「果穂ちゃんもママに?」
「うん。だからさ、あの子も努力したってことを慧君は知っておかないとね。やっぱり……好きな人と一緒にいられないって、すごくつらかったと思うんだ。きっと、忘れようとしてずいぶん苦しんだはずだよ」
「……はい」
本当の母親に諭されたみたいに、慧君はうなづいた。
果穂ちゃん、ママになったなんてすごいよ。
本当にみんな、新しい人生を一生懸命歩んでるんだ。
楽しいこと、つらいこと、それぞれにいろんなことを乗り越えて今がある。
そして、これからもまた……
私が祐誠さんを選んだように、果穂ちゃんがその人を選んだように、人生の新たな章を自分自身で作って進んでいくんだ。
途中、それがどんな展開になったとしても、それは全て自分が選んだ道。
だけど、つまずいた時は周りに頼ることも大事。
私は、それをあんこさんに教えてもらった。
いつも苦しい時、もちろん嬉しい時も、その広くて大きな心に甘えさせてもらってた。
それがどんなに有難かったか。
あんこさんみたいに誰かを支えられる側の人間になりたいって、最近、すごく思う。
「じゃあね」
ニコッと笑って、あんこさんは別の人に声をかけにいった。
「さすがだね。本当にいつも人の心をちゃんと見てる。優しい人だね」
「俺は、ちょっと怖いけど」
「慧君、あんこさんの子どもだもんね」
2人で笑った。
「ねえ、慧君。仕事はどうなの?」
「うん。今は酪農も手伝ってるから、朝も早いし。昼は製粉所の仕事で、結構最近は営業活動に力を入れてるから外回りも多い。伯父にも酪農や乳製品のこととかいろいろ教わって勉強したりしてるし、毎日寝る間も惜しんでって感じ」
「すごいね、頑張ってるんだね。でも、全然疲れた顔してないし、前よりイキイキしてるよ」
本当にそう見える、何だかすごく頼もしい。
「きっと、こっちの生活が俺には合ってるんだと思う。空気もいいし、食べ物も美味しいし。まあ、冬はちょっと寒いけどね。でも、あの時決心して北海道に来て良かったって、本気で思ってるんだ。俺は……間違ってなかったよ」
自信と確信に満ちた表情。
慧君が北海道に行く前に言ってたように、何倍も成長できたんだね。
「そっか……北海道で頑張ってる慧君のこと、私なりにずっと応援してた。その言葉を聞いてますます安心したよ。慧君は自分の道をここで見つけたんだね」
「うん、ありがとう」
「今回、久しぶりにあんこさんや東堂社長、慧君に会えて昔を思い出したよ。あの頃は、いろいろわからないことばかりで、手探りで毎日生きてた。もちろん今もそうだけど、年齢を重ねて、ちょっと心に余裕も出てきたっていうか……神経が図太くなったのかな?」
私が笑うと、慧君は、
「変わらないね」
って、私をキュンとさせるような笑顔で言った。