「よっ」
教室に入るなり、呑気な声でそう声をかけてきたのは、友人の秋元 隆雄(あきもと たかお)。一見お調子者のタダのバカ、というようなイメージだが、彼は中学の時からの付き合いで、母が死んだ時、僕がどんなに彼に当たり散らしても、何も言わずに僕が落ち着くのを隣で待っていてくれた。まぁ、良い奴だと思う。
「相変わらずボーッとしてる奴だな、お前は。そんなだから女子にモテないんだぞ。って、元々か!ガハハハハ」
……やっぱり悪い奴だ。
「ねえ隆雄、今日って転校生が来るんだよね?」
「ん、そうだっけ?聞いてなかったかも。ガハハハハ!」
ガハハハハ……って。
まあ確かに、隆雄は授業中寝ていたり、窓の外をボーッと眺めているような奴だ。それなのに、成績は僕よりも良い。テスト前なんか、「勉強なんかよりカラオケ行かね?」とか言っている奴なのに……。僕が勉強をしていないわけでもない。テスト前はしっかり机に向かって勉強している。テスト前は。 というか、もしかしたら隆雄は口先だけで、本当はコッソリ勉強しているのかも。そう考えると少し可笑しい。
「転校生ってさぁ、女?」
「さぁ。そこまでは言ってなかったよ」
「ふーん。男だったらつまんねー」
「なんで?」
「は?なんでって…。ったくお前は本当に欲がねぇ奴だな。死んでんのか?」
死んでるか…って言われても。でも確かに、僕にはこれといった趣味が無い。呪いで人を殺したやつが、趣味なんかに没頭して人生を謳歌していいはずが無いしね。
「こら。ホームルーム始めるぞ。席に着けー」
「うわ!ヤマちんだ」
ヤマちん…。担任の山田先生の事を、隆雄はそう呼んでおちょくる。山田先生も生徒に対して怒鳴るような先生じゃないから、隆雄みたいなやつにはとことん舐められている。
「ヤマちんって呼ぶな。山田先生だろ」
「へーい」
隆雄が「山田先生」と呼ぶ日は、いつになるのだろうか…。
僕の席は1番後ろの窓側だ。3回連続同じ席なのだが、意外とここが1番落ち着く。
……はずだったのに。
「ホームルームってマジ暇だな。ヤマちん話長ぇしさ。お前は1番後ろの席でいいなぁ」
・・・よりにもよって前の席が隆雄だなんて。授業に飽きたらすぐに後ろを振り返って僕に話しかけてくるし、そのせいで僕も一緒になって怒られるし。今だってホームルーム中なのに、こうやって僕に構ってくる。だから、いつ山田先生に注意されてもおかしくな…
「そこの2人。私語は慎みなさい。それに今日は、転校生がきているんだからな」
やっぱり注意された。
「おっ、転校生!」
転校生、というワードに反応した隆雄が、ようやく僕に構うのをやめてくれた。転校生のお陰で助かった……。
それにしても、転校生、ってどんな子なんだろう。もうすぐ夏休みのこの季節に転校してくる子は、意外と珍しい気がする。
「入っていいよ」
山田先生が一言そう言うと、
教室のドアがガラッと開いた。
コメント
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ご高覧頂きありがとうございます! 投稿期間が空いてしまって、申し訳ないです…。 今月下旬に試験がある関係で、次回投稿がだいぶ遅くなってしまうかもしれません…т т 投稿期間は空いてしまうかもしれませんが、引き続きよろしくお願い致します🙇♀️