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※リオヌヴィ※
空から降り注ぐ日の光は美しく花を彩り、暖かな春の風は、シルクでできたなめらかなカーテンをはためかせた。フォンテーヌ邸を走り回る子供たちの、遠くからの笑い声。騒々しいものは何一つなく微かに、揺れた木の葉重なり合う音が聴こえる。
あぁ、実に”平和”だ。
そう、透き通った飴色の紅茶を傾けながら、ヌヴィレットは思った。紅茶独特の苦味が舌へ乗ったあと、レインボーローズの匂いが鼻を抜ける。ほう…、と目の前の彼の紅茶を淹れる腕に感嘆の息をつきながら、ヌヴィレットは足を組み直した。
「…君が淹れてくれる紅茶は、特段に美味だ。これは世辞でも何でもなく、ただ心からそう思っただけで。」
顔を上げてそう呟けば、微笑みながらじーっとこちらを見つめるブルーグレーと目が合った。もしかしてずっと、私のことを見ていたのだろうか。ふと見れば彼が持ち上げているカップの中身は一向に減っていないようだった。やはり……。
ふいに、先程こぼした感嘆の息を見られていたのか、と羞恥が湧き目をすい、と逸らせた。そして、苦し紛れに再度カップへ口をつける。いくら飲んでもまだ変わらぬ味は、やはり彼の巧みな腕のお陰なのだろう。
「そうかい。最高審判官様のお眼鏡に叶ったみたいでよかったよ。」
そう言い、ようやっと彼はカップに口をつけ紅茶を飲み始める。目を閉じて舌で風味を味わう姿は、”水の下の公爵”という名を忘れてしまうほど実に優雅で、美しかった。
「あぁ、そうだ。…あんたが良かったら受け取ってくれ。」
「…ふむ……?」
ぱっと、彼は顔を上げてカップをソーサーに戻す。そして自身が座っている少し横の、紙袋を手に取って翳した。ヌヴィレットはそれを軽く手に取り見つめる。 特段なんの変哲もない、紙袋。なんだ?と頭の上にクエスチョンマークを浮かべていれば、彼はくすりと笑い声を漏らした。
「はは、すまない。あまりにもあんたが俺を信頼してくれてるみたいで、可愛くなっちまって。」
「………かわいい…?」
彼は時々こういった言葉を使う。だが、こんなすいりゅ…………こんな、成年を超えた男に使う言葉ではないのでは?そう疑問に思って尋ねたこともあったが
「あんたは可愛いからなぁ」
と、答えになっていない返しをされたのでもう聞くのはやめている。だが、やはり疑問は消えない。可愛い…というのは、こう……そう、例えばメリュジーヌらに。彼女たちにこの言葉は実に似合っている。(まあ彼女たちも人の成年は大きく超えているのだが)可憐で、謙虚。高いところにある書類を、手をめいっぱいに伸ばしている姿は、あまりにも愛おしくて、1度滑稽な声を漏らしてしまったほどだ。
そんなことを考えながらヌヴィレットは首を僅かに傾け、リオセスリをじっと見据える。
「それは今出した紅茶の茶葉さ。あんたはそれが好きそうだったから、一応買っておいたんだ。予想が当たってよかったよ。」
と、嬉しそうに彼は言つた。仮想のしっぽがぶんぶんと揺れるのを見て、思わずふふ、と笑ってしまう。
「…ではありがたく、頂戴しておく。感謝しよう。後日お礼の品を用意しておくので、どうか受け取ってくれ」
こほん、といつかの少女がしていたように咳払いをひとつ零し、手元のメモ用紙にペンを走らせる。そりゃありがたいな、と彼は呟きカップを口に寄せた。
そうは言ったものの何がいいだろうか……。やはり、茶葉?いや、代わり映えしない…。
浮かんでは消えて、写っては途切れていく。彼が喜ぶものを、と思うとあまりにもいつも通りすぎる。新しく、だが彼が気に入りそうなもの。持つ限りの知識を回し、熟考する。そう思えば、今までこんなに贈り物を悩むことは、無かったのだが…。
___この際、クロリンデ殿にでも聞いてみようか。おそらく、彼女に相談すればナヴィア殿もいるだろうから。
頭の中のスケジュールを確認し、空白を探す。ふむ、 運良く明明後日の午後は何も予定がないようだ。
静かに安堵のため息をつきながら、再度カップを手に取る。喉を流れる飴色に、水龍は頬を緩めた。