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「水無瀬さん、おはよう」
「松井くんおはよう」
今日も朝から綺麗で華やかな笑顔。
この世界は君のために存在しているのかもしれない。
そう錯覚させるような圧倒的存在感。
「今日の髪型も良いね」
いつもは下ろしている髪を高く結んでいる。
ウェーブがかかっている毛先がふわふわしていて目を奪われてしまう。
「ありがとう!最近暑くなってきたからね結んでみた」
「すごくいいと思う。お団子とかもいいと思うよ」
「確かにね!さすが松井くん。」
「ありがとう」
朝から彼女と話せることを嬉しく思う。
今ここで君が好きだと言っても良いと思える。
「蒼空!お前天才だ」
「流石すぎる俺」
桜井には悪いと思っているけれど、俺は自分の気持ちを押えられるほど強い男じゃない。
「莉央先輩、これドリンクです」
「おーありがとう」
あれから、彼は特に変わった様子もなく普段通りで、意識しているのは私だけかとまた心が痛くなる。
好きで好きで仕方が無いのに。
彼はそれに気付かないふり。
「千華ってさ、まだ桜井先輩のこと好きなの?」
「好きだよ?」
「何がいいの?顔がいいだけじゃーん」
「だって彼女がいるから」
友人とのたわいのない会話。
屑な女友達にはすごくウケがいい。
だから、私はまた取り繕っている。
人によって態度を変えるから私は彼に好かれないのだろうか。
「ほんとに千華って最低ー」
そう言いながらもすごく楽しそうで、私がこの子と仲良くすることで私の株はきっと下がっている。
だけどこういう子達と仲良くしていないと私が酷い子みたいで嫌になる。
「千華ちゃん、今日一緒に帰らない?」
「のあ、帰ろっか」
小学校の時からずっと一緒で幼馴染と呼ぶ関係だと思う。
ただ、性格が全く違うから学校ではあまり話さない。
「ねぇのあ、恋人がいる人を好きになったらダメなのかな?」
「私は、だめだとは思わないよ。 」
「好きって辞めたくて辞められるものじゃないから。 」
秋の風が吹く。
優しい匂い。まるであの人みたいで胸が締め付けられる。
「私の好きな人には好きな人がいて、その人は私と違って純粋な可愛さがあってすごく、羨ましくて、。 」
「好きな人の反応を見ると私じゃダメなんだって思えて。」
彼と彼女さんを見るといつも辛くて苦しくて逃げたくなる。
誰よりも彼を分かっているのは私だって言ってみたい。
「実るまで頑張るのが千華ちゃんのいいところだよ。だから大丈夫、大丈夫だよ。」
「そっか、。そうだよね!ありがとう!のあ」
「またね!」
好きだから付き合いたい。
当たり前の感情なのに恋人がいるとそれが成り立たない。
それっておかしいよね。
私は莉央先輩が好き。
絶対に諦めない。
「好きだよ、千華ちゃん」
絶対に届くわけのない好きだけどね。
「莉央先輩!お疲れ様です」
彼はまた、私を不安にさせる。
この子は振られても彼が好き。
執着心が強い。
「おつかれ、千華。」
私以外の女の子の名前を呼ばないでなんて言える訳ない。
彼と女の子が話しているだけで相手の子を殺したくなるのに。
きっとそんな感情彼には無いから。
「莉央くん、早く帰ろう」
そう行った時の千華ちゃんは敵対視が丸見えだった。
いつもは嫉妬だけだったのに私を敵として見ている。
誰かが余計なことを言ったに違いない。
あなたは、彼の何者にもなれないんだと言ってあげたい。
「おう、帰るか」
いつもなら絶対にしないけれど、彼の手を校内で握った。
そして彼の腕を私の体に引き寄せる。
「どうした、志乃」
「別に」
そうやって、彼を自分のものだと意思表示した彼女さんの顔は悪魔のような笑顔だった。
どこが純粋な可愛さだ。
全く違う。
これは表情管理のプロだ。
誰にもこんな顔を見せたことが無いのだろう。
あれは人では無い。
「莉央先輩!」
振り返った時、彼の隣にいる彼女さんの顔は微笑んでいた。
いつも通りの顔。
でもその裏にはこれ以上近付くな、と言っている気がする。
「また明日、。」
「うん」
私に手を振るふたり。
彼の彼女は思ったよりも悪魔みたいな人だった。
「怖すぎでしょ」
今から遡ること約2年前。
あまり目立ちたくない私は昼休み図書館をよく利用していた。
いつも通り図書館に行き面白そうな本を探していた。
“嘘と愛”という題名の田舎の風景が書かれた表紙だった。
題名と表紙が全くそぐわなくて私の興味をそそり借りることにした。
案の定それは面白くて時間が経つのを忘れていた。
ただ、とある1ページにたどり着いた時になにか違和感を感じた。
2ページほどめくると小さな紙の切れ端が挟んであった。
何の変哲もないただの紙だけど私はこれを栞だと理解した。
その紙にボールペンで「これは栞?」と書いて挟み、残りの栞までのページを読み元にあった本棚に戻した。
次の日の放課後その本を見に行った。
ページを開くと新しい紙に交換されており本には二枚の紙が挟んであった。
一枚は私が読んでいた所まで。
もう一枚はメッセージと共にその本を読んでいる誰かが読み進めた所まで。
「そう!栞(笑)お礼したいから明日の朝、図書館に来て欲しい」
綺麗とはお世辞にも言えない字だったけれどなんだか愛らしかった。
この人はきっと男の子で本が好きな静かめな子なのかなと勝手な想像をしていた。
次の日の朝、図書館に行くと椅子に座っている同じクラスの桜井 莉央くんがいた。
「桜井くん、?」
一瞬なにかの間違いかと思った。
桜井くんはクラスの中心的な人で読書をするような性格じゃないと思っていたから。
「やっぱり!水無瀬さんだったんだ」
「字見て確信した!あんな綺麗な字書いてるの水無瀬さんくらいしか見たこと無いからさ! 」
この瞬間、私は恋に落ちた。
今まで男の子はみんな、私と話す時顔を真っ赤にして会話にならなかったり噛んでばかりで何を言ってるのか聞き取れなかったりした。
でも、彼は違った。
普通の友達と話すように私と話してくれる。
「あ、ありがとう。」
「でもどうして、借りなかったの?」
いつもはしない緊張。
なんだか恋するって世界が輝いて見えて、この図書館が舞台にすら見えてしまって私をおかしくさせる。
「俺さ、入学の時に 配られた図書カード無くしちゃってさ」
「再発行とかめんどくさいし、あんまりここ人来ないから本に適当な紙挟んで栞代わりにしてるんだよね」
無邪気に笑う彼。
どこがいいのか聞かれても上手く回答できないけれど、唯一無二の彼が好き。
「読書するとか意外だね。いつしてるの?」
「朝!このくらいの時間に来て朝本読むのが好き」
「今度から一緒にする?昼休みは友達と話した方が楽しくない?」
「そう、しようかな」
その約束がなんだか嬉しくて彼との特別な時間が出来て特別な人になれたみたいで。
あぁ、幸せだなって。
次の日から私と彼は気になった小説を一冊持ってきて黙々と向き合って本を読んだ。
予鈴が鳴ると本を片付け感想を言い合いながら教室に戻る。
毎日、学校に行くのが楽しみになっていた。
あの本を手に取らなかったら私たちは仲良くもなっていなかった。
そう考えるとこれは運命ではないかと考えてしまう。
わざわざ本屋へ行って”嘘と愛”を買った。
そしてカバンに入れて毎朝電車に揺られながら読んでいる。
展開は分かってるけど、読み方を変えると別の物語が見えてくるようですごく楽しい。
ある朝、彼は走って来て私に言った。
「ごめん!これからは朝一緒に読書できない」
「どうして?」
動揺で声が震えていたかもしれない。
彼と私の唯一の関わりを無くさないで欲しい。
「部活がこれから朝練あって」
「そっか、しょうがないね」
彼はそう言うと走って行った。
静かになった図書館。
前までは舞台のようだったのに急に現実に戻された感覚になった。
これは神様からのチャンスなのかもしれない。
その日の放課後彼を図書館へと呼び出した。
彼が来るまでの時間は人生で一番心地が悪かった。
部活終わりの汗をかいた彼は私の方へ優しい顔をして近付いてきた。
「どうかした?」
「あの、えっと、」
言いたいことをまとめていたはずなのにいざ彼が目の前に来ると頭が真っ白になり言葉が出てこない。
焦りと恥ずかしさで顔が真っ赤になって行くのがわかる。
「ゆっくりでいいよ」
こんなダサい私を見ても優しくしてくれる。
ああ、やっぱり
「好き」
「え?」
「ずっと、桜井くんが好きなの。」
「私と付き合って、?」
彼は少し難しい顔をしたけれど真剣な表情になり私の目を見て言った。
「うん、付き合おう。」
そう言って私たちは抱き合った。
「やばい!文化祭だね〜」
「どこの組行く?」
「やっぱり、桜井先輩がいるところでしょ」
彼は一年生の子から人気でよく話しかけられている。
私もそのひとりなんだけれど。
ただ、彼女を全員知っているから奪おうと本気で行く人はいない。
「莉央先輩!おはようございます」
「おはよう」
「今日、先輩の組行きますね!クレープ食べます」
「おーありがと」
「無理なのは重々承知してるんですけど一緒にまわれたりしませんかね」
「ごめん、志乃と一緒にまわるんだよね。」
「ですよね、、」
「ごめんな、じゃあ俺行くわ」
「あ、はい」
自分から傷つきに行くとか私、何してんだろう。
「ねぇ、千華ちゃんだっけ?」
振り向くと2年の先輩達がいた。
かなり美人な人達ばかりだったけれどなんだか怒ってるようで怖い。
「あ、はい。」
「志乃の彼氏だって分かってるよね。好きなのは分かるけどもう少し身分考えようか」
リーダー的存在の人が一歩前に出て仁王立ちで言ってくる。
「でも、好きなものは好きだから。」
「桜井は志乃のことが好きなのに?」
「無謀な恋じゃん。」
「私、付き合えるまで好きでいますから」
「あんたさー」
リーダー的な人が私を掴もうとした時、誰かが腕を掴んだ。
「おい、なにしてんの」
彼だった。
息が上がっている。
もしかしたらこれを見て走って来てくれたのかもしれない。
「手はあげちゃダメだろ」
「はぁ?誰が手なんて上げるの」
「だとしても!威圧的な態度で後輩脅すのもどうかと思う」
「はぁ、ごめんなさい、私が悪かった」
微塵も思ってなさそうな謝罪と態度。
でも、揉め事になりたくないから私は渋々許すしか無かった。
「俺のこと好きなんだろ?」
「だったらお前は俺だけ好きでいればいいんじゃない」
そう言うと彼は校舎に戻って行ってしまった。
「美月、ありがとう」
彼の彼女さんが来てリーダー的な人の肩に手を置いた。
「志乃、」
「私を思ってやってくれたんでしょ?ありがとうね。」
「千華ちゃん、ごめんね私の友達が。」
「でも、莉央くんは私のだから。そこだけはちゃんと覚えておいてね」
笑っているのに全く笑っていない。
きっと怒りで自分の表情管理が上手く出来なくなってしまっているのだと思う。
「志乃さん!私莉央先輩が好きです」
「だから振り向いて貰えるように頑張ります」
「頑張って」
適当な返しとかではなくて私を嘲笑うかのような言い方だ。
私から見た悪女はあなた。
ヒロインは必ず勝つから。
彼は本当に千華ちゃんに気があるのかもしれない。
不安と心配で表情筋が固くなって全く笑えていなかった。
純粋な私が彼は好きなのに、それさえも演じられないなら私になんの価値もない。
千華ちゃんみたいにああやって絡まれたら喧嘩売るような子の何がいいのだろう。
彼のタイプでは無いはずなのに。
私のことが好きじゃないのは分かってる。
でも、愛して欲しい。
これは欲張りなのだろうか。
わがままな私は愛されないのだろうか。
いっその事誰でもいいから私を殺して。