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一人にはしないで
――レロの家・夕方。
「ちょっとコンビニ行ってくる」
靴を履き、ドアノブに手をかけた、その時だった。
『……お兄様』
背後から、いつもより小さく、縋るような声。
「ん?」
振り返ったレロは、そこで一瞬、言葉を失う。
メロは部屋の中央に立っていた。
相変わらずの優雅な服装――けれど。
うさ耳は以前よりも長く、ふわりと柔らかさを増し、
尻尾も、隠しきれないほど存在感を主張している。
そして何より、耳が不安そうに垂れていた。
『……どちらへ?』
「コンビニだけど」
何気なく答えたレロの言葉に、
メロの耳がびくっと反応する。
『……すぐ、戻りますわよね?』
「? まあ、数分で」
その返答を聞いた瞬間、
メロは小走りで近づき、レロの服の裾をきゅっと掴んだ。
『……』
「……メロ?」
『……その……』
視線を伏せ、言葉を選ぶように一瞬黙ってから、
小さく、けれどはっきりと。
『……お一人で行かれるのは……少し……』
尻尾が、そわそわと揺れる。
「……」
レロは状況を理解して、軽く眉をひそめた。
「……ウサギ化、進んでる?」
『……自覚は、ありますわ』
メロは苦笑して、耳を押さえる。
『理由もなく……胸が落ち着かなくて……
お兄様の姿が見えないと……その……』
言葉が途切れ、指先に力がこもる。
『……寂しい、などと……
情けないですわね……』
「……」
レロはしばらく黙ったまま、
掴まれた裾に視線を落とす。
そして、ドアノブから手を離した。
「……分かった」
『……?』
「今日はやめとく」
そう言って、靴を脱ぐ。
「どうせ冷蔵庫にも何かあるし」
メロの目が、驚きに見開かれる。
『い、いいのですの……?
私のせいで……』
「別に」
レロは頭をぽん、と軽く叩く。
「放って出てく方が後味悪い」
『……っ』
メロは一瞬、言葉を失い――
次の瞬間、耳がふわっと立ち上がった。
『……ありがとうございます、お兄様』
そう言いながらも、
裾を掴む手は、しばらく離れなかった。
レロはそれを見て、少しだけ照れたように視線を逸らす。
「……ほんと、手のかかるウサギだな」
『……それでも』
メロは小さく微笑む。
『今は……そばにいてくださると、助かりますわ』
その言葉に、
レロは小さく、ため息混じりに笑った。