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それから俺は毎週金曜日にはお昼に先輩に会ってお昼ご飯を一緒に食べ、放課後にはピアノをこっそり聴きに行くというルーティンを繰り返した。



6月も終わろうかという季節が少し夏らしくなった頃、今まで難しそうな曲ばかりを弾いていた先輩が最後に俺でも曲目を知っていて、わりと難易度の易しそうな曲を弾いてたのであれ、と感じた。それはアメイジンググレイスという曲だった。


懺悔と神への感謝を謳った讃美歌なのに聴こえてくるピアノの音になぜか悲しさや寂しさを強く感じて心が震える。



いつも違った曲を色々と弾く先輩がその時から必ず最後にアメイジンググレイスを弾いて終わる様になった。

そして俺は先輩にピアノを弾くことを教えてくれない理由を聞けないまま、夏休みを迎えた。



8月に入って唯一の登校日、午前中で学校は終わりだが部活動などで他の人は忙しそうだった。

俺はなんとなく、久しぶりだし先輩はピアノを弾いているんじゃないかと思いあの部屋に向かった。




···やっぱり。




先輩のピアノが聞こえる 。蝉の声も運動場で部活動をしている生徒の声も遠くに聞こえて、いつも通りの静けさを保ってる廊下は暑いが夏休み締め切られていたままだったであろう大きく開けた放たれた窓から入る風が心地よかった。




その日の先輩はなぜか何度も何度も繰り返しアメイジンググレイスばかりを弾いていた。



そしてそのピアノの音が弱々しくなり、代わりに聴こえてきたのは小さな泣いているような声だった。だんだんとそれは嗚咽に代わり、やがてピアノの音は止んでしまった。




なんで、どうして。

ひとりで泣いているの。

何がそんなにあなたを悲しませるの。




理由は、今はいい。

弾いていないと言われたら、その通りだと言えばいい。

こっそりと聴いていたことを怒られてもいい。



でもひとりぼっちで泣きじゃくる先輩をこの部屋に置いて立ち去ることはしたくなかった。




扉を開けるとその音にビクッと身体を震わせた先輩がゆっくり振り向いた。

その瞳は赤く潤んでいて、頬には幾筋も涙のあとがあった。




「なんで···元貴がここにいるの··· 」



クーラーの冷気が逃げないよう、ピタリと扉を後ろ手で閉め、先輩に近づき、答えないままに華奢な身体を後ろから抱きしめた。


先輩は驚いているようだったけど、ただ抱きしめる俺からの返事を待つように静かに受け入れてくれる。




「···ごめんなさい。涼ちゃん先輩のピアノ、聴いてたんです」


「え···い、いつから?」


「毎週金曜日に··6月入ってくらいから、ずっと··· ·」



それを聞いて、先輩は椅子から立ち上がると俺を振りほどいた。

顔色は青ざめているのに、唇は赤くなるほど噛み締めている。



「ごめんなさい···勝手に盗み聴きしてて···」


「あの時ピアノなんか弾かないって言ったのに···なんで···なんでそんなに僕のことを···」



当然だろう。

普通の後輩ならそこまでしつこく執着するとは考えられない、なんでと疑問を持たれて当然だ。



「········き、だから」


「······なんて?」


「涼ちゃん先輩のこと、好きだから」


「え······?」


「俺、好きなんです。先輩のこと。たぶん、最初に助けて貰った時から···」



出逢えたことには意味がある

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