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それから料理が全て食卓に並ぶと全員で、「いただきます」と手を合わせてそれぞれ箸を取った。
「羽衣子ちゃんが手伝ってくれたお陰で今日は早く支度が出来て助かったわ」
登紀子が嬉しそうに微笑むと羽衣子は慌てて首を横に振る。
「いえ、私は大したことは何も……」
「そんなことないわよ。うちは見ての通り男所帯でしょう? 乙哉や皐月も料理を手伝ってくれるけど、やっぱり女の子と一緒に台所に立てるのは嬉しくて。娘がいたらこんな感じなのかしらって思っちゃったわ」
その優しい言葉に羽衣子は思わず目を潤ませる。
「登紀子さん……」
穏やかな空気の中、亮治もゆっくりと口を開いた。
「羽衣子さんが皆から好かれているのがよく分かる。昴や希海がいつも褒めているからな」
「組長……!」
思いがけない暴露に昴は照れくさそうに頭をかく。
その様子を見ていた希海は満面の笑みで羽衣子にくっつきながら、
「ぼく、ういちゃんすき!」
そんな真っ直ぐな一言に、食卓は一斉に笑いに包まれる。
「ふふっ、ありがとう」
羽衣子も自然と笑みを浮かべ、先程まで感じていた緊張はいつの間にかすっかり解れていた。
そして羽衣子が思ったのは、
(ここにいる人たちは誰一人として血の繋がりはないのに……まるで本当の家族みたい……)
本当の家族のような温かさ。
だからこそ、ふと兄の想汰のことが頭を過ぎる。
(お兄ちゃん……)
血の繋がりがあっても、分かり合えない人はいる。
反対に、血の繋がりがなくてもこうして心から相手を大切に思い合える人たちもいる。
家族であるかどうかではない。
本当に大切なのは相手を思いやる心なのだと羽衣子は改めて気づかされていた。
そんな兄への複雑な想いがほんの一瞬だけ羽衣子の表情に影を落とすと、その小さな変化を昴だけは見逃さなかった。
食事を終えると、亮治や登紀子が外まで見送りに出た。
「羽衣子ちゃん、またいつでも遊びに来てちょうだいね」
登紀子が優しく声を掛けると羽衣子は嬉しそうに笑みを浮かべる。
「はい! あの、良かったら今度お料理を教えてください」
「もちろん。いつでも大歓迎よ」
「ありがとうございます。楽しみにしています」
その隣では希海が元気よく手を振っていた。
「じいじ、ばあば、バイバイ!」
「それでは、また」
別れの挨拶を交わすと、一行を乗せた車はゆっくりと屋敷を後にした。
車内には穏やかな空気が流れている中、ふいに昴が口を開く。
「悪かったな」
突然の言葉に羽衣子は首を傾げた。
「え?」
「いきなり連れて行ったから、緊張しただろ?」
「あ……はい」
正直に頷く羽衣子に昴は少し苦笑する。
「まあ、組長の屋敷ってだけで緊張するのは無理もない。でも、あそこは俺にとっても希海にとっても実家みたいなものなんだ。できれば慣れてくれると助かる」
その言葉に羽衣子は柔らかく微笑んだ。
「最初は緊張しましたけど……登紀子さんも組長さんもとても気さくな方で話しやすかったので、もう大丈夫です」
「そうか。それなら良かった」
昴が安堵したように笑うと運転席の乙哉と助手席の皐月は顔を見合わせ、二人のやり取りを微笑ましく聞いていた。
やがて車は自宅へ到着し、羽衣子が希海と共に家に入ると昴が声を掛けた。
「羽衣子」
「はい?」
「希海が昼寝をしたら、俺のところへ来てくれ。話したいことがある」
少しだけ真剣な表情に羽衣子は不思議そうな顔をしながらも素直に頷く。
「はい、分かりました」
何の話だろう――そんな疑問を胸に抱きながら羽衣子は希海を寝かしつけた。
そして、寝息を確認すると静かに部屋を出て書斎へ向かい、コンコンと控えめに扉を叩く。
「昴さん、羽衣子ですけど」
「ああ、入ってくれ」
「失礼します……あの、お話って?」
書斎へ足を踏み入れた羽衣子が尋ねると昴は一拍置いてから静かに口を開いた。
「……吾妻 想汰ことだ」
その一言を聞いた瞬間、羽衣子の表情がわずかに曇る。
兄の話題になるとは思っていなかったのだろう。
無意識に指先を握り締め、どこか落ち着かない様子を見せるのだった。
コメント
1件
第79話、拝読しました。登紀子さんの「娘がいたらこんな感じかしら」という言葉に羽衣子さんが潤むシーン、とても沁みました。血の繋がりがなくても家族になれる温かさと、兄・想汰のことが一瞬影を落とす対比が切なくて。昴さんがその小さな変化を見逃さなかったところに、彼の優しい目線を感じました。最後の「吾妻想汰のことだ」で次回が気になりすぎます…!
#年の差
水無月 京
836
鷹槻れん

34,723
鷹槻れん

60,493
#強引