〔こた、今大丈夫?〕
…そろそろ1時間経ったかな
この1時間俺はこたに話したいことを整理していた。
いや、正確に言えば整理は30分ほどで終わり、残りの30分はLINEの画面と格闘していた。
話したいことがあ|
「……ちがう」
話し|
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きいてほし|
「……」
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とまぁ、切り出しの言葉を書いては消して、書いては消しての繰り返しをして、やっと納得出来る言葉を打てた。
こんなこともままならない自分に嫌気がさすが、これも自分の思いや気持ちをこたに伝えるためだと思って何とか持ちこたえている。グループのためにも俺たちの間で迷惑をかけるわけにはいかない。
あの感じだと、こたは過去に何かあったんだよな……。
知りたい。
「…ちゃんと返してくれるかな……?」
そんなことを今更考えていたってしょうがないのはわかっている
「…………送ろう」
そう決心して、冷えきった画面をタップする。
送ることはできた。あとは既読を待つだけ。
5分も経っていないというのに体感は30分待ったかのように感じる。
こた、今大丈夫?
*既読* こた、今大丈夫?
「!、ついた!」
握りしめる手が汗ばむ。
逃げ出したい気持ちを堪えて二言、うん とだけ送る。
頑張るって決めた、しっかり話そう。
〔こた、さっきは本当にごめん。タイミングあの時じゃなかった、絶対〕
やっぱその話だよな……。
〔ううん、大丈夫〕
本当は全然大丈夫じゃないけど、こう言うしかない。
〔あの日のことも本当にごめん。怖がらせて、嫌な思いさせて〕
ドクン
早速本題に入られてしまって俺の心臓はすぐに乱れる。
確かに怖かったし、今も怖さは残っている。でもさっきゆうくんと話して、自分の中で整理をして……怖いのは、俺をずっと苦しめているのは過去…無意識にあいつとくにおを重ねてるだけ………。
「すー……はぁ」
大きく1つ深呼吸して、心を落ち着かせてから
〔確かに怖かった。でもくにおが全て悪いわけじゃないから〕
震える手を一生懸命に動かして打つ。
〔本当にごめん。ごめんで済むと思ってないし、許してもらおうとか思ってない。今度、また直接謝りたい。 〕
〔うん 〕
「……」
〔こた、やっぱりもう一度会って話したい〕
あ……どうしよう。
今は会いたくない、今会ってしまったら多分その場で倒れる勢いだ。
でも、会って話さない限りには何も解決しないような気もする。
いや、でも、
んー…
〔あ、ごめん。やっぱ無理だよね……〕
「え、あ」
あれこれ考えているうちに10分程既読をつけたまま返事もせずにいた事に、くにおからのメッセージで気づいた。
〔会ってじゃなくてもいからさ、俺の話ちょっと聞いてくれない?〕
くにおの話……
「うん 」
〔俺ね、昔から他の人と味覚?って言うのかな、それが違ってさ。〕
「うん」
小さな時から味はしない。
そんなの当たり前で、皆もそうだって思ってた。
「ご飯できたよ〜」
その言葉の後 食卓に行くと、 優しい父と母があたたかい笑顔で必ず待っていてくれる。
俺はそれが嬉しくて、大好きで、味がしなくてもいいやと思っていた。
「ねぇねぇおかぁさん!これ食べ終わったら遊び行ってきてい?」
「いいよ、でもしっかりよく噛んで食べてね?」
「はぁーい!」
「偉いなぁ、ちゃんと食べれて」
「あ!そうだ」
「なぁにおかぁさん?」
「ふふ、じゃーん!」
「わぁぁ!!」
「新しいくまさんのランチョンマットだよ〜」
「くまさぁん!!ありがとう!」
「そんな喜んでくれると、作った甲斐があるなぁ」
そんな優しい母が他界したのはそれから程なくしてからだった。交通事故だ
そのあとからだった。
俺は過剰に食を取らなくなり、げっそり痩せてしまった。
食べる意味も分からなくなって、食べても異物感を感じて、というか元々異物感はあったけど、今までの食事では食べることより、一緒にいるという事実が幸せだったのかもしれない。
給食の時間もほとんど残し、周りから心配もされればひやかしもあった。それでも、学校にはいった。
どうやら俺が母の葬式や死のせいで精神を悩ませている間に、 先生がクラスのみんなに俺の家の事情を話していたようで、小さいながらに周りはとやかく俺を囃し立てることはしなかった。
俺はかえってそれが嬉しかった。
でも、それでもやっぱりその話題が一切出ないなんてことはなくて、
「くにくんのママ、事故で死んじゃったんだよね」
「ねぇ〜なんか、、うん」
「可哀想ー、」
「うちのママ、くにくんのママのこと悲しんでたよ」
「お母さんいないとか私だったら耐えられないかも」
…………。
トイレ行こ、
「おーいくに、こっちこいよ!」
「…え、なに?」
周りからくすくすと笑い声が聞こえる。
なんだろう、すごく嫌な感じがする
「お前、何口に入れても何ともねぇんだよな!」
「は?………あぁ、」
先生、そんなことまで言ったのか。
今まで言わないでもらってきていたはずなのに。
お母さんがいなくなったらって、それも言わないといけないことだったのか?
「そうだけど」
また周りからくすくすと聞こえる。
なんなんだよ一体
俺は周りの笑い声に気を取られていて背後に回っていた奴に気が付かなかった。
「おえ…っ!!」
次の瞬間、俺の口の中には土が入れられていた。
「!?!」
え、なに、?なにこれ、?
気持ち悪い
「うわ、こいつ吐いた!」
「あははは!」
「味しねぇから土も食べれるんじゃねって言ったんお前じゃん!」
うるさい…うるさいうるさいうるさい……!!
「………おぇっ、げほ!げほっ!!!」
「…なぁ、やばくね?」
「こ、こんなやつどうでもいいし!」
「お、俺しらねー!」
「おい、置いてくなよー!」
次の日から俺は、全く学校に行かなくなった。
〔もうさー、それ以来土の食感?というか、味はしないんだけど何となく土って感じが何食べても蘇ってきちゃって大変だったよ〕
そっか、そんなことがお前にもあったんだな………。
視界が歪む、
あれ、俺泣いてる。
同情なんてされたくないだろうに、涙がそれを意味してしまうんだ。
目の前にくにおがいなくて良かった。
〔言いたくなければ全然いいんだけど……〕
〔何?〕
〔こたは、ケーキなんだよね?〕
〔うん〕
自分でも驚くほど冷静に答えることが出来た。少しづつだけど、くにおを信用してきているのかもしれない。
でも
あれ、
〔そっか〕
なんか、これ
〔もうわかってるだろうけど、俺はフォークなんだ〕
既視感
あ、
〝……実は僕、フォークなんだよね 〟
あ、あぁ……ッ
あいつだ……
呼吸が浅くなる、体の奥の方が締め付けられる。苦しい、苦しい苦しい…………頭もガンガンする
「は、はぁッ……ぅ」
今日何回目だよこれ…もううんざりする。
そう思っても勝手に再生される記憶は、俺を何十年も苦しめてきた。
〝 味見させてよ 〟
嫌、嫌嫌
〝 ガブッ 〟
痛いッ…痛い痛い
「はッ……ゲホッ…」
怖いよ、怖い怖い……!!!
助けて……!!、誰か……!!
〔大丈夫こた?〕
誰か、?誰に?
俺は誰を…?
ゆうくん!……は……ううん、駄目だ。これ以上迷惑かけたくない
〔なんも反応無いけど、なんかあった?〕
ごめんくにお、今…今は無理
ごめん、ごめんね
〔ねぇこた、俺を頼ってよ〕
「っっ…!!」
「〔くにお〕」
咄嗟に出た言葉と声はそれだった
コメント
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わぁぁ!!! 遅くなりました ... 今回も最高です 🫶🏻💗 続きがほんとに楽しみです🎶
いつも見てます!最高です、、!✨