ルチ桐
ルチアーノはある壁、透明で別の世界が見える不思議な壁を通して1人、いや2人をみていた。あのへらへらした奴の名前は大嫌いなフェリシアーノ・ヴァルガス、そしてルチアーノはフェリシアーノの派生だ。見た目こそにてはいるが似ては似つかぬ何かがある。色味も違く目の色や肌の色が違う。でその隣に微笑みながら歩くのが本田菊という。
ルチアーノはくるりと振り返り不機嫌そうな本田菊、ではなく不機嫌そうな本田桐を見つめた。
「ちっ」
舌打ちをした桐は明らかに不機嫌そうだった。瞳は赤く、とても深い色をしている。見つめていればそれに吸い込まれ魅了されてしまわれそうな程に。
「桐もあいつら嫌い?」
わざとらしい笑い声を上げ聞いてみた。
「当たり前だ、怠けているにも程がある」
すると桐はもう一度舌打ちをした。
ルチアーノや桐の出る幕はもうない、彼らが表に出ていたのは主に戦争などをしていた時の事だ。似ても似つかないのは当たり前のことで性格がもっぱら違う。派生元よりははるかにルチアーノや桐の方が戦闘派だった。
ルチアーノは面白げに桐を見つめたあと、改めて壁の奥を見てはその壁に指を触れさせニヤリと笑った。
ルチアーノはわざと桐に顔を向け言った。
「俺、キクに会ってみたいかも」
「は?」
桐は当たり前な反応をした。不機嫌そうでそれでいて呆れていそうだった。
「なにー?いや?」
「好きにすればいいだろう」
ルチアーノはつまんないやつと言いたげな顔をして今度は菊を見た。
フェリシアーノに対して優しく微笑み他愛のないことを語り出す菊はまるで恋をしていた。それと同じくフェリシアーノもなぜだかソワソワしておりそれでいて真剣でまるで恋をしていた。
(気に食わない)
ルチアーノは密かにそう思い、踵返そうとしていた桐を見つめた。待てと言う気力もなく止める理由なんてもっぱら無かった。
「行ってみよ」
ルチアーノは小声でそういうと虚しさを感じた。
この空間はなにもない、あちらの世界が羨ましくて仕方がなくてそれでも何故かこっちも悪くないと思える。
(あーあ、お前はどうしたら手に入るの?)
遠くなる影をただ呆然と見つめていた。
そしてその透明な壁をするりとすり抜けたルチアーノはやはりそこはかとなく寂しかった。
あちらの世界の地面に着地した時に見てたフェリシアーノと菊の後ろ姿に後をつけた。するりと蛇のように後ろに回りこみ声をかける。
「ねえ、フェリシアーノ」
菊は勘づいていたように思えたが結局ルチアーノはフェリシアーノの派生、フェリシアーノの気と勘違いしたのだろう。強くないとかつまんないやつ、と心で声を出し菊に手をかけようとする。
肩、首元辺りまで手が行くのは遅くはなかった。一瞬ともあろうところで2人は呆気に取られて反応なんて出来ないはずなのに菊は咄嗟に避けた。フェリシアーノを庇いつつ。
「なんで逃げるのさ?」
「危害を加えようとしたのはあなたです」
菊はルチアーノのことをあまりよく思ってない様子でルチアーノはそれがさらに気に食わなかった。
「俺とそいつってなんの違いがあるのさ」
「話を変えないでください」
庇われ続けるフェリシアーノに苛立ちを覚える。イライラする弱々しくて戦えない。そんなので自分の国を守れるわけが無い。菊はどうしてそんなやつを庇うのか。
「教えてよ、俺キク好きだなあ」
フェリシアーノはそんな言葉でハッとしたようだった。
「何、言ってるの?」
震える声でこっちを見つめ、顔を青くする。
嫌だと伝わるその表情にたまらなく菊が欲しくなる。
でも何かが違う。菊が欲しいわけじゃない気がする。これではいけない気がする。そんな感情は全て置いてかれ気づけば手にナイフを持った状態で2人に接近していた。
「馬鹿だなあ強さだと俺の方が絶対上なのに」
ルチアーノの目は本気で、黒く濁った感情は全てフェリシアーノに向けられていた。ナイフはたちまちフェリシアーノの胸元に飛び込む。
「バカなんかじゃないよ」
フェリシアーノは咄嗟に避けた。早かった。避けることしか出来ないことにまたもやいらだちを覚える。
「確かに何もかもお前の方が上かもしれないけど、菊は渡せないよ、渡させない」
(ああ違う菊が欲しいんじゃない)
ルチアーノは何に苛立ちを覚えているのかさえ分からなくなっていた。
「ねぇ、キクそいつじゃなきゃダメな理由あるの?」
菊はびくりとこちらを見つめて発した。
「ええ、ありますよ」
微笑む姿にいらだちを覚える。なぜこんなにもイライラするのだろう。舌打ちを堪え、ただナイフを握る手に力を込める。
「逆にルチアーノくんはなにか私でなければいけない理由があるのですか?」
その言葉にぷつんと糸が切れたかのようにナイフを持ったまま菊に近づいた。足は素早くいらだちを顕にした酷い顔は菊の瞳を通して感じ取った。
「ムカつく」
「菊!!」
叫びだすフェリシアーノ。
菊は受け入れたかのように澄ました瞳をしていた。
「おや、イタリアくんはイタリアくんですね」
イラつく笑いをしてみせた菊に対して言葉に表しきれない嫌な感情が芽ばえる。
「ルチアーノ!!」
後ろから叫ばれた時にようやく菊に何をされかけたかを察した。咄嗟に後ろに下がり刃を食らうのは避けれた。
「桐?」
後ろを振り向き叫んだ桐を見つめる。
後ろからは2人の声が聞こえる。
「菊大丈夫?」
「ええ、フェリシアーノくん」
そんな言葉にまた苛立ちを覚える。呑気そうで何故かとても羨ましい。
「ルチアーノ、貴様なにをしている」
「うっさい、お前に関係ない」
ルチアーノは桐に対して反抗的な態度をとる。
「こっちは……」
桐はそう呟くと黙りこくった。それに対して振り返れば桐は顔を見せなくなった。
「俺やっぱりフェリシアーノ嫌いだ」
「そんなこと知っている」
そう、嫌いだ。羨ましくて憎くて愛されて表に出られて劣等感で苦しんで消えてしまいたいくらい嫌いだ。
「菊が嫌いだ、相変わらずヘラヘラ笑ってあんな様で本当に」
グチグチと苦虫を噛んだような顔をして述べる桐に何でか安心してしまう。
「貴様は好きなんだろう?」
「え?」
「あいつのこと」
指を指した方向には菊がいる。
「えなに、おじいちゃん嫉妬〜?」
ルチアーノはわざとらしくニヨニヨ笑って答えてみせる。でもそんなのルチアーノだって同じだ。
桐はフェリシアーノの方が好きなんじゃないかと思ってしまった。それで更にルチアーノは劣等感に苛まれた。
「するわけないだろう」
呆れた表情で言われると尚更。
桐までもを取られたらそれこそ殺したくなるくらいに嫌いになるだろう。
桐の顔に似た菊がフェリシアーノに恋をしているところを見ると腹立たしかった。桐と同じ顔で同じ声で発せられるフェリシアーノへの愛がとてつもなく苛立った。
「桐もフェリシアーノの方が好き?」
「藪から棒になんなんだ」
答えなんて期待しなかった。桐もきっとあんなやつの方がフェリシアーノの方が好きなのだろう。
「あんな菊より弱いあいつが好きだと?やめてくれ考えただけで吐き気がする」
舌打ちをしてルチアーノを見下ろす桐。
「やっぱ俺菊より桐の方がいいや〜」
「は?」
「挑発に乗りやすいお前嫌いじゃないよ〜」
「なぜ上から目線なのだ」
機嫌の悪い桐に安心感を覚える。
話し込んでいるうちにフェリシアーノと菊はどこかに行ってしまったらしく、見渡してもどこにもいないし、周りには何も無い。
「ほら帰るぞ」
「待ってよ」
「はあ?」
すると振り返った桐の胸ぐらをルチアーノは掴んだ。
「ルチアーノ!貴様なにをっ」
唇に柔らかい感触があった。
キスをしたことを確認すると、ルチアーノは胸ぐらを離した。
「桐早くしないと置いてくよ」
固まっている桐にそれだけ伝えルチアーノは先に帰ろうとした。
後ろから桐の怒鳴り声が聞こえるがなんてことない。
「はーあ、桐って変なやつ」
桐を手に入れる方法なんて知らない、それでも好きでこんなにも思いを寄せてしまうのはなぜなのだろう。付き合ったりなどしてどうこうしたいのではない、ただそばにいて欲しい。桐ってほんとに変で面白いやつだから。
終
コメント
2件
2Pとにってー様がごちゃまぜです。 すみません。