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のりもちさん
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撮影が終わった楽屋。
メンバーの笑い声が響く中、勇人だけが静かだった。
笑ってはいるけれど、目の下のクマが照明に淡く浮かび、
その笑顔がどこか薄い。
仁人はすぐに気づいた。
十年以上一緒にいるから、勇人の“沈黙の意味”を知っている。
勇人は真面目すぎる。
やると決めたら、誰よりも深く潜ってしまう。
その結果、限界が近づくと、
まるで自分の声をどこかに置いてきたみたいにしゃべらなくなる。
他のメンバーは何も言わない。
違和感には気づいていたが、どう切り出せばよいか分からなかった。
ただ仁人は違った。
勇人が無理をしている時は、
放っておくほうが勇人を傷つけると知っている。
撮影が終わると同時に、仁人は勇人の腕を軽く掴んだ。
「今日は勇人の家に行くからね」
声は優しいのに、拒否できない強さがある。
勇人は少し驚いたように目を瞬かせたが、そのまま従った。
仁人がこういう時に強く出る理由を知っているから。
仁人は勇人のスケジュールを確認し、
空いている時間を見つけると、半ば強引に家へ連れて帰った。
途中スーパーによって簡単に食材の買い出しをする。
勇人の家に到着してリビングに入ると、勇人はすぐに台本を開こうとする。
ソファに座りながら次の企画を考えようとする。
その手を、仁人がそっと包むように止めた。
「今日は、もう頑張らない」
声が甘い。
叱るでもなく、お願いでもなく、
ただ“勇人を休ませたい”という気持ちだけ。
勇人は少し照れたように目を伏せる。
でも、仁人の手の温度に逆らえない。
仁人は勇人の肩を押して、ソファに横向きに寝かせた。
毛布をかける手つきが優しすぎて胸が温かくなる。
「横になって。…今日は俺が全部やるから」
キッチンからは野菜を切る音と、美味しそうな匂いが漂ってくる。
仁人が作る料理は派手じゃないけれど、
“勇人のためだけ”に作られた味がする。
勇人はソファで目を閉じる。
仁人が家の中を歩く音が心地よくて、
胸の奥の張りつめていたものがゆっくりほどけていく。
ご飯のあと、仁人はお風呂を沸かした。
勇人が好きな、少しぬるめの温度。
湯気がふわりと立ち上がる。
「入って」
勇人は素直に従う。
湯船につかると、体の芯まで温かさが染みていく。
仁人が脱衣所の外で待っている気配が、
なぜか安心をくれる。
お風呂から上がると、
仁人がタオルを渡し、
ドライヤーで髪を乾かしてくれる。
指先が髪をすくうたび、勇人のまぶたがゆっくり落ちていく。
そして最後。
勇人がベッドに横になると、
仁人は勇人が目をつむって眠りにつくのを見届けるように隣に座った。
「…仁人、うた歌って、」
仁人は小さく頷いた。
勇人の表情は誰にも見せない弱さと安心が混ざっている。
仁人は声を張らない。
囁くように、そっと歌う。
勇人が好きな、静かで優しいメロディ。
その歌声は、
勇人の疲れた心をゆっくり撫でていく。
勇人の呼吸が深く、ゆっくりになっていく。
まぶたが落ちて、
仁人の歌声に包まれながら眠りへ沈んでいく。
仁人は歌いながら、
勇人の髪をそっと撫でた。
「……おやすみ、勇人」
その声は、
恋人より甘くて、
家族より優しくて、
二人だけの十年が作った、特別な温度だった。
コメント
1件
**はる。** 「sweet dreams」第2話、読んだ……! 仁人の優しさが細部まで沁みたわ。 「今日は、もう頑張らない」って手を包んで止めるシーン、あの温度が画面越しに伝わってきた。 十年の絆って、こういう無理のない距離感と言葉に宿るんだな。 おやすみの歌と毛布の描写、胸がじんわりした。 また更新待ってる🔥