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そして――。 掛け声と共に開かれた弁当箱の中身を見て、一同は驚愕した。
「え、なにこれ……普通にヤバくね?」
「こ、こ……これは……『アニマルフレンズ』のろっぷちゃんじゃないですか!」
秒速で食いついたのは、意外にもクールな弓弦だった。
「え? なにそれ? 有名なの?」
「さぁ……?」
蓮とナギが顔を見合わせる中、雪之丞の弁当の中央には、可愛らしい垂れ耳の白いウサギを模したおにぎりが鎮座していた。周囲を彩る唐揚げやウィンナー、そして人参で丁寧に飾られたブロッコリーは、まるでクリスマスツリーのような華やかさだ。
「おおっと、これは……料理のアートだぁーっ!」
銀次が大げさな実況口調で叫ぶ。
「見よ! この細部までこだわり抜いたデコレーション! 観客のハートを鷲掴みにする一撃だぁー!」
「小さい子を持つお母さん世代が見たら、一瞬でバズるやつだ、これ……」
ナギが感心したように呟く横で、弓弦は興奮を隠しきれない様子でスマホを取り出し写真を撮りまくっている。
「凄いですよ、棗さん……あ! 写真、撮ってもいいですか?」
「え? あぁ、うん……いいけど、なんだか恥ずかしいよ」
雪之丞が頬を染めて俯くのも構わず、弓弦は夢中でシャッターを切り始める。
「僕は、草薙君の反応の方にビックリなんだけど」
「……同感。まぁ、いわゆる『ギャップ萌え』ってやつ? 今のシーン、固定カメラにバッチリ映ってるしね」
普段の冷徹な空気はどこへやら、キャラ弁に夢中な弓弦だったが、ふとカメラの存在を意識したのか、コホンと大仰に咳払いをして表情を引き締めた。
「ま、まぁ……非常に可愛らしく、食欲をそそるお弁当ですね」
「今さら取り繕っても遅いって」
「シッ。おじさん、本人に聞こえるから!」
わざとらしい演技を続ける弓弦に蓮がツッコミを入れると、東海が慌ててそれを制止する。
「っていうか……美月のやつは、見た目がもう……対照的すぎるな」
全員の視線がもう一つの弁当箱に移った。そこにあるのは、見事なまでの「茶色一色」。いや、所々に炭のような黒い物体が混ざっており、もはや正体不明の「何か」としか言いようがない代物だった。
「……お弁当なんて、もっと簡単だと思ったんだけどな」
美月が悲しげに目を伏せ、しょんぼりと肩を落とす。広いキッチンに、何とも言えない重苦しい沈黙が流れた。
「――さぁ! こちらは波乱のダークホース、美月選手の作品! その正体やいかに!?」
銀次が木べらをマイクに見立て、執念の実況を続行する。
「おっと、見た目は完全に茶色王国! ところどころに黒い岩石のような物体も確認! これは果たして食べ物なのか、それとも未知の物質か!?」
「――これ、見た目はアレだけど、意外とイケるぜ?」
沈黙を破ったのは、意外にも東海だった。 彼は黒く変色した卵焼き(らしきもの)を躊躇なく摘み、口へ放り込んだ。もぐもぐと咀嚼すると、意外なことに次々と箸を伸ばしていく。
「いいよ、はるみん。無理しなくて……」
「無理なんてしてねぇっての! お前、自分で食ってねぇだろ。ほら、食ってみろよ」
東海が差し出した皿から、美月が恐る恐る一口食べる。
「ん……あ、本当だ。意外と食べられる」
「だろ? つーか、作る時は味見くらいしろよな」
「だって、時間がなかったんだもんっ」
呆れる東海に、美月はぷくっと唇を尖らせた。
「『だって』じゃねぇよ。……でも、俺は結構好きだけどな、これ」
「へぇ、じゃあ僕もいただこうかな」
「じ、じゃあボクも……」
全員が恐る恐るその「黒い岩石」を口にする。すると――。
「これは……」
「……酢豚、だったんだね」
蓮がポツリと呟いた瞬間、銀次の声が響き渡った。
「正体判明ーっ! 波乱の黒い物体、その正体は『酢豚』だったぁー!」
場に乾いた笑いと安堵が広がる。その後、全員で二人の弁当をシェアし、雪之丞がデザートに用意してくれたフルーツポンチを堪能して、対決は雪之丞の圧勝で幕を閉じた。
「それにしても驚いたな。雪之丞があそこまで器用だったなんて」
午後からの撮影を終え、ホテルへ戻る道すがら。蓮はナギと並んで歩きながら、昼間の出来事を反芻していた。
「プログラミングができるだけでも凄いのに、料理までプロ級なんて。ゆきりんって本当に多才だよね」
「そうだな……。正直驚いたよ。あいつ、自分の特技をひけらかさないから」
これほどの才能があるならもっと自信を持てばいいのに、と蓮は思う。長い付き合いだが、彼がここまで家庭的だとは知らなかった。
それにしても、雪之丞があんな可愛らしいキャラクターを知っていたことにも驚きだ。アニメに疎い蓮でも絵柄くらいは見覚えがあるが、名前までは知らなかった。
「驚いたと言えば……弓弦がめちゃくちゃ食いついてたな。いつも澄ましているのに、子供みたいに目を輝かせてさ。『食べるのが勿体ない』なんて言って、スマホで連写してたろ。待ち受けにする気かと思ったよ」
「あはは、確かに。あの時の草薙君は珍しく感情が漏れてたよね。普段が大人びている分、年相応に見えたっていうか」
今日の料理対決は、メンバーの意外な素顔を次々と暴いていった。 雪之丞の器用さ、弓弦の無邪気さ、美月の意外な弱気、そして東海の不器用な優しさ。 きっと、こうした機会でもなければ気づけなかった一面ばかりだ。
そんなことをナギと語らいながらホテルへ辿り着き、近道をしようと中庭を横切ろうとした、その時だった。
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