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#プロセカ
隼人, ❥ ↝💫💛😈🔥
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「…っしゃ勝った!ちょろいで?鳴海さん」
「うるせえなオカッパ!!手加減したんだよっ!」
「言い訳小学生やん」
「お前ほんとにやったことないのか?ボク様が初心者に負けるわけないだろ」
「こういう…対戦型格闘ゲーム?は家庭の事情で禁じられてたんで初めてゲームしたの大人になってから鳴海さんとやったやつですわ」
「……え、家庭の事情エグ。」
「何やねんその間。ごく普通の家庭やで?」
「えー…『室町時代から代々続く関西の有力な怪獣討伐の家系』が普通の家庭なわけないだろうが」
「カンペ読むのやめてww」
「まぁお前の出で立ちは関係ない。てかボクが初めての相手ってことだよな。…光栄に思えよ?」
「それはちょっと…この一文だけやと語弊しか生まへんで鳴海さん」
「何が語弊だよ」
「察してもろてー」
「…んだよ気色悪いな。もう一戦するぞオカッパ。次は絶対勝ってやる」
「さいですかー…いやそこで大技出したら落ちるて!!」
「そういうゲームなの!!」
…
「…これで僕の25勝5敗やで。まだやります?」
「うるさいうるさい!どうせお前の数え間違いだろ!!」
「今どき小学生でもそんなお粗末な言い訳せぇへんで…」
「次勝ったら+25点だ」
「あなたは一体どこまで小学生なんです?」
「糸目は黙っとけ!」
「飽きませんねぇ。見た目いじり」
「ほらもう一回すんぞ。今度こそ勝つ!!」
「それもう今日だけで言ったの何回目やねん!…あ。いや、僕もう帰りますわ」
「は!?勝ち逃げか?このボクが逃がすわけないだろ!」
「とっくに日またいどんねん!そろそろ帰らな夜明け前に立川着かへんて」
「一時間ありゃ十分じゃねぇの」
「それ適応されるのGoogleマップ上だけやから…。実際はもっとかかるて」
「ふーん。ならこの勝負は持ち越しだな。絶対逆転勝利して吠え面かかせてやる」
「なんでまた来る前提やねん…。なら、僕が勝ったら何か奢ってもらうで」
「言ったな?ボクが勝っても奢りだからな、 保科」
「はいはい。ほなね、鳴海さん」
保科が部屋を出ていく。
一日中ついている廊下の電気が部屋に明るく流れ込んで、閉まるドアに連動して細くなる。
完全に一人になり、静かになって。
薄暗い部屋が一気に広くなった。
ゲーム機の電源を落とし、テレビを消す。
あいつが座ってたとこには、まだ体温が残ってた。
「…いや勝手に帰んなよな」
当然、誰からの返事もない。
あいつは、長谷川とかに捕まらず有明を出れただろうか。
まぁ、あいつなら上手く誤魔化せると思うけど。
…見てろ。
明日こそは、勝ってやる。
その後、夜は何事もなく過ぎ翌朝。
明け方近くまでバカをやっていた大人のうちの片方は珍しく優しく起こしにきた長谷川によって早起きすることになる。
「おい鳴海。さっさと起きろ」
「…ん…?長谷川がそんな優しく声で起こすなんて珍しいこともあるもんだな…」
「失礼なことを言いながら二度寝するな」
(相手が鳴海の場合に限り)仏の顔は一度派の長谷川にハリセンでシバかれる鳴海。
「どうせまた一人でゲームでもしてたんだろ。おい三度寝に突入するんじゃない。起きろ鳴海」
再度ハリセンがクリティカルヒットする。
「はぁ?一人じゃないしー。昨日は…」
言いかけてはたと止める。
「…ネッ友と遊んでたしー…」
「くだらん」
「うるさいな!大体、こんな朝早く起こすやつが悪い…」
三度目のハリセンが飛んだ。
第3部隊の朝もいつも通りだった。
起床ラッパで目を覚ました隊員の賑やかな声が静かな基地に一つ、また一つと増えていく。
亜白ミナは起床ラッパが鳴るとっくの前から起きて仕事をしていた。
毎朝、この時間にはすでに2人分の気配がある隊長室には、自分一人だけ。
書類を眺めながら廊下を歩いていく足音に耳をすます。
微妙に抑えられたあの足音はいつまで経っても聞こえなかった。
――珍しいな。寝坊か?
顔を出したら、そう声をかけてからかってやろう。
いたずらを仕組む子供のような目で亜白は考える。
騒がしい廊下と静かな隊長室を隔てる扉。
控えめなノックが部屋を満たした。
別にそんな必要なんかないのに、速攻で書類を読んでいたフリをする。
「…入れ」
気持ちを無理やり抑えて平坦にした返事から一拍置いて遠慮がちに扉が開く。
「…失礼します」
どこかの小隊の平隊員。
想像した人物でなく、安心半分、心配半分の亜白をゆっくりと見上げて言葉を発した。
「…保科副隊長のことで、確認したいことが」
午前11時半。
ちょうど、会議中にもかかわらず堂々とスマホでゲームをしていた鳴海に、着信があった。
ボス戦まぎわの局面。
コンマ1秒で電話を切る。
再度の着信。
また切る。
何度切ってもしつこくかけ直してくる相手に苛立ち、鳴海は渋々電話を取った。
「…何だよ。今忙しいんだが?ボク様に何度もかけてくるたぁ、いい度胸してるじゃねえか。」
ゲームは継続しながら電話に出る。
「…もしもし。鳴海か?」
「…そうだが?」
お前がかけたんだよな??とでも言いたげな一言。
電話相手が誰かなんて気にしてもいない。
あくまで鳴海の興味はスマホ画面のゲームにあり、電話の相手にも、会議中に堂々と電話取るなよ…というまわりからの目線も眼中になかった。
「こちら亜白だ。…鳴海。」
「あ?」
「…保科のことで、話がある」
絶えず動いてキャラを操作していた手が、止まった。
「…で?何だよ。話って」
ゲームを切り上げ、勝手に会議を抜け出した鳴海は廊下の壁に寄りかかる。
「…どうせゲームでもしてたんだろうが、忙しいとこ悪いな」
「うるせえな。それだけなら切るぞ」
「それだけなわけないだろう」
「ボクは忙しいんだ。会議中に電話してくるんじゃない」
「……なぁ、鳴海」
亜白は少し間を置いて鳴海の名前を呼ぶ。
「昨日の夜、保科と一緒に過ごしていたのか」
鳴海の手からスマホが滑り落ちた。
研ぎ澄まされた反射神経をフル活用し、反対の手で地面に落ちる前に掴む。
「あっぶね…で?だから何だよ。保科に何の関係があるのさ」
「…」
「…何」
電話越しの沈黙。
鳴海の声のトーンが落ちる。
亜白がわずかに時間をかけて言葉を選び、迷うように口に出した言葉。
「……保科が、事故に遭った」
また、スマホが手から離れた。
今回は掴めなかった。
地面に落ちたスマホをぼんやりと眺める。
「…おい、鳴海。聞いてるのか」
電話口の亜白の声で我に返る。
震える指でスマホを拾い上げた。
「……は…?今…なんて」
さっきのが、幻聴か、もしくはタチの悪い冗談であって欲しかった。
冗談なんて言うやつじゃないのは知っていたけれど、わずかな可能性にかけてもう一度聞き直す。
「…保科が、帰宅途中に事故に遭った」
「…ん…っ…」
「鳴海。大丈夫か…」
「……いつ」
「鳴海?」
「いつ?どこで?昨日の何時だ?知ってるんだろ?答えろ亜白」
「……落ち着け鳴海。…私も詳しくは分からない。すまん」
「…そうか。ならこっちで調べる。せめてどこであったかだけは教えろ」
「大きな事故だったらしいからな。調べたら…すぐ出ると思うが」
「じゃあ、なんで調べないんだ、」
「…」
亜白が沈黙したのを聞いて、質問を失敗したと悟る。
「亜白。すまな…」
「…怖いからだ。当たり前だろ。…情報が入り次第、また連絡する。じゃあな」
「まて亜白…」
電話は強制的に切られた。
怖い。あの亜白が、明確に恐怖を示した。
それはそうだ。
検索欄にのばした指が止まる。
何度も、何度も。
それでも意を決して、検索欄を開いた。
文字を打たずとも、急上昇中のワードに”事故”の2文字がいくつもでていた。
そのなかに度々含まれる、”犠牲者”の単語。
見たくない。
知りたくない。
このまま知らなかったことにして、スマホを閉じたい。
でも――
知らなきゃいけない。
確かめないといけない。
ここで逃げたらもう二度とスマホを開かないだろう。
ならここで…一気に知ってしまえ。
冷たくなった指先で適当なワードを押した。
『【速報】東京都江東区有明地区で大規模事故発生』
速攻で目に入るニュース速報。
危うく戻るボタンを押しかけた指でそれを開く。
『午前3時22分頃、東京都江東区有明の首都高速湾岸線で大型トレーラーが横転。後続車両を多数巻き込む玉突き事故が発生した。』
長々しい文字の羅列がもどかしく、斜め読みしながらスクロールする。
『負傷者は多数に上り、現在、身元の確認が急がれている。』
記事はそこまで。
今朝おきた事故ということもあり、曖昧な情報が多かったのだろう。
ヘリから撮ったのであろう写真には、見るにたえない事故現場がはっきりと写されていた。
前に人づてで聞いたあいつの車種を必死に思い出す。
何度も拡大しようとするが、画質が荒く、頼りの記憶さえあやふやで。
車種の判別まではできなかった。
くそ。そんくらいちゃんと聞いとけばよかった。
昨日、ゲームの合間にでも聞けばよかった。
あるいは、ちゃんと覚えておけば。
というか、土台っから、もうちょっと引き止めておけば。
むしろ帰さなかったら。
ボクと夜明けまでゲームに興じてなかったなら。
こんなに周りの人間を心配させることもなかったのに。
「あのとき、こうしていたなら…」が今この現実に何の変化も及ぼさないことは、頭じゃ全部理解していたけれど。
こうやって自責で心を守るしか方法がなかっただけだった。
それからさらに1時間ほど経った。
ポケットに突っ込んだスマホが震える。
さっきは確認もしなかった電話相手。
亜白の名前がしっかりと刻まれていた。
「…もしもし」
しばし悩んだ末、電話を取る。
「…鳴海。良い知らせと悪い知らせ、どっちが聞きたい」
「どっちも聞く」
選択肢を与えるようで与えていない亜白に対し、鳴海も強行突破に出る。
「良い知らせは、保科は…まだこの世界にいること」
「まだ…生きてるのか…?」
「悪い…知らせは……」
――もう、残された時間があとわずかしかないこと。
聞き終わる前に走りだしていた。
スマホから聞こえる亜白の声も耳に入らない。
窓枠を蹴った。
スーツもなし、装備もなしの生身。
耳元で渦巻く風。
完全に地面に叩き付けられる前に街灯を利用してスピードを落として。
摩擦で手が焼き切れるほどの熱を持ったが、構ってる暇はない。
スマホじゃなく、インカムから亜白の声がした。
無理やり通信回線を開かれたらしい。
「まさかだと思うが、そのまま飛び出してないだろうな鳴海」
「そのまさかだ!居場所教えろ居場所!!」
「お前ならやりかねんとは思ったが、本当にやるとは思わなかった」
「いいから場所教えろ!!がむしゃらに走るほどボクもバカじゃない!」
「今どこだ?」
「知るか!!有明基地らへんだよ!」
「最短経路を送る。…無茶するなよ」
「目的地は!?」
「東京湾岸高度救命センター…だそうだ。ナビする」
「亜白…今だけは感謝する!!」
スマホ片手にビルを駆け上がる。
「…鳴海?今…どこにいるんだ」
「屋上ショトカ」
「何してるんだ…」
「いいからさっさと道案内してくれ」
「…そこのビルを北西に4つ越えて地上に降りろ」
「了解」
生身とは思えないスピード。
狭いとはいえ、幾分はあるビルの合間を軽々と飛び越える。
「ナビが追いつかない…小此木!全力で追え!」
亜白側の焦った声がインカム越しに届く。
「地上。おりたぞ。次はどっちだ」
「そこの地下に潜れ。最短はそっちだ。…人は多いが…お前ならいけるだろ、鳴海」
「愚問!」
未来視発動。鳴海の目が光る。
誰が立ち止まる?
誰がふりむく?
どこなら通れる?
すべての人間の動く先を読んで。
「最短ルートを叩き出す!」
駅構内の人混みを一気に駆け抜けた鳴海に気づいたものはほとんどいなかった。
そして、強力で、大怪獣を単騎討伐できるほどの力を持つ識別怪獣兵器1号を人混みを通るために使った使用者も過去にいなかった。
「お前、本当に人間か?」
「正真正銘人間だが」
「そんな芸当、普通は出来ない」
「ボクを誰だと思ってるのさ」
ナビを見ながら、周囲の未来を読み切って走って。
どう考えても人間じゃない。
「…まぁお前はそういうやつか。――そこだ。4番出口。でてすぐ左。その後直進。正面のビルを2つ越えた白の建物だ。まだ、体力はもつか?」
「当然だ!!」
もはやビルを飛び越える事さえルートに入れられている。
恐るべき防衛隊のナビ機能における対応力。
即答で余裕を見せた鳴海だが、体力が無限にあるわけじゃない。
迷いだけは全くなかった。
ただ、インカム越しに聞こえる荒い呼吸だけが、その言葉とは裏腹に限界が近いことを伝えていた。
「…鳴海」
「なんだ!!」
「…本当に無茶するやつだ」
「無茶、なんか…っ!」
してる。無茶しかしてない。
でも、無茶を積み重ねてここまで来た。
車で30分かかる距離をたった14分で走破した。
「もう少しだ」
亜白の小さな励まし。
「そこだ。 正面の建物。第4救命処置室だそうだ。行け。手回しは済ませてある」
鳴海は足を動かそうとして、その場に立ち止まる。
体はとうに限界ではあった。
だけどそれもただの言い訳に過ぎない。
怖い。
間に合わせるために走った。
間に合わせるために、ここまで来た。
もし間に合ってしまったら、その先に何があるのか、なんて考えていなかった。
もし、会えてしまったら。
もし、目の前で失ったら。
怖い。足が進まない。
「…鳴海」
インカムから、静かな声。
「会うために、ここまで来たんだろ。もう一度会いたいから、無茶したんだろ。…行け、とも、引き返せ、とも言わないが、後悔しない方を選ぶんだな」
それで吹っ切れた。
怖くても突っ込むのがボクだ。
たった一人のために、こうやって命を張れたのがボクだろ。
病院内は、やけに静かで。
消毒薬の匂いが鼻をついた。
足音が妙に大きく響く。
第4救命処置室。ここだ。
ドアノブに手を伸ばす寸前、やっぱり躊躇した。
その恐怖も、焦りも、全部踏み倒して扉を開ける。
「保科!」
心電図モニターの機械的なリズム。
包帯にまみれたあいつは一拍遅れてこっちを視認した。
「…鳴海さん?」
探し求めた相手が、自分を呼ぶ。
ボクの次くらいには最強だったあいつは弱々しく笑った。
そんな顔すんなよ。
お前は……お前は、生意気なやつだろ?
いつものあの、気に入らねぇ何でもお見通しみたいな笑顔でもしとけよ。
普段は、小馬鹿にするみたいな態度でボクに接するくせに。
自分が一番余裕ないくせになんで落ち着いてるんだよ。
「…そんな…自分が痛い、みたいな顔…せんでも」
掠れた声。
間に浅い呼吸が入るせいで、途切れ途切れになって。
あいつのほうが苦しいに決まってる。
本当は死ぬほど苦しいはずなのに、あいつにはまだボクを見る余裕があるんだ。
なんで。
お前に向けられるはずの顔だろ。
ボクがお前に向けなきゃいけない感情だろ。
ボクは弱い。
山程の理屈で武装しても、目の前で優しく笑う生身のこいつに敵わない。
弱いから、その顔をお前に向けてやれない。
「保科…ごめん…っ」
いくら強くなったって、救ってやれない。
これから先もずっとずっと、ボクにはこいつが救えないままだ。
「なんで…謝るんですか。鳴海さん…は…悪いことして…ないでしょ…?」
困ったように眉を寄せる。
その悲しいくらいに優しい目さえ、今のボクには守れなかった。
泣きたくなるような、相手への優しい気遣いに、ただただ自分の無力さを思い知った。
「なぁ、保科」
保科は首をわずかに傾ける。
「その、何か、ボクに出来ることはあるか」
この人がそんなことをいうなんて意外だった、とでもいうように目を見開く保科。
その後目を細めてふっと笑った。
「…何、言うとるんです…」
――来てくれたや、ないですか。
「…違うよ」
ボクは何もしてない。
何もできてない。
いっそのこと責められた方が楽だったのに。
こいつには最初から、ボクを責める気も余計に傷つける気もなかったっていうのか。
ざけんな。
ずっと守られてばっかりじゃねぇか。
ボクがコイツを守らないといけなかったのに。
どうせ、怖いくせに。
泣きたいくらい痛いくせに。
もう守られるのなんてウンザリだ。
最後くらい、弱いとこ見せろ。
その時、病室の扉が控えめにノックされた。
「…来客ですかね…?」
「…いや、少なくとも客ではねぇだろ」
「…失礼します」
白衣の医者。
ドアが開くと、消毒薬の匂いが少しきつくなった。
「…会話はそこまでにして下さい」
鳴海と保科の間を、迷うような視線が往復する。
「…いや、」
「ドクターストップです」
口を開いた保科を一瞬で制圧する。
「なぁ。そんな酷いのか」
また保科と鳴海を迷うような目で見る。
「…今は、落ち着いていますよ」
当たり障りのない返事。
聞きたいのはそこじゃない。
「正直に申し上げます。副隊長には…」
「先生」
保科が割って入る。
「それは…鳴海さんには…伝えんでええんと、ちゃいます?」
こいつ…
まだボクをかばうのか。
「…ふざけんな…」
昨日の夜も、今日病院にくるまでも、それより前もずっと守られてきた。
「…鳴海さん。 聞く必要…ないと思います」
「ボクの勝手だ。…聞かせろ」
心なしか少し悲しそうに笑う保科。
見てしまったことをちょっと後悔した。
「分かりました。…意識はあり、会話も可能。外傷の処置も施し済みです」
「…ハイ」
「ですが内部の損傷が激しく、投薬によって循環を支え、現状を維持しています。」
「薬?」
黙って聞いていた保科を見やる。
全部受け入れた、逆に痛々しいくらい凪いだ笑顔。
弱音の一つも吐いてくれやしない。
死ぬほど盛られているであろう痛み止めの薬にさえ、ボクは勝てないのか。
「中って…どこがやられてるんだ?」
「鳴海さん…っ!」
「いいから。そんくらいの覚悟はある」
「…左肺の損傷が目立ちます。それから、外傷及び内部の出血により徐々に血圧が低下しています。こればかりは経過を見守るしかありません」
「……そうか」
何か気の利いたことを言おうと思ったが、結局なんて言ってもコイツにはかなわないと、淡泊な返事しか思いつかなかった。
「…では、私はこれで。何かあったらナースコールして下さい」
ドアが閉まると、妙に気まずい空気が抜けた。
「…知らんで良かったんに…」
保科は眉を下げる。
その一言一句にのみならず、その仕草にさえ、嫌になるぐらいの気遣いが見えて。
自分の中にあった理性が断ち切れた気がした。
「今くらい支えさせろよ…っ!お前がそんなだから、余計何も出来なかった気になるんだろうが……」
パーカーの裾を握りしめる。
「…パーカー、しわになってまうで」
「…そういうとこだよバカ…」
必死で歯を食いしばって、泣かないように努めた。
でも、それすらみじめに思えてしまって。
泣きたいのは保科だろうに。
保科は、ふと顔を曇らせた。
「鳴海さん」
「ん」
「約束…守れへんくて…申し訳ないなぁ」
「約束?」
「ゲームの、約束…また明日、て」
「…ああ」
そんなことで、
そんなことで一喜一憂できるやつだったっけ。
そんな約束なんてどうでもいいのに。
どこまでも優しいやつだ、ほんと。
「…保科」
「…なぁに、鳴海さん」
「何か、見たいものは、あるか?」
保科は一瞬戸惑い、ふわっと笑う。
「そうですねぇ…」
―――もう今日は見れたから、これで十分ですわ。
優しい光を宿す目に、ぼろぼろと涙を零す鳴海の姿が映った。
ボクを、『鳴海さん』と呼ぶ相手はいなくなった。
事あるごとにつっかかれる、気心のしれた、ボクと実力が同じくらいのあいつはもういない。
深夜まで誰かとゲームをするのはあれ以降やっていない。
あの…タメ口みたいな敬語みたいな、妙な言葉まわしも聞くことはなくなった。
きっと、ボクに向かってあいつみたいな、上からでもなく、下からでもない立場で話すやつはもう現れないんだろうな。
あれだけ強かったのに、怪獣と何ら関係のない人間の事故で死ぬなんてさ。
あいつもやっぱり人間だったんだよなぁって。
あいつが抜けたから、防衛隊は数値上、格段に弱くなった。
第3部隊にも、第1部隊にも、あいつの代わりを努められる人間はいないらしい。
亜白ミナまでのつなぎ役も、 部下のメンタルサポートも、副隊長の業務も。
早急に代わりを見つけようと必死になってるらしい。
たった一人が抜けただけで、戦力がガタ落ちしたんだ。
こんな悔しい話もないよなぁ。
ボクには何も出来なかった。
何も、成し得なかったんだ。
それから。
あいつとしたゲームの記録。
ボクの5勝25敗のあのデータ。
悔しいけど破棄するにもできないから、大事に取ってある。
ずうっと、取ってあるんだ。
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好きです。。。