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 どさりと地面に胡坐をかき、考える。


「今回は一からだからな……」


 全く構想を練ったりしていなかったが……どうしたもんか。


「キィ、キィ」


 甲高い鳴き声。一匹の蝙蝠が俺の足元に落ちるように降り立ち、俺の目をじぃと見た。傷だらけで、翼に至っては穴が開いている。


「……お前も、吸血鬼か」


 ただの蝙蝠や、それに似た魔物ではない。こいつも吸血鬼だ。ただ、かなり力は弱っており、死にかけと言っても良い程だが。


「キィ」


 その目は助けを求めるようでもあり、俺に決断を迫るようでもあった。


「まぁ、丁度良いか」


 俺は蝙蝠の体を持ち上げ、肩に乗せた。


「その代わり、契約だ。俺の使い魔になってもらう」


「キィ」


 蝙蝠は頷き、俺の首筋に嚙みついた。


「キ、キィッ!! キィィッ!!」


 凄まじい勢いで血が吸われていく。蝙蝠は我を忘れたような勢いでかぶりついている。文字通り、血に飢えていたんだろう。




 ♢




 異界の森の中、俺の目の前には全裸の少女が立っていた。


「大変お見苦しい所をお見せしてしまいました……お恥ずかしい限りです」


「過去形にするにはまだ早いと思うが」


 寧ろ、現在進行形だ。服を着ない限りはな。


「吸血鬼なら出来るんじゃないのか? 服を作るくらいは」


「……忘れておりました」


 少女の体の周りを白い霧と赤い血が渦巻き、それが収まる頃には白いワンピースを纏っていた。


「それでは、改めてご挨拶を……」


 少女は姿勢を正し、俺の眼を見た。


「高貴なる吸血鬼、アカシアが娘。メイアで御座います。この度は私のか弱き命をお救い頂き、ありがとうございます」


 メイア。そう名乗った少女は軽く足を引き、ワンピースの裾を僅かに持ちあげた。


「それで、主様《あるじさま》……私《わたくし》に、何をお望みになりますか?」


 何をお望み、か。


「吸血鬼である以上、肉体の変化や隠密行動は得意だよな?」


 俺の問いに、少女はにっこりと頷いた。


「ソロモンという、まぁ……悪い奴が悪いことをしようとしてるんだが、街の裏側からそいつについて探って欲しい。怪しい施設があれば潜入してもらうことになるかも知れない」


「……これだけの力を授けて下さったんですから、何かと戦うことになるかと思ったのですけれど」


 確かに、俺の血を吸ったこいつは瀕死から回復するどころかかなりの力を得ることになった。だが、それは飽くまで副産物だ。強化自体が狙いではない。


「何かと戦う可能性については、無いとは言えない。それと……力に関しては、今から渡すところだ」


「……今から、とは」


 俺は少女をこちらに寄せて、その頭に手を乗せた。


「魔術を直接植え付ける。親和性のある魔術以外は難しいが」


「魔術を、直接……聞いたこともありません」


 若干不安そうな目で少女は言った。


「まぁ、安心しろ。そんなに痛くはない」


 先ずは直接刻めるところからだな。肉体の強化、気配の遮断、感覚の強化、日光遮断、この辺りだろう。


「次に、魔術だ」


 対象は吸血鬼。親和性があるものも多い。血、霧、闇、影、夜、吸収、変化、高貴、感染、牙、獣、人間……多すぎるな。


「望む機能は隠密性能の向上、これに絞って考えるか」


 ……あぁ、これは利用できるな。


「吸血鬼は鏡に映らない」


 鏡は光の反射で物を映す。それは、人間の眼も同じだ。透明化、若しくは相手の視界から逃れる魔術には紐付け出来そうだ。


「後は……夢幻の霧、彷徨いの闇、光喰らい、夜の衣、吸命吸魔、紅き血、貴威」


 他にも色々入りそうだ……流石は吸血鬼。それに、素体もかなり良いな。素質がある。


「楽しみにしていろ」


 魂に触れることで分かったが、この少女はその矜持故に今まで辛酸を舐めて生きてきたらしい。


「今日からは獣の血を啜る必要は無いぞ」


「……主、様」


 虚ろな目でこちらを見る少女の頭を撫で、残りの容量に詰め込む魔術を考えた。






 ♦……side:メイア




 人は、噛まない。人は、殺さない。だって、私も人だから。


「キィ、キィ……!」


 強く優しかった母。無理やりに人を噛まず、殺さず。同じ人として生きる。その在り方を真似しろとは一言も言われなかった。でも、私にとってその生き方以外は高貴なんかには見えなかった。

 同じ姿をした人間に無理やり噛みつき、吸い殺す。挙句の果てには人間を見下し、家畜のように扱う。それのどこが高貴なのか。でも、そんな彼らとも同じ血が流れている私は血を吸わずには生きられなかった。


 獣の血。私は他の吸血鬼達にそう呼ばれ、迫害されてきた。それは、私が獣の血を啜って生きているからだ。臭くて、美味しくも無い血だ。でも、私が生きる為には、高貴である為には、必要なことだった。


(痛い、苦しい……)


 蝙蝠の羽を動かすたびに、身体中に痛みが走る。穴の開いた翼ではまともに飛ぶことも出来ず、何度も何度も傷付いた体を木にぶつけてしまう。

 どこからも追い出され、時には命を狙われ、何とか逃げ延びたこの森でも拒絶され、もう私の体は限界を迎えようとしていた。


(血の……匂い……)


 人の血、それも特別美味しそうな極上の血の匂い。気付けば私はその血の匂いを追って、ふらふらと身体をぶつけながら飛んでいた。


「ッ、キィ……」


 そこには、向かい合う二人の男が居た。片方は美味しそうな血の匂いを漂わせる人間、片方は私を獣の血と蔑み、蹴飛ばした吸血鬼。


(駄目……その、男は……)


 あの吸血鬼は並みの吸血鬼じゃない。戦っても勝ち目なん、て……ぇ?


「遅いな」


 吸血鬼の攻撃を簡単に回避し、その男は刃に眩い光を纏わせ……吸血鬼の肉体を消滅させた。


「夜の支配者、か……こんな異界に引っ込んでる時点でお察しだな」


 呟き、その場に座り込んだ男。私は思わず茂みを飛び出していた。


「キィ、キィ」


 近付けば近付くほど、芳醇な血の香りは強まる。あぁ、極上の血。きっと、そう。


「……お前も、吸血鬼か」


 気付かれた。でも、構わない。


「キィ」


 私は男の眼を見た。押し寄せる吸血衝動を堪え、欲求を抑え、ただその目を見つめた。助けを乞うように、そして選択を委ねるように。


「まぁ、丁度良いか」


 男は私の体を持ち上げて、肩に乗せた。そして頭を傾け、首筋を見せた。余りにも無防備で、目が眩む。頭がおかしくなりそうで、私の口から牙が伸びた。


「その代わり、契約だ。俺の使い魔になってもらう」


「キィ」


 私は一も二も無く頷いて、その首筋に噛みついた。


「キ、キィッ!! キィィッ!!」


 はしたなくも、むしゃぶりつくように私は血を吸った。初めての味だった。あぁ、美味しい。頭が狂いそうになりながら、吸いつくすような勢いで私は血を吸い続けた。




 気付けば、私の体は元に戻っていた。欠損した肉体を補えるほどの血が、力が戻ったのだ。


「ぅ……」


 いや、力が戻ったどころではない。私の体には、今……元の数倍程度じゃ収まらない程の力が満ちていた。理由は考えなくても、分かる。目の前の男の血だ。普通なら既に死んでいるくらいの量を吸っても、何故かピンピンしている男。この男の、血だ。


「ん、んっ……」


 まともに人の姿で話すのは久し振りだ。でも、きっと目の前の相手には礼節を尽くさなければいけない。大抵の吸血鬼は受け入れないであろう、使い魔という身分。それを受け入れた以上、最低でも吸血鬼としての気品は示さなければいけない。


「大変お見苦しい所をお見せしてしまいました……お恥ずかしい限りです」


 姿勢を正し、にこりと笑って私は声をかけた。

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