小説を書きながら、僕は本当に馬鹿なことをしたな、と思う。
僕が今書いているのは、中三の時母が事故で死に、加害者の岡野大河を呪い殺してしまった、という、僕自身の体験談だ。僕には小説家になりたいなんて夢は全くないし、この日までずっと、書いたことすらなかった。
きっとこの小説を出版すれば、多くの人は「岡野大河は自殺だったんじゃないのか」という声を浴びせるだろう。しかし実際は違う。僕はしっかりと岡野大河を「呪い殺した」のだ。
僕は確かにあの日、岡野大河の写真の裏に「川に飛び込んで自殺」と書き込んでその写真を燃やした。
そしてその数日後に、岡野大河は、近所の川に飛び込んで自殺したのだ。
これだけ聞けば、「たまたまだったんじゃないのか?」という疑問だって浮かび上がる。僕も最初はそう信じたかったが、数日後、それを決定付ける事態が起こった。
自宅のポストに、1枚の手紙が入っていた。
それは、岡野大河の娘、岡野千里さんからの手紙だった。
「突然このような手紙が届き、困惑されている事でしょう。ですが、私にはどうしても、伝えたいことがあるのです。」
手紙を読みながら、心臓の鼓動が徐々に速くなっていく。緊張しているのだろうか。
「父は、責任から逃れるために自ら命を絶つような人じゃなかったんです。」
その一文だけが、僕の肩に重くのしかかった。
「父が自ら命を絶ってしまうなんて、私も信じられません。まさか私だけを残して死んでしまうなんて思わなかったんです。こんなの言い訳にしか聞こえないですよね。本当にごめんなさい。ですが私は……」
内容がうまく頭に入ってこなかった。文章を目だけ追っているだけで理解はしていない。
けれど僕は、最後の一文だけ。
最後の一文だけが、僕に追い討ちをかけるように視界に写った。
「もしかしたら父は、
呪われてしまったのかもしれませんね。
人を1人、殺めたと同然ですから。」
僕の頭はすっかり混乱していた。岡野大河が自殺をするような人じゃない、とすれば、やはり僕が岡野大河を呪い殺してしまったこと。そして、「呪われてしまったのかもしれませんね」という文章。あれが脳裏に焼き付いて、離れなかった。
というのが、僕が岡野大河を呪い殺したという根拠になる。と言っても、根拠になっているか分からないけれど。でも、確実なのは、僕が岡野大河に「殺意を持ってしまった」事だった。
僕はその事実から目を背けないために、こうして実話を小説に書き記している。いつかこの小説を手にする人がいれば・・・って、そんなハズないけどね。
「そろそろ学校に行く時間か。」
僕は朝っぱらから小説を書くほどのんびりしていたものの、結局家を出る時には遅刻寸前の時間になってしまった。
そう言えば、今日は転校生が来るって、言ってたっけ。
一体どんな子なんだろうな──。