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廉くんのこと絶対忘れないから!」
「絶対会いに行くからね!」
別れの時、みんなそう言う。
だけど、実際会いに来てくれた友達はいないし、転校当初届いていた手紙は徐々に期間が開いて、そのうち届かなくなる。
そんなもんや。
子供の世界はめまぐるしい。いなくなった奴のことなんてすぐに忘れる。
小学校の頃はそんなことでいちいち傷ついたりもしていた。
だけど中学に上がる頃には、そんな胡散臭いクラスメイトの涙を「俺もみんなのこと忘れんからな!」なんてサラリと流せるようになっていた。
心では、全然信じてないくせに。
「友達と別れるのが寂しい」とか、「俺がいなくなってもずっと忘れないでいてほしい」とか、そんなふうに願っても、必ずその期待は打ち砕かれて傷つけられるんだ。
だったら、最初からそんなこと望まなければいい。
「ずっと友達だよ!」と言われても、「どうせすぐ忘れるんやろ?」と思ってればいい。
「好きだ」と言ってくれる女の子にも、どうせすぐ別のやつを好きになるんやろ?」と思ってればいい。
自分の気持ちを守るために、先回りして疑うことが癖になってた。
ひとりでも大丈夫。
友達と別れることなんて何も寂しくない。自分の存在が忘れられていくことなんて何も悲しくない。
新しい場所でだって、周りに依存せずに1人で生きていけるくらいに強くあればいい。
そう願った。
そんな時、君に出会った。
俺達は色んなことを話した。俺は小さい頃から父親の仕事の都合で転校ばかりさせられていること。人見知りの俺にとって、やっと友達ができたと思っても、またすぐに知らない土地に放り込まれてやり直し…これがどれだけ苦痛だったか。
そんな寂しさの中、前の学校の友達にすがりたくなるけど、「電話するね」と約束したはずの電話は一向にかかってくることはなく、自分のいなくなった後の世界に自分の存在はもう跡形もないのだと悟ったこと。
周りの友達にも、親にさえ言えなかった感情、全部話した。
お互いに人間関係に孤独を感じていた俺たちは、すぐに信じ合えた。
自分の心の中に秘めていた弱みを、全部さらけ出した。
遠い国でいじめに遭い、たった1人で寂しさを抱えていたその子は
「大丈夫、私がずっとそばにいるから。私はずっと味方でいるから。
だから寂しい時は寂しいって言っていいんだよ」
と言ってくれた。
ずっと虚勢を張っていた心が、君と話している時だけ溶けていくのを感じた。
いつ頃からやったやろう?俺が涙を見せなくなったのは。
転校を繰り返すうち、心を閉ざして友達に深い感情を抱かないようにセーブをかけてた。親に心配かけたくなくて、家でも平気な顔してた。
自分の中に感情を閉じ込めて、泣くことはなくなったけど、いつしか本気で笑うこともなくなっていた。
だけど、本当はずっと探してた。
自分の心の中、全てさらけ出せる場所を。
そんな”居場所”に君がなってくれた。
君には不思議なほど何でも話せた。
どんな自分を見せても受け入れてくれる相手がいる、その絶対的な安心感が俺の心を強くさせた。
だけど、やっぱり君もいなくなった。
ある日、突然に…。
お互いに「ずっとそばにいる。ずっと味方でいる」と約束したのに…。
それから人を好きにならないと決めた。
人見知りを隠してチャラ男に変身して、俺を好きだと言ってきた女とは全て付き合った。そして、情が移る前に次々とふっていった。
それで良かった。そういう奴と知っても好きだって言ってくる女は途切れなかったし、出会いばかりを繰り返していれば、楽しいだけ。
別れの時はこっちから決めてやる。
好きになってから無理矢理引き裂かれるくらいなら、好きになる前に別れればいいんだ。
だけど俺は、ずっと探していた君と奇跡の再会を果たした。
運命だと思った。
気持ちは全く歯止めが効かず、引きずり込まれるようにどんどん君を好きになっていった。
だけど、数年ぶりに再会した君は、全然俺に気づいてくれんくて。
そして違うやつを好きになった…。
ジェシーの交換留学最終日。昨日コテンパンにしてやったから、今日は全然風ちゃんに話しかけてこんかった。
午後の授業を終え、ジェシーは1人静かに教室を出ていく。
風ちゃんも続けて席を立つ。
廉「ほっとけば?散々風ちゃんを傷つけたやつやろ?」
風「でも…」
風ちゃんは俺の手をすり抜けて、ジェシーを追いかける。
風「ジェシー!」
廊下まで追いかけ呼び止めるとジェシーが振り返る。
お互いちょっと沈黙になる。
ジェシー「風、本当に悪かった…」
風「わざわざ誤解を解きに来てくれてありがとう。ずっと消えなかったしこりが消えた気がする。だから…許す!」
ジェシー「風…。でも、アメリカには帰ってきてくれないんだよな?」
風「うん、それはない。私の居場所はここなの。ここには大好きな人達がたくさんいるの」
ジェシー「俺が向こうでの、お前の居場所を奪ったんだもんな…」
ジェシーが悲しそうな顔をする。
廉「1度傷つけて壊してしまったものは、もう元通りには治らないってことや。今度誰かを好きになった時は、最初から大切にして、めっちゃ毎日好きやって伝えるんやな。俺みたいにな!」
ジェシーは日本語が分からない上に、れんれんは関西弁だから、1ミリも分かってないようできょとんとしている。
廉「って、通訳しといて」
なんか自分の話題なのにそのまま通訳するのも恥ずかしいから、とりあえず「GOOD LUCK!」とだけ伝えておいた。
ジェシー「風、元気でな」
ジェシーが思いっきりハグをする。
廉「お前何しとんねん!(.,,゚Д゚) 風ちゃんから離れろや~!」
風「れんれん、お別れのハグはアメリカでは普通の挨拶やから(^_^;」
廉「はい!はい!もう終わりー!気をつけてアメリカに帰ってくださいねー!さいならー!」
れんれんに無理やり引き離されるようにしてジェシーを見送った。
廉「も~風ちゃんはほんっと甘いなぁ。でも風ちゃんなら許しちゃうんやろうなぁって思っとったわ。ま、風ちゃんのそういうところが好きやねんけどな~」
風「だから、またそういう軽い口調でそういうこと言うから~」
だから、どこまで本気かイマイチわからなくなるんだってば。
そんなふうにじゃれつく私たちに、教室の中から視線が注がれていることに、私は気づいていなかった。
ジェシーが帰国して週明け、教室に入るとすぐに教室の空気が違うのを感じた。
瞬時にこの空気を理解する。
ああ、また始まったんだ。今度は私は何をした?どうして嫌われた?
みんながチラリと私に冷たい視線を向け、それからそこに誰もいないかのようにまた自分達のグループに視線を戻して喋り始める。
風「ありさ」
近くにいたありさに話しかける。
ありさだけはきっと大丈夫。
一体どうして急にみんなの態度がこんな風になってしまったのかを聞きたかった。
だけど、その期待は裏切られた。ありさは聞こえなかったかのように違う友達のところにそそくさと逃げていってしまった。
聞こえなかったわけじゃないよね?私の呼びかけに一瞬止まったやん。
なんで…?
愕然とする。
また足が震えていた。
部活。
岩橋「風ちゃん!大丈夫だった?」
風「え?」
岩橋「うちのクラスでも噂になってた。アメリカから来た風ちゃんの元カレとれん先輩が風ちゃんを取り合ってサッカーで勝負して、れん先輩が勝って風ちゃんと付き合うことになったって。
うちのクラスのれん先輩ファンの女子たちかなりショックを受けてて。
中には風ちゃんが元彼を使ってれん先輩をたぶらかしたとか怒り出してる女子もいて、完全に逆恨みだけど(* >ω<)
それに、れんれんと付き合うことにしたのに、最後の日、ジェシーと抱き合ってたとかなんとか…」
なんかちょいちょい真実も混ざってるけど、ちょいちょい脚色されて、真実がねじ曲げられてる…。
部活が終わって、一人公園のベンチに座っていたら、急に声をかけられびっくりする。
「俺と付き合ってると勘違いされて、女子にいじめられてるって?」
顔を上げると、れんれんが心配そうに覗き込んでいた。
その後、二人で黙って座る。
今の私の気持ちについて、説明は不要だった。私がいじめでどれだけ辛い思いをしてきたか、一番よく理解してくれているのは他の誰でもない、れんれんだから。
だけど、今回はアメリカにいた時よりも辛い。その理由は、ありさ。
こっちに来て、唯一できた仲良しの女の子の友達だと思ってたのに。
でも、ありさからしたられんれんのことを好きだって相談した直後に私が急にれんれんと付き合いだしたと思ってるんやもん。そりゃ裏切られたと思って当然よね。ちゃんとその誤解を解きたくて今日何度も話しかけようと思ったけど、ことごとく避けられてしまった。
全然話を聞いてもらえなかった。信じてもらえなかった。
いじめって、なんとも思ってない人にやられても辛いけど、自分が好きだと思っている人にやられたらこんなにも辛いんだ。
廉「だったらいっそのこと本当に付き合っちゃうか?」
見上げるとれんれんが凄く優しい顔で微笑んでいた。
「言ったやろ?俺はずっとそばにいる、ずっと味方でいるって」
あぁ、この喋り方や。声は変わったけど、喋り方は変わらない、この優しくてソフトな喋り方が好きだった。癒されてた。
あの頃いつも言ってくれた。
「ずっとそばにいる。ずっと味方でいるよ」
って。
その言葉に救われていたんだ。
たった1人で孤独に押し潰されそうになっていたあの頃の私を救ってくれたのは、この人だったんだ。
ふらっと寄りかかってしまいたくなる。
でもダメだダメだ!
こんなに大切な人の気持ちを自分の辛さから逃げるために利用するなんて許されない。
「風ちゃんが望んでくれるなら、俺、ずっと風ちゃんのそばに居るよ?ずっとそばで風ちゃんを全力で守るよ?
大切にするから」
れんれんがギュッと私の手を握ってくる。
廉「俺、ずっと人に深入りしないように気を付けてきたけど、もう手遅れや。
こんなに好きになってしもたんやから。
ずっと会いたかった。ずっと好きだった。
今度はどこにも行かないで。ずっと俺のそばにいてよ?お願いやから、もういい加減俺のこと好きになってよ?」
さっきまでの余裕ある微笑みは消えていて、その表情は切なさに歪んでいた。
私の一番辛い時を救ってくれた大切な人が、こんな悲痛な顔をしている。
そうさせているのは、私だ…。
風「れんれん…」
れんれんの手の上に自分の手を重ねようとして、平野の顔がよぎる。
れんれんは大切な人。でも、今私が好きなのは…。
でも、平野が好きだと言ってくれたのは岸くんを好きだった時の私。
今更、「やっぱり平野に心変わりしました」なんて言っても受け入れてもらえるかどうかは分からない。
だけどれんれんは、どんな私でも絶対に受け入れてくれる…。
廉「迷ってくれてるんや?」
れんれんは宙で浮いたまま止まってしまった私の手を取って、私の膝の上に戻す。
廉「迷ってくれるってことは、1歩前進やな。嬉しいなぁ!じゃあもうちょっと考えて。1週間!今週の金曜日に答え聞かせて?」
そんな短時間で答えが出るやろうか…?
「だってこっちは再会してから1年間も待っとるんやで?もっと言うなら、風ちゃんが消えてから約3年間探しとったし。もう待てへん!だから1週間!な?それでええやろ?」
確かに今までもずっとれんれんは私に「好きだ」と気持ちを伝え続けてくれていたのに、それを本気に受け取らずに流していた。もうこれ以上曖昧な態度をとり続けるわけにはいかない。
火曜日。
れんれんがしきりにありさと何か話をしていた。
水曜日。
ありさが話しかけてきた。
「無視とかしてごめん!廉に言われちゃった。”お前は普通の女子みたいにみみっちぃことするような女じゃないと思ってたのに、見損なった”って。廉と両思いになれなくても、せめて嫌われたくない。ちゃんと廉に恥じない自分でいたい。だから無視とかもうやめるから!ほんとごめん!
風は平野のこと好きだって言ってたのに、なんで急に廉と付き合ってんの?裏切りじゃんって思ったけど、廉と風、ずっと昔からの知り合いだったんだって?それが発覚して色々気持ちに変化あったってことよね?
詳しいことはよく知らないけど、廉がずっと風のこと好きだったのは知ってるから、やっと廉の気持ちが報われたんだなって思ったら、私応援しなきゃって思った。廉のこと絶対傷つけないでね!私との友情に誓って!」
まだちょっと勘違いしてる、すぐに訂正しようと思ったけど、ありさは完全に自分の中で結論が出ているようだった。
ありさ「他の女子のことは任せて!バレー部部長の影響力なめんな!」
ありさはウインクして、たーっと去っていった。
木曜日。
私がありさと話していると、れんれんがちゃちゃを入れてきた。
「やっぱり中野は俺が見込んだ女だな!っていうか女じゃなくて男か!」
いつものように、ありさがれんれんにパンチを入れる。
それを見ていたクラスの女子はちょっとバツが悪そうに、取り繕った笑顔で話しかけてきた。どうやら私への無視はやめることになったらしい。
風「さすがありさ、女子の中で影響力ある~。みんなになんて言ったの?」
ありさ「”私は私が風にムカついたからあの日は喋りたくなかっただけ!でももうムカついてないから普通に喋る”って。
みんなそれ聞いてオドオドしてたから、”あんた達人を嫌うことすら1人じゃできないの?”って、言ってやった!ガハハ(ノ≧ڡ≦)」
そんな挑戦的なことを言っていじめられないありさはすごい…。
廉「俺も言ってやったぜ?」
風「れんれんも?」
廉「”俺は彼女が出来ても女友達は大切にするタイプやのに、みんなが俺の彼女に近づかないから自動的に俺もみんなに近づけなくて寂しいわぁ”って」
さすが恋愛マスター、「俺の女に意地悪してんじゃねーぞ!」とかみんなを責めるような言い方したら逆に私が反感を買うけど、みんなの気持ちを逆撫でしないように、まるっと収めてる(*∵*)
「全力で守る」って、行動でちゃんと示してくれたんやな…。
こうして再び始まるかと思われた悪夢のいじめの日々は、れんれんとありさの協力のおかげであっさりと幕を引いた。
そして、約束の金曜日。
また公園のベンチで2人並ぶ。
風「れんれん、ありがとう。ありさやクラスのみんなに言ってくれて。おかげでいじめが大きくなることなく解決した」
廉「ま、”付き合ってる”って勘違いは、否定せんといたけどなぁ~!ほんとになるかもって思ったからな」
ニヒヒといたずらっぽく笑う。
廉「これからも俺のこと利用してくれてええんやで~?」
このまま本当にれんれんと付き合ってしまえば、ありさの誤解を解く必要もない。
学園で強い力を持っているれんれんの彼女というステータスを手に入れれば、今後いじめに遭う心配もない。
そんなずるい考えが頭に浮かんだりもした。
だけど…
風「だけど…、
私やっぱりれんれんとは付き合えない…」
しばらく2人で沈黙する。
廉「一つだけ聞かせてくれる?あの頃俺にとって風ちゃんはめちゃくちゃ大きな存在だった。でも風ちゃんにとっての俺は違ったんかな?」
風「そんなことない!私にとってもれんれんはすごく大きな存在やったよ」
1人ぼっちのモノクロな世界で、れんれんは唯一の光をくれる存在だった。
廉「でも、そのわりに風ちゃん、全然俺のこと気づいてくれへんかったよな~。
転校初日、風ちゃんはまだ俺から移った関西弁喋ってて。まじ、死ぬほど嬉しかったよね。
それでさりげなく、“その人って、好きだった人?“って聞いたら、“そういうんじゃない“って言われてガクーってなったよね」(←1話)
風「だってそれは…」
廉「それで、”あの時の俺やで!”って言い出せんくなったもんね」
風「だって私、renちゃんて女の子やと思ってたから」
廉「へ?」
風「だってrenちゃん、あの頃めっちゃ声高かったやん!?今のれんれんの声と、全然違うやん!?」
廉「あー、声変わり前やったからな。今も声高い方やけど、声変わり前は確かによく女の子と間違えられてたわ…って、えぇっ!?あの頃ずっと俺のこと女の子やと思ってたん!?
でも普通に、喋るとき”僕”(←まだ僕呼びだった)って言ってたと思うけど?」
風「それは、女の子なのに男の子に憧れて自分のこと“僕“って言う子、時々おるやん?それかと…」
廉「風ちゃん…。岸くんと紫耀に続き、ここにもこんな天然がおったとは…(。-∀-)」
風「確かにあの時、renちゃんを女の子だって勘違いしてなかったら、恋愛感情の意味で好きになってたかもしれない…」
それくらい大きな存在だった。
もしれんれんがあのrenちゃんだってもっと早く知ってたら、岸くんを、平野を、好きになってなかった…?
廉「かー!風ちゃんの天然を恨むわ!女の子のrenちゃんて!思い出すもなんも、実在してないやん!」
れんれんはふぅーとため息をつく。
廉「まるで俺の人生そのものやな」
風「人生そのもの?」
廉「俺、けっこう転校する先々で、すぐに周りに興味持ってもらえる方やったんやで」
そりゃこの顔をお持ちなら納得。
廉「好きだって言ってくれる女の子もいっぱいおった。また、転校することになったって言うたら、みんな泣いてくれた。
でも、すぐ忘れんねん。
あんなに俺のこと好きだって言ってた子が数ヶ月後にはもう違う奴のこと好きになってんねん。もう会えなくなったら俺は過去の人で、その子の心から消えてしまうねんな。
俺いっぱい転校してきてるから、人の何倍もたくさんの人に出会う人生やねん。だけど、その誰の人生も残らない人間やねん。
卒業アルバムにも残らん。実際その時その場所に実在しとったのに、実在しとらんような存在。そんな存在やねん」
そんな悲しい言い方…。
廉「ええなぁ、風ちゃんは。いなくなって1年も経ってからアメリカから連れ戻しに来るような奴がおるんやもんな。ジェシーの中では風ちゃんの存在がずっと残ってたってことやもんな。俺なんか転校して別れた友達が会いに来たことなんて1度もないわ!
でもそれは風ちゃんと俺の違いなんかもしれんな。風ちゃんはいつも一生懸命人と深く関わってる。俺は人と深く関わることから避けてきたからしゃーないねんな」
れんれんが、また昔みたいに孤独を感じてる。
私が「ずっとそばにいる」って約束したのに、離れてしまったから…。
廉「だけど、風ちゃんには、ずっとまっすぐ気持ち伝えてきたつもりやねん。好きにはなってもらえんかったけど、風ちゃんの心の中に俺ずっと、残れる…かな?」
風「それは当たり前やん!でも、そんな、なんかお別れするみたいな言い方せんといてよ」
廉「長い片想いが終わるんや。これくらい感傷的にならせてや(笑)」
れんれんが力なく笑った。
いっそれんれんが本当に女の子だったら、一生大切な親友でいられたかもしれないのに。
どうして恋愛はたった一人を選ぶルールなんやろう?平野を好きでも、れんれんがすごく大切な人であることには変わりはないのに。
どうして、こんなに大切な人を傷つけなきゃいけないんやろう?
自分が拒絶したのに、なんでこんなに身を切られるみたいに心が痛いの?
もう、友達ではいられないかもしれない。
私、自分で自分の一番大切な理解者を手放してしまったのかもしれない…。
翌日、土曜日。
廉「よっ!」
寮にれんれんが訪ねてきた。
拍子抜けするくらいに、いつもと変わらない態度で安心する。
風「れんれん!遊びに来たの?中入る?」
廉「これから出かけるから。親が車で待ってんねん。風ちゃんにひとつだけ言いたいことがあってきたんよ」
風「ん?何?」
廉「風ちゃん、俺の人生にいてくれてありがとう」
え?
廉「それだけ伝えたかった。じゃ!」
そう言って、れんれんは行ってしまった。
なんやそれ?なんかお別れを言いに来たみたいやん。
海人「大変!大変!みんな大変だよ!」
中に戻ると、海ちゃんが大騒ぎしていた。
海人「今ママから聞いたんだけどね、れん先輩転校するんだって!今日、引っ越しちゃうんだって!」
えっ…!?
岩橋「何それ!僕達なんにも聞いてないじゃん!」
海人「しんみりするのが嫌だから最後までみんなに内緒にしてほしいって、先生に頼んでたんだって。発表は転校してからにしてって。うちのママは先生とつながりあるから、こっそり聞いてたんだよ」
神宮寺「じゃあ、俺たちに内緒で出ていこうとしてるってこと!?」
そんな…。じゃあ今、本当にお別れを言いに来たって事?
海人「今すぐれん先輩ちに行ってみようよ!まだいるかもしれないし!」
風「今、れんれん来てたの…。ご両親と一緒に車で。だから…もうそのまま出発しちゃったと思う。もう間に合わない…」
海人、岩橋、神宮寺「えっ!?」
神宮寺「追いかけよう!走ればまだ間に合うかも!」
岩橋「うん、行こう!」
海人「風ちゃんも早く!」
でも私、れんれんをふっちゃったんだよ?追いかける資格なんてある…?
海人「どうしたの、風ちゃん!?いつもの風ちゃんなら先頭きって飛び出してるところじゃん!」
海ちゃんが足踏み状態で「ねぇねぇ!」とせっつく。
岩橋「岸くんが先生と行くって決めた時も、紫耀先輩が名古屋に帰る時も、後先考えずに突っ込んでったじゃん!それが風ちゃんでしょ!?」
神宮寺「そうですよ!舞川先輩!」
気づいたら、3人をかき分けて飛び出してた。
風「れんれんー!待ってー!」
ちょうど信号で停まっていたれんれんちの車に追いつきそうになって、後ろでみんなでワーワー大声を出す。気づいて!気づいて!
信号が青になって車が走り出す。追いつけない…!だけど諦められない…!待って…!気持ちだけが空回りして、つまずいて派手に転んだ。
海人「風ちゃん、!大丈夫!?」
もうダメだ…追いつけない…。
そう思った瞬間、車が左に寄って停まった。れんれんが出てくる。
廉「風ちゃん!みんなもどしたん!?」
風「酷いよ!黙っていこうとするなんて…!」
廉「あ、バレちゃった?」
風「バレちゃったやないよ!どうして言ってくれなかったん!?」
れんれんはフゥーっと小さく息を吐いた。
廉「最後やって言うと、みんなこうやって感傷的になって涙の別れみたいになるやん?そうすると期待してしまうねん。コイツら、俺がいなくなったことをずっと悲しんでくれるんやないかって。俺のことをずっと覚えててくれるんやないかって。でもちゃうねん、いなくなったらすぐ忘れんねん。そういうことに毎回傷ついてる自分が嫌やねん。
安心せぇ。どうせお前らも、すぐ忘れんねん。ちょっと寂しいなー思うのは、今だけやねん」
そんな悲しそう顔して、そんな悲しいこと言わないで…。
風「私たちがれんれんのこと忘れると思ってる!?れんれんがいなくなって、私達が寂しくないと思ってんの!?そんなわけないやんっ!」
海人「れん先輩いなくなったら俺泣いちゃうよぁ~!」
岩橋「寂しいです!」
神宮寺「寂しくないわけないでしょう!?」
廉「…。だって、そんな…カッコ悪いやん、別れたくないってみんなにすがるなんて…」
風「カッコ悪くたってええやんっ!もっと弱さ見せてええんよ!寂しい時は寂しいって言って、泣きたい時は泣いてええんよ!
どんなれんれんでも、受け入れるから!
…私がそばにいる!ずっとそばにいるから…!」
れんれんが近づいてきて、ふわりと抱きしめられる。
廉「風ちゃん、ありがとう。俺、決めたわ!」
突然れんれんは車に駆け寄り、助手席の窓をバンバン叩いて窓を開けさせる。
廉「お母さん!俺一緒に行かない!ここに残る!みんなと離れたくないんや!みんなと離れるの寂しいんや!」
廉ママ「れん!?何言うてるの!?一緒に行かないとか、そんなことできるわけないやろ!?」
廉「海人!お前の両親の口癖は!?」
海人「”うちの寮は、いつだってワケありサッカー部員の味方です”」
海ちゃんが、ピースサインをする。
廉「俺、駆け落ちするわ!大好きなこいつらと!」
親の前で堂々と駆け落ち宣言をしたれんれんは、見たこともないくらい無邪気に笑って、私の手を引いて走り出した。慌てて、海ちゃんたちも後に続く。
神宮寺「マジで!?そんなこと本当にできんの!?」
海人「多分普通に受け入れるよ、うちの親(笑)」
岩橋「なんか思いもしなかった展開だけど、ますますこれから楽しくなりそう~っ!」
「廉!待ちなさい!」オロオロする、廉ママの声が遠ざかっていく。
~廉サイド~
モノクロな世界を背中に、俺は鮮やかな光の世界へと駆けていく。
俺に愛を教えてくれた君の手を取って…。