テラーノベル
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扉を抜けた先は、外……のはずだった。冷たい風。白い霞。
空気は確かに“外”のもの。でも、はっきりした景色はどこにもない。
地面も空も輪郭が曖昧で、この世界がまだ揺れている。
数歩進んでから、気づいた。
校門が、ない。
代わりに――
巨大な黒板が道をふさいでいた。
ひび割れた校舎の壁で作られたような、歪な黒板。
その表面には、チョークの粉がまだ生きているみたいに漂っている。
黒板いっぱいに、荒れた文字が書かれていた。
《本当に、忘れないのか》
思わず息をのむ。
さっきの声とは違う。
もっと、深い。
校長ひとりではなく、この学園そのものの声に思えた。
風が強く吹き、粉がざらざらと舞い上がる。
耳の奥に、誰かの笑い声や、泣き声や、怒鳴り声が混ざる。
いくつもの“思い出の残響”。
——これは、この場所にいたみんなの記憶の重さだ。
逃げたい。怖い。
でも、逃げたらきっとまた閉じ込められる。
ここで答えないと、帰れない。
黒板の前に立つと、足元に白いチョークが落ちていた。
誰も触れていないのに、転がって僕の足元まできた。
「……答えを書けってこと?」
口に出すと、黒板からざらざらとチョークの粉がこぼれた。
書かせる気なんだ。
震える手で、チョークを拾った。
指に粉がつく感触は、妙に生々しい。
俺は黒板に向き合い、文字を刻んだ。
《忘れない。未来に持っていく》
書きながら、胸の奥が痛くなる。
思い出すものは、たくさんある。
誰かとふざけた帰り道も。
泣いた日も。
怒られた教室も。
仲間との笑い声も。
ぜんぶ過ぎた日なのに、ぜんぶ生きてる。
書き終わった瞬間、黒板がビリビリと震えた。
ひびが走り、まるで大きな叫びみたいに砕けていく。
ドォンッ!!
粉になって崩れ落ち、風に飛ばされて消えた。
その奥に――校門があった。
さっきまでなかったのに、ちゃんとそこにあった。
そして、門柱には薄れて消えかけた文字。
《からぴち学園》
俺は門に向かいながら、そっとその文字に触れた。
かすれて読みにくい名前は、でも確かにそこにある。
未来へ連れていけるように、心の中で繰り返し読みながら歩いた。
門をくぐる時、風の中に声がまじった。
――ありがとう
――忘れないでくれて
優しい、たくさんの声だった。
コメント
1件
最後の試練最高でした!