A級最下位とも呼ばれる雛百合隊には色々と秘密があった。
隊員達のサイドエフェクトは勿論のこと、隊員達の本性というか性癖というか・・・そういったものや知識にまつわるもの。
とにかく様々なモノが秘密なのであった。
隊員以外の存在に。
「雛~?雛どこだー?」
ラウンジで声を出して人を探すのは御影だ。雛百合隊唯一の男であり、割りと常識的・・・と言われている人だ。
「どこ行ったんだよ。今日は真澄ちゃんと特訓(切り合い)だって言うのに。」
呆れたようにため息をついた御影は前から走ってくる同じ雛百合隊に属する琴音を見つけた。
「あ、琴音。」
「御影!」
琴音は楽しそうに御影を呼ぶ。
「あのねあのね!」と、楽しそうに話し始める彼女はボーダーの顔とも言える嵐山准の妹らしいのだが、琴音本人は否定している。多分変に注目を浴びたくないという彼女の意思の現れなのだが、他の人からすれば「反抗期」というものに写るらしく、よく琴音は隊室で文句を言っている。
ひとしきり話して満足したのか
「練習行ってくる!」
と、再び駆け出した。
「転けるなよー?」
という言葉に「大丈夫ー!」と手を振ってから琴音は人混みに紛れていった。
琴音はまぁいいか。と自己完結させて御影はボーダー内を歩き回った。途中何人かとすれ違ったものの、特に何もしていない御影を認識する事なく、すれ違ったことさえも気付く事ないボーダー隊員達。
御影はそれを仕方ない事とわかりつつ
「少しだけ悲しくもあるよなぁ。」
と呟いた。
「なにが?」
その声に少し驚きつつも
「雛みつけた。」
認識されない自分を見つけるのは雛百合隊の隊長である雛百合ぐらいしかいないと判っているので何時ものように肩を竦めて答える。
「んー?見つかった~。」
よくわかっていないのにヘラリと笑う雛百合に御影はため息をつく。
「今日は真澄ちゃんと特訓でしょ?」
「あー、忘れてたわ。今から行く。」
ケタケタと笑いながら真澄のところに向かう雛百合が寄り道したりしないように御影も後を追いかける。
こうして二人で歩くのも珍しくはないが、雛百合と御影は互いに必要だった。自分を認めてくれた御影と自分を見付けてくれる雛百合。お互いが人気の無い廊下で出会い、そしてお互いに相手に希望を見出だした事で結成された雛百合隊には色々な意味でスゴいメンバーが集まった。類は友を呼ぶという奴か。と御影は笑いを堪えられなかった日を思い出す。
二人で結成し、雛百合が同じクラスの風間を勧誘してオペレーターにし、真澄の隠し事に気付いて受け入れて、隠れていた琴音に手を差しのべた。大体やったのは雛百合だが、それを後押ししたのは大体御影だ。
楽しいことが大好きな二人は今のところ止まる気配はない。
「今日はどうなるだろうね~?」
「さぁ?まぁ、なるようになるんじゃない?」
「だよねー。」
雛百合隊の行う真澄の特訓は「切られたい、痛みを感じたい」という痛みに快楽を見出だす系マゾである真澄が痛みをより長く感じるために致命傷を避けるという特訓で、真澄との切り合いともいうし、真澄を欲求を満たすためのモノでもある。
本来トリオン体は痛みはないが、雛百合と御影が技術部門の人達に「真澄に危機感を覚えさせるために!」という事実を織り混ぜたような嘘ではあるが本当に聞こえる内容を伝え、頭を下げ、必死に頼み込んだことで実現した痛みを感じるトリオン体なのだ。勿論、本来の痛みを大幅減少させているのは雛百合達の譲歩であり、技術部門やその他大勢に疑われない様にするためにも必要だったとも言える。
真澄もそれを解っているので痛みを感じるトリオン体という特例にとても感謝していたし、自分のためにそこまでやってくれた雛百合と御影が大好きでもあった。
隊室につくなり真澄が拗ねたように
「おっそい!」
と言う。
「ごめんごめん。」
雛百合が苦笑しつつ謝れば
「もういいよ。ほらはやくしよ!」
とすぐに機嫌を直してトレーニングルームへと雛百合を引っ張っていく。
「あーれー。」
棒読みでそう言った雛百合に手を振りつつ、トレーニングルームの準備をしていた風間に声をかけた。
「今日はどんな感じでやるの?」
「んー・・・とりあえず一度はシンプルに。」
「ふーん。」
外では口数の少ない風間も、隊室や雛百合隊のみなら人並みに喋る。
「興味無さそう。」
「例えどんなものでもやることは一緒だろ?」
「そだね。」
ルームの中で切られている真澄は傷が増えるにつれ恍惚とした表情になり、痛みを噛み締める様に身をくねらせた。
「真面目にやれ~。」
野次を飛ばすも真澄には聞こえておらず、雛百合は苦笑するのみだ。
アタッカーとしての真澄は強い。自分を省みない攻撃や身を切らせて骨を断つのではなく、本当に、純粋に強い。が、それを知っているのは雛百合隊のメンバーくらいだ。真澄にとって傷を負いつつ戦うのが好きなので防御は適当にすませ、あえて傷を負うスタイルにしている。
痛みが好きでも死にたくはないらしいので真面目にやるところは真面目にやるので雛百合と御影は「まあいいか。」ですませてしまっている。
今までは世間としては受け入れられにくい自分の本性を理解していたので必死に隠して生きてきた。(それはそれで焦らしプレイのようで快感だったらしいが)それゆえに他者と馴染めずにいたところを何故か本性を見抜いた雛百合が隊に入れたのだ。
「なんて解ったの?」と聞いたら
「感?」と返され皆で呆れたのは仕方ないとも言えるだろう。
ある程度してルームから出てきた真澄と雛百合に
「おつかれ」
とタオルを渡す。
二人は「ありがとう。」と言ってタオルを受け取り、雛百合は困ったように言う。
「真面目にやったらアタッカー1位になれそうなのにね。」
それを聞いた真澄が
「今のままで満足だよ?」
と不思議そうにいう。確かに真澄としては傷を負いつつ戦えるのは嬉しい事なのだろうが
「強いと認められればより強い人と切り合えるのに?」
そう言いつつもわかっているのだ。真澄にとって大事なのは強さではない。手加減せず、本気で切り合いをしてくれる人。それは当然真澄の事情を知る雛百合達でもある。そして、雛百合達が理由を誤魔化して作ってくれる切り合いの場所だ。
「強いとか興味ないよ。私は。」
当然と言わんばかりのその表情に雛百合と御影は「だよね。」と思わず笑ったのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!