啖呵を切り合い双方自身の戦姫を『フィールド内』に放ち大戦を開始する。戦姫同士がやり合ってる中外で見守る二人もまた口論を繰り広げる。
「アンタにいくつか質問がある」
「それを私が素直に答えると?」
「別に会社の事情が知りたいわけじゃない。そんなの、お前からじゃなくてオッサンから直接聞くからいい。」
「なら、ある程度答えてあげますよ 」
「まず一つ、モール内に居たお客さんはどうした?」
「どうもしてないですよ?普通にお買い物を楽しんでると思います。」
「ここに来る途中人が明らかに減っていたんだがそれはどう説明する?」
「こちら付近のバトルスポットの調整のため封鎖するとお伝えしてあります。」
「なら次にここのスタッフ達はどう退かした?」
「同じ理由でバトルスポットの点検と称して1度立ち退いてもらった。」
「とことん僕達を許さないつもりか。」
「先程もお話した通り私らも事を大きくはしたくない。可能であるなら今ここであなたが降参と発するだけで全て丸く収まります。」
「純粋に戦姫大戦を楽しんでただけの人間(正確には戦姫)がなんでそっちの都合で狙われて負けを認めないといけないのか疑問だね」
「悲しいことですけど、社会とはこんなものです。都合が悪くなれば隠蔽を図るもの。」
「やっぱりこうはなりたくないな僕は」
「武力での行使が嫌ならお金でも解決できますよ?あなたを千万円で買いましょう。もちろんこの千万は前金です。我が社に入社すると言えばさらに千万。合計二千万を手にすることが出来ます。これなら悪くない話では? 」
「その額はかなり魅力的だな。」
「でしょう?なら、すぐに降参と……」
「けど、僕としては金額とかじゃなくてただ平穏な暮らしをしたいんだよね。それに僕お金に困ってないし、やりたいこと別途であるから額積まれても揺らぐことは無いよ」
「ではやはり武力を用いた方法かないですね。」
「てか、そもそもの疑問なんだけど僕を消したいならこんな事しないで直接やれば良くない?なんでこんな回りくどいやり方を…」
「確かにあなたを殺るだけならこんな回りくどい事はしないです。では何故このやり方をするのか?それはあなたの戦姫が特別だからなのですよ」
「アレが特別?」
「あなたは心当たりがあるはずだ。彼女が特別と言われるその理由を」
「……まぁ、心当たりあることと言われたら最近手に入れた例のスキルしかないね」
「そのスキルこそが君を生かしておく理由になるんです。」
「じゃあアンタらはあのスキルがなんなのか分かるってのか?」
「私らの見解は『覚醒』というスキルではないかと言うことです。このスキルは選ばれし者しか会得できないものと私は伺っていましてね、その調査を兼ねてこうして相対してるという訳です。」
「選ばれし者、か。あんなアホが『覚醒』とかいうスキルを所有してると言われてもいまいちピンと来ないけどね?」
「あなたには彼女の価値を見抜けていない。しかし、あのスキルを発揮するためにはあなたが必要、だから生かしてるのです。」
「その覚醒の発動条件に僕が必要な理由は?」
「私らの憶測でしかないものではありますが、大抵の戦姫はパートナーが不在では本来の力の八割程度、戦姫によっては六割程度の力が発揮しない事が判明してます。」
「へぇー。面白いデータあるじゃん。」
「その状態の戦姫は本来扱えるスキルもパートナー不在では何故か発動しないものもあったのです。つまり、スキルの発動は戦姫の精神と連動してる可能性があり、覚醒もその一つではないかと仮説が立てられました。」
「てことはなんだ?僕はその覚醒を発動させるためのパーツに過ぎないわけだ?アンタらミライソフトの人間からすれば」
「そう捉えてもらっても構いません。」
「となると尚更負けたくないしなんなら絶対ここを出て、世の中にこの会社の悪事を公表してやりたくなったね。」
「では、ここであなたを完膚なきまでに負かして『覚醒』のデータを取るための傀儡に成り下がってもらいます。」
二人が口論してる頃フィールド内では、二機の戦姫が一歩も譲らない戦闘を繰り広げていた。
「くっ!?なんなのアンタ!」
「うーん……。なんかミナとやった時と比べて私の動きトロいなぁ」
「たかだかFランクのクセに!!」
「そんなヤツとトントンの実力なの面白いね。君もしかして私よりも弱い?」
「馬鹿にしてぇぇぇ!!」
激情した相手は全ての武装を解放しフルバーストをカナに向けて放つ。
メイン射撃武装の【アサルトライフル】サブウェポンの【速射ミサイル】【拡散ミサイル】【腰部レールガン】惜しみなく彼女はその武装等を解放しカナを追い詰めに行く。
「さっすがに私と言えどこれは…」
その言葉を発するまもなく爆煙に飲まれ彼女の姿は煙に隠れてしまう。
「ふん。逃げ場を失いそのままミサイルに飲まれてくたばったか。まぁ、それが底辺戦姫にはいい結末……」
瞬間煙の中から一筋の光が彼女の右腕部を射抜く。
「あぁ…!?」
「いやぁ……。ビット避ける感じで避けてみたけど、爆風でちょっと傷負ったね。まぁミナとのあの二時間のお陰で軽傷なのは確かか」
「そ、そんな…。あの物量を避けたって言うの………」
「別に避けれ無いわけじゃないし、ミサイルなら撃ち落とせるしね。てか、煙でここまで前が見えないのは予想外だったけど、当てずっぽうに一発撃ってみるものだな。まさか命中するとは」
「Fランク如きに私は…私はァァァ!!」
本来射抜かれた腕は使い物にならないはずが彼女はその怒りを力に変え、何とか動かし肩部に付けたビームサーベルを手に取り、近接戦に持ち込む。
「私は…お前よりもランクが高くて、装備も良くて経験の差だってあるのに…。そんな私が負けるはず……負けるはずないんだァ!」
「なんか、私が悪者みたいになってるんですけどぉ!?私は仕掛けられた戦闘に応じてる、被害者なんですけど!?」
「ミライソフトの進撃の糧になれぇぇ!!」
活動に必要なENを全て消費し玉砕覚悟でカナに真っ直ぐ向かってくる。その行動にカナも止むを得ずサーベルを抜き応戦する。
結果は言うまでもなくカナの勝利ではある。しかし、彼女の中では気持ちの良い勝利とは言えなかった。自由がほとんどきかない右腕でサーベルを扱いカナを切ろうとするもその刃に勢いはなく誰であっても避けられるもの。諦めず立ち向かってくるその姿勢は勇敢でもなんでもなく、ただ哀しさが込み上げてくる。だが、そんな姿勢に同情もしてられないのが現状。それに、このまま試合を継続させる方が彼女を苦しめる…だからカナは心を殺して相手をする。覇気のない刃を大きく弾き、守るものがないその無防備な胴体を肩から腰に斜めに斬り裂く。
彼女のヒットポイントが無くなると同時に彼女は膝から崩れ落ちる。その際最期に小さく一言『私も……強くなりたかった……。』そう一言こぼした。
「これで僕の勝ちだ、ここからトンズラさせてもらうよ。」
「……あぁ。その約束だ。行ってもらって構わない。 」
「えらく親切だな?てっきり戦姫大戦に負けても力ずくで引き止めるもんだと思ったけど…」
「こんなのでも戦姫プレイヤーとしての礼儀は捨ててはいない。」
「じゃあ遠慮なく行かせてもらう。行くぞカナ、元凶のミシマとかいうオッサンぶっ飛ばすぞ。」
「……あぁ。」
肩にカナを乗せて店舗を後にする。残された一人の男は戦姫フィールド内に倒れ込む彼女を拾い上げカウンターに座らせる。『戦姫大戦』時の被弾は大戦が終了すると全てなかったことになり、外傷は消えるがその時に消費したENや戦闘時の感覚は残っている。
「なぁ…私は弱いままなのか?装備だって経験だって詰んでるのに、私は戦姫大戦のセンスがないのか?」
「……どうだろうな?私にも分からないよそんなの。」
「私のオーナーなのに……慰めの一言もないのね。」
「慰めの言葉を投げかけれるほど私は人ができていない。」
「………そう。なら、なんで涙を流してるの?」
「さぁな……。私も分からないよ。」
「私……。絶対強くなるよ。アンタの為に」
「私の為よりも君は君が生きたいようにしなさい。それが私の望みでもあるからな。」
「うん。あの子よりもつよく……。」
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