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朝。
カーテンの隙間から差し込む光が、部屋をやわらかく照らしていた。
静かな空気の中で、先に目を覚ましたのは佐野勇斗だった。
「……ん、」
ぼんやりと視線を落とす。
腕の中には、吉田仁人。
ぴったりとくっつくようにして眠っている。
その距離感に、一瞬だけ昨日のことがよぎる。
「……っ、」
思い出した途端、軽く息を吐く。
(……ギリギリだったな、ほんとに)
理性は保った。 でも、ほぼ崩壊寸前だったのは間違いない。
視線を仁人に戻す。
いつもより少しだけ幼く見える寝顔。 熱もだいぶ引いているみたいで、呼吸も落ち着いている。
「……よかった」
小さく呟く。
そのまま、そっと前髪に触れる。
すると——
「……ん……」
仁人が微かに動いた。
「……勇斗……?」
まだ眠そうな声。
目を開けると、すぐ近くに勇斗の顔。
一瞬、状況を理解できずに固まる。
「……え、」
そして——
一気に思い出す。
「っ……!!」
顔が一気に赤くなる。
「な、なにこれ……」
距離、近すぎる。 というか、抱きしめられてる。
昨日の記憶が断片的に蘇る。
抱きついたこと。 弱音を吐いたこと。 自分から求めたこと。
「……っ、最悪……」
思わず顔を逸らす。
そんな仁人を見て、勇斗はふっと笑った。
「最悪って何」
「……だって……」
声が小さくなる。
「……全部覚えてるし……」
消え入りそうな声。
それを聞いた勇斗は、少しだけ目を細めた。
「そっか」
あっさりした返事。
でもその直後——
ぐっと腕の力を強める。
「え、ちょっ、勇斗……」
逃げようとした仁人を、完全に引き寄せる。
「まだ離さない」
「は!?なんで!」
「なんでって」
当たり前みたいに言う。
「昨日あんだけ頼ってきたのに、今さら距離取るの?」
ぐっと詰められる距離。
仁人は言葉に詰まる。
「……っ、それは……その……」
視線が泳ぐ。
そんな反応を見て、勇斗はさらに距離を詰めた。
「仁人」
名前を呼ぶ声が、やたら優しい。
「昨日、ちゃんと頑張ったじゃん」
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「……は?」
思わず顔を上げる。
「無理って言えたし、頼れたし」
ぽん、と頭に手が乗る。
「偉いよ」
その一言に、思考が止まる。
「……なにそれ……」
照れ隠しみたいに呟く。
でも、嫌じゃない。
むしろ——
じわっと胸があったかくなる。
「いつも無理するから」
勇斗は静かに続ける。
「こういう時くらい、甘えていい」
そして、もう一度強く抱きしめる。
逃げ場がないくらいに。
「……っ、」
仁人の肩が小さく揺れる。
「……恥ずいんだけど……」
ぼそっと言う。
「知ってる」
即答。
「でもやめない」
「なんでだよ……」
「可愛いから」
間髪入れずに返ってくる。
「……っ、」
一気に顔が熱くなる。
「……ほんと無理……」
そう言いながらも、抵抗は弱い。
むしろ——
少しだけ、力を抜く。
それに気づいた勇斗は、ふっと笑う。
「ほら」
背中をゆっくり撫でる。
「ちゃんと力抜けてる」
「……うるさい……」
顔を隠すように、勇斗の胸に押し付ける。
完全に昨日と同じ体勢。
でも、違うのは——
意識がはっきりしてること。
それでも離れない自分に、少しだけ驚く。
「……勇斗」
小さく呼ぶ。
「ん?」
「……今日、休む」
ぽつりと言う。
勇斗は一瞬だけ驚いて、それから柔らかく笑った。
「いいね、それ」
頭を軽く撫でる。
「じゃあ一日甘やかすわ」
「……いらない」
即否定。
でも、声は弱い。
「遠慮すんなって」
そのまま、またぎゅっと抱きしめる。
「今日は俺の番」
その言葉に、仁人は一瞬だけ黙って——
「……じゃあ、ちょっとだけ……」
小さく呟いた。
勇斗は、嬉しそうに目を細める。
「いくらでもどうぞ」
そのまま、さらに優しく抱きしめた。
昨日よりも、ずっと穏やかな時間が流れていく。
仁人はもう抵抗せずに、静かにその腕の中に収まった。