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お互い一枚上手についてはしてやられ、みたいな感じが物凄く尊いです。ステキな作品ありがとうございます!
なんて言うか、、内容も素敵なのですが、文章が綺麗です……!!!!
「俺ね初恋相手がいたの」
フェリシアーノは唐突にそう発した。
菊はそれを聞いてお茶を吹き出してしまった。
初夏が香る優しい季節と風に菊とフェリシアーノの短い髪は揺れた。風に乗った優しい香りが心地よく2人して縁側にいた。
突然押しかけてきたフェリシアーノにお茶を用意しようとしたら断られた菊はもしかしたら飲むかもしれないし、という念には念をとお茶を2つ用意し1つは机に置いてある。きっと温くなってしまっているだろうにフェリシアーノは一切お茶を求めやしなかった。
そんな中ちょっとずつ飲んだせいで温くなったお茶を口に含んだ途端に変な話題を出してきたのだ。
「菊大丈夫〜?」
呑気な口調で足をばたつかせながら聞いてきた。菊は口元を拭いながら「ええ」と答えた。
「初恋がいながら私に告白をしたのですか……?こんな爺に?」
「ん〜、離れ離れになっちゃったんだよでもずっと待ってる」
切なそうに明後日の方向を見ながらフェリシアーノは語る。
「でも俺本当は知ってるんだ」
菊の瞳を掴んで離さないフェリシアーノはまた切なそうな顔をして口を開いた。
「もう帰ってこないって」
「なんだかろまんちっくですねえ」
「え?」
菊はお茶を飲みながらちらりとフェリシアーノを見た。フェリシアーノは困惑したように菊をずっと見ていた。
「帰ってこないと知りながらも待てるほどその方が好きなんですねえ」
「……嫉妬?」
「いいえ」
そう言うと菊はまたお茶を一口だけ飲んだ。小さな口から入るお茶の量はほんの少しだけ。飲んだ気がしない様な量だった。
「で、何故こんな爺に告白なんてするのですかそんなにお好きなら」
呆れ気味に言う菊はフェリシアーノと同じくらい遠いところを見ていた。
「きっととてもお綺麗な女性でしょう?」
「違うよ!!」
なぜだか叫んだフェリシアーノに菊は驚きこんどは湯呑みを落としかけた。
「男の子だったの、キスもした」
「おや、接吻もしてると言うのに浮気ですか」
「違うの!その、違くは無いけどさ」
両手の指先でつんつんとしながら目を泳がせるフェリシアーノ。
「……んもう!意地悪言わないでよ〜!」
「あらあらそれはすみません」
半笑いでフェリシアーノに返す菊は一枚上手かもしれない。
「今は菊に惹かれたの」
「本人に言ってしまうのですか?」
風のせいか、正直なんのせいでもいい耳元から火照っていく。脈も上がり心臓の音が聞こえる。
「うん、ダメかな」
「では聞かせてくださいな」
風が吹く中優しい香りを鼻で嗅ぎながら落ち着いたと思われる心をそこにフェリシアーノの瞳を真っ直ぐに見つめる。
フェリシアーノは何も言わずに菊に対して触れるだけのキスをした。
菊は悟っていたのか目をつぶっていた。唇を離したとたん目をゆっくりと開く。顔は徐々に赤くなり湯呑みを置いて手で頬を触ってる。未だに慣れてない初々しさがフェリシアーノが菊を愛らしいと思うには十分な理由だった。
綺麗な緑の葉がひらりと落ちてきた。
「菊の優しさに惚れたんだ、出会った時こそ女の子に夢中だったし今も変わらないかもしれない」
「……ちょっと聞き捨てなりませんね」
「んもー!!ちゃんと聞いてよ〜!」
焦り気味にフェリシアーノは言った。
「はい、すみません」
くすくすと笑う菊につられてフェリシアーノも優しく笑った。
「でも女の子を通して菊をなぜか見てるの気がついたら目で追ってて、誰も知らないようなところで何かしてるところとか本当の笑い方とか、髪の毛も」
そう言いながら短い横髪を手に取り触る。
「その瞳もとっても綺麗だよ」
目を細めながら髪を触っていたその手は気づけば頬に来ており親指が目の下をさすっていた。
「くすぐったいです」
照れながら菊はそんなフェリシアーノの手の上から手の平を重ねフェリシアーノの手を菊の手はさすっていた。
「!」
フェリシアーノはその菊の手をするりと取ると自分の口元に近づけた。
その時リップ音が聞こえた。
そうフェリシアーノは菊の手の甲にキスをした。
「Ti Amo」
「私も」
そのまままた触れるだけのキスをする。
「白っぽい肌も他の国よりも小さい体も、そんな体でも強いところも人の介抱が上手なところも俺のために色々考えてくれてるところも人のことをよく考えて意見がいえなくなっちゃうところも仕事のし過ぎで出来てる手のタコとかなんでも全部好き」
長ったらしく続いた好きなところはよく自分を見てきた人と分かるような内容で本当に好きだとわかって欲しいような声色で悲しそうで。
「俺、いいのかな」
「なにがですか?」
気がつけばフェリシアーノは菊の胸にいた。
「告白した時から不安で」
涙ぐみながらフェリシアーノは淡々と嗚咽を漏らしながら言葉を紡いでゆく。
「あの子を待たなくていいのかなって、俺あの子のこと本当に大好きで、でももういないって思うのも苦しくて」
泣いて泣いて疲れたフェリシアーノは深呼吸をして顔を上げ菊に言った。
「でも菊に惹かれるんだ、キスも沢山しちゃった」
諦めたような口元を緩めただけのような笑顔でフェリシアーノは菊に泣きながら言う。
「初々しい菊が、こんな俺にも寄り添ってくれる菊が好き、大好きっ」
「…………ルートさんもいるではありませんか」
「ルートももちろん大好きだよお」
大泣きしながら口にする。菊は静かにフェリシアーノの背中を摩ったり叩いたりして慰めている。
「でもごついし厳しいし〜〜!!」
「ルートさんもフェリシアーノくんを思って言ってるんですよ」
「しってるよおお」
泣きわめきすぎて咳き込むフェリシアーノ。
「ねえ、菊は、菊は俺の事好きじゃないの?いつもみたいに流されてるだけなの?」
その言葉を聞いた途端菊はフェリシアーノの背中を摩っていた手を止めた。
「誰にでも接吻を許してしまうような尻軽に見えますか?」
「ううん」
首を振りながらそう答えるフェリシアーノ。
「フェリシアーノくんの思ってる通りですよ、私もフェリシアーノくんが好きです、大好きです、お慕いしております」
フェリシアーノはその言葉を聞いてまた顔を上げた。だが菊はフェリシアーノの顔とは真逆の方を見ていた。ちらりと見える耳は真っ赤になっていた。
そんな菊の姿をみたフェリシアーノは菊に恋してるとあらためて実感した。
「ねえ菊こっち見て」
お願いされた菊は渋々フェリシアーノ方をゆっくりと向いた。するとフェリシアーノは菊の頬を両手で触る。そのまま涙で輝いている瞳で笑って口にした。
「Amore!」
菊はその言葉にギョッとして目を丸くさせている。みるみる顔はタコのように赤くなる。頬をおさえられたまま菊は自分の手で口元を隠す。
「恋人……ですか?」
「んー、そういう時にも使うし可愛い!って時にも使うよ」
と何事もないように笑うイタリア男。さすがイタリア男口説きやらなんやらが完璧なのだ。
「菊、俺のamanteになって」
「……ぜ、善処します」
「善処してくれるの?じゃあ早く」
急かされ菊は焦りながら唸る。
「フェリシアーノくんの恋人になれますかね」
「なれるよ、俺がいいって言ってるんだもん、それにキスもしてる」
あらためてそんなことを菊は言われた。菊は思い返しまた顔を真っ赤にさせた。
「それもそうですね、フェリシアーノくん私の家での告白方法しってますか?」
フェリシアーノはめをぱちりとさせた。
「え〜?今はまだ見えないよ?」
「いいんですよ」
フェリシアーノは深呼吸をして菊の瞳を真っ直ぐにとらえた。
「月が綺麗だね」
菊はそんな言葉を聞くなりくすくすと笑った。
「もー!ほら返事は!?」
フェリシアーノは菊のそんな態度に少しだけ怒った。
確かに月なんて一切見えなくて、見えるのは葉が完全に緑色になった桜の木。そして漂う初夏の香り。優しい風は背中を押すように吹いた。
「淋しくつて不可ないから又来て頂戴」
「ふふ」
フェリシアーノは返事を聞くなり満足気に笑った。菊もそれにつられて笑った。
そんなご機嫌そうなフェリシアーノは菊に瞼を閉ざさせる時間も与えぬままキスをした。これもまた触れるだけのキスだった。
終