒いシャツ、端正な横顔、長い脚。
彼は今日も完璧だった。
撮影後、楽屋に戻ろうとした時。
「湊くん!お疲れ様!」
別の撮影ブースで撮影していたモデル、橘愛理に話しかけられた。
うさぎ舌のような唇、ぱっちり二重に鼻筋も通っている。華奢な身体だが、バストとヒップにはボリュームがあり、彼女とすれ違って振り向く人は居なかった。
ーだが、湊の目には違って見えた。
(対して顔も良くないな。)
湊が気に入らなかったのは、彼女の顔が少し、ほんの少しだけ、湊より大きかった。
ただそれだけだった。
「どうした。」
遅くまでの撮影に疲れていた湊は、笑顔を作ることを忘れていた。
「…あっ、あぁの、この後ご飯どうかな?」
「ごめん。疲れてるんだ。」
(嘘はついてない)
湊は足速に楽屋に戻り、荷物を持ち事務所を出た。
後ろで
「そっかあ〜…じゃあ、また今度!」
と、声が聞こえたが、聞こえないふりをした。
(本当に綺麗な女ってどこにいるんだろ。)
港の中にある美は異常なまでに高かった。
いや、*歪んでいた*のだ。
2人は別々の世界にいた。
交わる理由も、意味も、今はまだなかった。
でも、同じ空の下で、確かにーー
ーー同じ夜を生きていた。
コメント
1件
今回短くてごめんなさい💦