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あれから凌太からはラインも電話も無い。

それならば、それでいい。

宇座課長のハラスメントを記録しながら日々は進んでいく。

Ryoとの食事会は来週の水曜日になった。

個室で海鮮をいただくお店でランチも好評なのだそうだ“あの”里中くんのチョイスなら間違いはないだろう。


金曜日、宇座課長のセクハラ色の強いお誘いが入る前に里中くんが番犬のようにやって来て退社をし、ビルを出たところで三揃いをパリッと着こなした凌太が立ち、私の姿を確認すると軽く右手を挙げた。

気づかないふりして通り過ぎようかと思ったら


「お知り合いですか、じゃあ僕は先に帰ります」とミントの葉が風に乗って流れて来たように爽やかに去っていった。


気が利きすぎるのも問題だわ・・・


「彼氏って訳じゃなさそうだ」

凌太は里中くんの後ろ姿をチラリと見る。


「ええ、有能な後輩」


「話をしたい」


「私には話すことは無いけど、ここで断ってもまたこんな風に待たれても困るから少しだけ話をしましょう」


一瞬凌太の表情が緩んだ。


なんだか嬉しそうな顔をされるのも癪に障る。


「すぐそこにあるカフェでいい?」


凌太の返事を待つことなく歩き出すと「どこでも構わない」と言って付いてくる姿がなんとなく良く躾けられた大型犬のように見える。

ラテを一つコード決済で購入して窓際の席に座ると、凌太もコーヒーを手に持ち隣の席に座り二人並んで窓の方を向いた。


松本ふみ子の投稿画面のスクショを凌太に見せると、眉間に力が入ったのか瞬時に皺が寄った。


「私がこんな風に言われるくらいの関係を凌太は松本ふみ子としてるわけで、それは現在進行形だからこそ彼女は私を辱めるような言葉を尽くしてけん制してるってことよね?でも私は凌太のセフレになったわけでもこれからもなるつもりはないけどこんなことを同窓生の目に触れるところに書かれるのはまっぴらだし、これ以上傷つけられたくないの。だから、勘違いされるようなことはしたくないからもう会うことはないし、こんな風に待ったりしないで」


もう言うことは無い。

返事を待っても仕方がない。


でも、ラテがもったいないからもう少しだけここに居る。


凌太の言い訳を聞きたいという自分への言い訳だ。


もう傷つくのは嫌だと思うのに、凌太の顔を見ると揺れてしまう。

そんな自分が本当に嫌。


「ごめん、また瞳に迷惑をかけた」


「凌太って学生の頃から変わってないんだね、もしかして私と付き合っていた時もほかにも関係を持っていた人がいた?」


カップに口をつける。

ラテのゆるやかな甘味が体に沁みていく。


「無いよ。瞳は俺のすべてだったから。情けない言い訳だけど、瞳が俺から去って会社以外はどうでもよくなった」


「去ったのは」

あなたの母親のせいと言いたかったけど、私も凌太を信じ切ることができなかったから。


「わかってるおふくろのせいだし、俺がもっと瞳から信頼されうる人間だったら別れることはなかった。同じことを繰り返していることもわかってる。瞳と別れてからもほかの人を好きなることができなくて、家族のことや会社のことでストレスを抱えて昔のように一夜だけの関係を適当に過ごすようになった。

行きつけのBARで1人で飲んでいた時に同じ大学だったという松本が声をかけてきて関係を持った。特に連絡先も交換せずに、時々BARで会ってその気になればホテルに行く程度で瞳と別れてからの3年間で片手で足りるくらいしか会ってない」


凌太は結婚してるわけじゃないから自由だし私はその間、結婚もしていたから別れた後のことに何かを言える立場じゃないけど、そんな程度の関係の人から受けるには度が過ぎているように感じる。


「その割にはカラオケの時は仲が良さそうだったじゃない」

こんな言い方したらやきもちだと思われそうで、一瞬しまったと思ったが凌太は気付いていないようだ。


「あの時は、俺は瞳に捨てられた男で松本は知り合いだから特に考えていなかった」


「示し合わせて来たんでしょ?」


「いや、鈴木里子が大学時代の仲間と飲み会をするという話をSNSで知って瞳に会えたら一言、言ってやりたいと思って参加したら松本も来ていた。それだけ。

そして瞳に会って俺が知っていた事とは違っていて、瞳は離婚を考えていたからもう一度やり直したいと思った。今でも今までもずっと瞳を愛しているから」


さすがに気恥ずかしくなって唇に人差し指を当てて音量を下げるように伝えた。



「松本と話をするよ。連絡先の交換もしていない程度だから彼女も俺と同じ考えだと思っていた。でも、昔と同じ間違いをした。きちんと終わりを告げないといけなかった」


「連絡先もわからないのにどうやって連絡するの?」


「BARに行くかSNSから連絡をとるしか無い、SNSのリンクをラインで送ってほしい」


「二人の関係がどうだろうと私には関係ないけど、変な誹謗中傷だけはやめるように言って」


残りのラテを一気に飲み干そうと正面を向いた時、ガラスの向こうに宇座課長がこちらを見ていることに気がついた。


うわー最悪。

頭を下げるのもなんか変だし、気が付かなかったことにして顔を上げて一気に飲み干した。


「松本との話が済んだら、俺との事をもう一度考えて欲しい」


もう絶対に関わらないと思っても、許したい、一緒にいたいという思いのかけらが判断を鈍らせる。


結局「考えておく」と答えてしまった。



「エッグタルトがあるんだ、車に置いてある」


エッグタルトに罪はない!


「じゃあ、それだけもらって帰る」


「送っていく」


これじゃあ、すっかり凌太のペースになってしまうから断固として断ろうと思ったら、宇座課長がまだ居てこちらを見ている気がした。


「ごめん、やっぱり駅まで送って」



駅までと言ったが結局は家まで送ってもらう形になった。


エッグタルトにシリコン製の茶葉入れがセットになったお茶と工芸茶を手渡され、すっかりそれに興味をそそられているうちに駅を通過してしまった。


「次の駅でいいから」


と言ったが「いいよ、せっかくだから送っていく」と軽く流されてしまった。


そう、流されてしまった。


凌太はこう言うところは強引で、私はそれをつい許してしまう。

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