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六条院の暴挙、望拉致事件から三ヶ月。
それからは、六条院も大人しくしておりまた平穏で愛すべき日常が戻ってきた。
昼休み、他クラスの女生徒までも六条院に群がるのは非常に邪魔臭かったが、そこは我慢していた。
僕自身は、相変わらず学校の成績はギリのギリだったが落第しない為に何とか食らいついていた。
「天馬ぁ、最近なんか面白いことあった~?」
ダルそうに教室の窓からテニスをしている女生徒を見ている一二三。
「ないね~」
「魔物のクソヤロウを早くぶっ殺したいよな~」
「う~ん…。一二三は恐くないの? 魔物と戦うのって」
「全然恐くないな。楽しみしかない。早く捻り潰したい」
目をキラキラさせて、魔物を殺すことを夢見る悪友から離れ、自分の席についた。
湿気を帯びた空気。夏が近づいてきた。
前回魔物が出現してからもうすぐ半年が経とうとしていた。世界中に散らばる『闇人』。いつでも異世界のゲートが開いても対処できるように魔物を狩る者の中でも討伐ランキング上位者は、すでに主要都市に配置されていた。
当然、ランキング一桁(姉さん六位、兄さん四位)の二人も先週から海外に派遣されている。
その為、本来なら誰の目も気にせず、しばらく独り暮らしを満喫出来る。そうなるはずだったのに………。
「夕飯は、魚で良い? 秋刀魚焼こうか。大根おろしもあった方が良いよね」
「………うん」
通い妻のように、望は毎日我が家に夕飯やら洗濯、掃除をしに来ていた。ありがたい反面、一人で好き勝手出来る時間も限られ、そっとしておいて欲しいとも思っていた。
「何が、そっとしておいてほしいだよっ! 人の好意にはもっと感謝しなよ!!」
どうやら心の声が漏れていたらしい。望には、般若のような顔で睨まれた。
「はい。毎日感謝しています。望様」
「なんか腹立つ言い方。はぁ~……。ところで明日の準備はもう済んでいるんでしょうね?」
「は? 準備ってナニ?」
「嘘でしょ。明日から三日間、東京でプロ活でしょうが! もしかして忘れてたの?」
「いやっ! 覚えてる覚えてる。うん、そうだな。明日は、プロ活」
「…………」
「……………」
ヤバい。すっかり忘れていた。
【プロ活】とは、殺し屋の卵である僕達に魔物討伐のプロが訓練をつけてくれる、地獄のような合宿のことだ。
落ちこぼれの僕は、毎回偉そうな講師に怒鳴られ、走らされ、しごかれていた。
いつもは地元のキャンプ場で強制合宿だが、時期的に今回はいつゲートが開いても対処出来るように、プロ講師がいる東京に僕達の方が向かうことになっていた。
「うっ………」
鬱が凄まじい速さで全身を満たす。吐きそうだった。
「大丈夫? 顔が真っ青だけど…」
「ふぅ…………うっ!」
「大丈夫じゃないね。ある程度の身支度はやってあげるから、最低限の準備だけは自分でしなよ」
「うん………」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
魔物討伐を請け負う会社『ニューワールド』。そこに登録されている殺し屋は、数万人。東京にあるその日本支社にやってきた。広いロビーでバス旅で疲れた僕達は待たされた。この百階建てのビルの中で三日間も過ごすことになる。
項垂れているのは僕だけじゃない。合宿のキツさを知っている者達からはタメ息が漏れていた。
「帰りてぇーーー!!」
一二三の叫びがロビーに響き渡る。
「フフ…素直ね」
僕達の前に現れたのは、いつものゴツい筋肉講師ではなく、色白で着物姿の優しそうな女性だった。
いや! ってかさ。
「これから三日間、皆さんを受け持つことになった黒龍 夕月(こくりゅう ゆづき)です。前の担当者は、体調不良によりお休みです。私が臨時講師として皆さんを担当します。宜しくね」
ザワザワザワザワ。
これ以上にないほどの笑顔で僕に手を振る姉ちゃん。姉ちゃんと仲の悪い望は、明らかに不機嫌になり、小声で不満を漏らした。
「なんであの女が……」
「やったーーー!! 夕月さんに手取り足取り。最高な合宿になりそうだぜ。ヒャッホーー!!」
望とは対照的に嬉しくて跳び跳ねている一二三。
今までとは違う。色々と大変な合宿になりそうな、嫌な予感が僕を襲っていた。