この作品はいかがでしたか?
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ガラスのポットの中で白い大きな花と小ぶりの黄色い花が数個咲いている。
「綺麗なお茶ね、エッグタルトもおいしいわ」
お茶に罪はないからダイニングで母親とティータイムを楽しむことにした。
ポットから湯呑みにお茶を注ぐと花がゆらゆらと揺れる。
「本当だね」
「こんな風にお土産を買ってきてくれるくらいだから上手くいっているのね」
母の言葉に動揺を隠しながら「え!何を言ってるのよ、友人だよ」と、さりげなさを装って答えるが母にはお見通しなのだろう。
「ふーん、そう言えば今日は二人で出かけないのね」
流石に凌太の女関係が落ち着くまで会わないなんて言えないし。そもそも、私たちはそんな仲じゃない。
「本当に、そんな仲じゃない」
母は「そう」と言ってエッグタルトを咀嚼してからお茶を飲んだ。
宇座課長が面倒な事をいってこなければいいと思っていると玄関チャイムがなった。
「お父さんかな?鍵持っていってないの」
「ご近所とかだとふらりと出ていくから、前にお父さんが出かけた後に私も買い物に出かけたら鍵が無いって言って玄関で待っていたことがあるのよね」
「そうなんだ」と笑いながらインターフォンの液晶をみてギョッとなった。
「お父さんじゃないの?」
母の言葉に返事をする前に通話ボタンを押した。
「少々おまちください」と答えて玄関に向かう途中で「正人のお母様」と母に伝えた。
急になんだろう?離婚が成立したときもその後も無神経な電話があっただけなのに、いまさら会って話すこともないだろうに。
ドアを開けると紙袋をぶら下げて口角が上がるだけ上げた元義母が立っている。
「電話では何度か話をしたけど会うのは久しぶりね。急に押しかけちゃってごめんなさいね」
親族ではなくなった原因が正人なんだから来るなら連絡をしてほしかったし、私としてはもう係わりたくないのに。
「今日はどうされたんですか?」
「ご両親にちゃんと謝罪していなかったから、えっと上がっていいかしら?」
夫の母親という善意のフィルターが掛かっていたから気さくな人と思っていたけど他人となるとただ図々しい人だとわかる。
リビングにあるテーブルを挟んだ向かいには、元義母が謝罪に来たとは思えないほどの笑顔で座っている。
私がお茶を出そうとしたが母に止められ、その母がキッチンでお茶を淹れている。
両親にはもう迷惑は掛けたく無いのに。
「元気だった?電話でちょっと話をしただけだったから心配していたのよ」
そのちょっとの電話でいつもメンタルをごっそりやられていたけど、母の手前グッと抑える。
「私はとても元気ですよ。実家ですっかり両親に甘えてます」
「あらそうなの。正人は毎日辛そうで見ていられないのよ」
そんなの自業自得じゃない。
でもその言葉もグッと抑えていると母がお茶とお茶菓子を持って来るなり
「反省しているのね。良かったわ、反省する気持ちがあれば次に繋がるものね」
と結構、辛辣な言葉を穏やかに言い放つと、流石の元義母は口元がひくついている。
「正人がとんでもない女に騙されて瞳さんを裏切るような形になったけど、あの女のことなんか正人はなんとも思ってなかったのよ。大切なのは瞳さんだって毎日言ってるの。その姿が可哀想で、もちろん正人が悪いのはわかっているからこうやって謝罪に来たのよ」
謝罪に来たと言葉で言われないと何をしに来たのかさっぱりわからない。
「謝罪にいらしたんですか?」
盛大に疑問だとでも言うように母が確認する。
「ええ、本当にごめんなさいね。正人も今、治療をして多少は子供が出来にくくなるかも知れないけど、それは瞳さんも同じでしょ?だったら、二人でもう一度頑張ってみたらどうかしら」
母が「え?」という表情で私を見る。
「義母さまそれは」
さすがに元義母も空気が変わったことに気がついたようで「あら、瞳さん知らなかったの?」とトンチンカンな事を言っている。
正人は“また”中途半端なことしか言っていないのかもしれない。
「瞳、どういうこと?正人さんの治療って?」
何でもなかったから言いたくなかったのに。
「正人が不倫相手から性病をうつされたの。その話も、正人が不倫相手と話し合いをせず逃げていたから相手の親から私に連絡が来てクラミジアの事を知って、私はすぐに検査に行って陰性だとわかったから、変に心配させたくなくて言わなかったのよ」
「なっ」
流石に母は絶句してしまった。
「よかった、瞳さんは感染してなかったのね、それなら体質的なもので妊娠しにくかったのかしらね?二人で不妊治療とか受けていけば大丈夫よ」
どこまでおめでたいんだろう。
て言うかどこまで無神経なんだろう。
「子供ができなかったのではなくて作らなかったからです。経済的なこともあったし、ただ正人は子供が生まれた時のために二人で貯めていた預金を不倫相手に貢いでいたし、不倫をしていたときは若い不倫相手に溺れていて私とはそういうことをしていなかったので私の体質とかじゃないです。ただ、良かったのはレスのおかげでクラミジアをもらうことがなかったことです」
元義母が流石に驚いているようだった。
「そんなこと、正人はなにも言ってなかったわ、でもね瞳さん、魔がさすということは誰にでもあるとおもうのよ」
「いい加減にしないか!」
家中に、いや近所中に響き渡ったのではないかと思う程の音量の声のする方を見ると、リアル仁王様のような姿で父がドアの所に立っていた。
その姿にテーブルを囲む3人も固まったままだ。
「竹内さん、何をしに今更やってきたんですか」
その言葉に元義母が慌てて「ちゃんと謝罪をしていなかったから伺ったんですよ」と若干口の端ををひくつかせながら話す。
「謝罪?正人くんは瞳を幸せにしますとそのソファに座って頭を下げていたいたことを今、思い出しました。それがたかだか3年、いや2年には淫行と買春、そして性病に罹患?そんな愚行をやっておいて謝罪に来たのは母親一人だと?正人くんはどうした?」
元義母も父の怒る姿を始めて見て恐怖を覚えたのか血が全て抜けてしまったような表情をして俯いている。
「先ほどから聞いていれば、淫行をするような男と瞳が不妊治療?もうすでに、離婚は成立して全ての精算も済んでいる。あなたが口出しをする権利なんてないんですよ。しかも瞳を侮辱するような言葉ばかり、この際だから言いますが、おたくのボンクラ息子、稼ぎも悪いし人がいいだけで出世欲も無い。実際は人間性も残念だったが、わたしは正人くんとの結婚をよく思っていなかったが、瞳が正人くんがいいというから任せたのにこんなことをしでかして、離婚した後もいつまでも瞳を傷つけ続けるなんて」
父はそこで一旦話を切ると、元義母がソファに座るときにテーブルに置いた手土産の紙袋を元義母に押し返した。
「こんなものは持ち帰ってください。今後二度と瞳にも我が家にも接触しないように、おたくのぼんくらにもよくよく言い聞かせなさい。それから、そちらの父親にはわたしから連絡します」
元義母は押し付けられた紙袋を両手持って慌てたように「お父さんには言わないで、もう連絡はしませんから」と懇願する元義母を父は立ち上がらせると玄関に連れて行きドアを開け「二度と来るな」と元義母に言った後、「母さん塩!」とさらに叫んだ。
お向かいさんが窓からこちらを見ているのがわかる。
父も母も穏やかで他人に怒りに任せて何かを言う事の無い人達だった。
父は凌太の母親の時も激昂したと言う。
私のせいで二人に嫌な思いをさせていることが情けなくて悲しくなった。
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