「俺と朔太郎は四つ歳が離れているから、朔太郎が生まれた時、俺は今の悠真よりも幼かった。初めは弟が出来て嬉しかったんだが、日を追う事に朔太郎を疎ましく思う事もあったんだ」
翔太郎は悠真の横に腰を下ろし、言葉を選びながら自分が当時感じていた事を話していく。
「父さんや母さんが朔太郎にかかり切りになっていった時、何で自分だけがこんなに寂しい思いをしなければならないのかと悲しみが怒りに変わった事もあった。弟は欲しかったけど、こんな思いをするなら弟なんていらない、そう思ってだんだん朔太郎を構わなくなった。その頃の俺はいつも一人で孤独だった」
そして、その話を少し離れた場所から聞いていた朔太郎は一人複雑な表情を浮かべていた。
悠真を諭す為とは言え、初めて聞く話だったから。
「やっぱり、一人になっちゃう……?」
翔太郎の話を聞いていた悠真は余計に不安になってしまったようで逆効果なのではと思う朔太郎だったのだけど、話にはまだ続きがあった。
「いや、一人にはならない。俺は勝手にそう思い込んでいただけだったんだ」
「どうして? だってしょうは、さくにパパとママをとられてかなしかったんでしょ?」
「いや、そもそもその考え方が間違ってるんだ」
「?」
「確かに、赤ちゃんともなれば泣くしか意思表示が出来ないから、大人はかかり切りになってしまう。逆に悠真は、嫌な事は嫌だ、嬉しい事は嬉しいと言えるだろう?」
「うん」
「嬉しい事、悲しい事を話してもらえれば、大人だってそこまでかかり切りにはならないけど、何がして欲しいか分からないから、理解するまでに時間がかかる。結果、赤ちゃんばかりを構っているみたいに見えてしまうんだ。ただ、それだけ。決して、俺の事がどうでも良くて朔太郎ばかり構っている訳では無いと知ってからは、俺もまた朔太郎と向き合うようになった」
「…………」
「そして、父さんや母さんの助けになれればと俺が朔太郎の気持ちを理解してやろうと構い始めたらな、いつしか朔太郎は俺に懐いて、父さんや母さんよりも俺の事を呼ぶようになった。結果、父さんや母さんは朔太郎ばかりを構う事もなくなって、寧ろ俺は忙しくなったから寂しいなんて思う事はなくなったよ」
「…………しょうは、さくが大すき?」
「ああ、大切で大好きな弟だ」
「ゆうまも、赤ちゃんのこと、大すきになれる?」
「勿論、なれるさ。悠真は優しいから、赤ちゃんもきっと悠真を好きになってくれるだろう」
「……そっか、じゃあゆうま、赤ちゃんにやさしくする! しょうみたいなお兄ちゃんになる!」
翔太郎の話を聞き、自分なりに気持ちの整理をつけた悠真の表情はとても頼もしく見え、早くも『お兄ちゃん』としての自覚が芽生え始めたようだった。