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『その人は、ちゃんと私を見てくれる』
「最近、姫那ちゃんと九条くん、よく話してるよね」
昼休み、凛ちゃんの一言に姫那は少し驚いた顔をした。
「え、そんなに……?」
「うん。なんか話しやすそうに見えるし、悪い意味じゃないよ。
ただ──翔くん、ちょっとだけ気にしてるっぽいよ?」
その言葉に、姫那の胸がふっと揺れた。
(翔くんが、気にしてる……?)
でもその答えを考える間もなく、放課後、湊が姫那を呼び止めた。
「姫那さん、今から図書室行く?俺も行こうと思ってたんだけど、一緒にどうかなって」
「……うん。行く」
本を読みながら、湊はぽつぽつと話しかけてきた。
「姫那さんってさ、ちゃんと人の話を聞いてくれるよね」
「え?」
「前に言ってたこととか、ちゃんと覚えててくれて。そういうとこ、嬉しいなって思う」
姫那は言葉を失った。
そんなふうに誰かに“見られてる”って、思ってなかった。
「……私、人と話すの、あんまり得意じゃなくて。
でも、湊くんは自然に話してくれるから、たぶんそれが嬉しいんだと思う」
湊は優しく笑った。
「じゃあ、これからもいっぱい話そう。
姫那さんのこと、もっと知りたいし」
心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
翔といるときとは違う安心感。
穏やかで、優しくて、ちゃんと「私自身」を見てくれる感じ。
けれど──その感情に名前をつけるには、まだ少し時間がかかりそうだった。