テラーノベル
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暗闇の中
最初に聞こえたのは、
肉が裂ける音だった。
――ブチッ
続いて、
金属が捻じ切れる音
――ミシ、ミシミシミシッ
赤い非常灯が点滅する
その一瞬の明滅の中で、
モトキは見た。
白い仮面の敵の腕が、
逆方向に折れていた
「……な、に」
敵が初めて後退する
突き刺したはずの腕を、
リョーカが掴んでいた。
だが
その姿が、
おかしかった。
黒い
身体の至る所から、
液体みたいな闇が滲み出ている
蛍光黄色の髪は、
先端から黒へ侵食され、
瞳の色も変わっていた
青白い光
まるで深海みたいな色
「リョーカ……?」
モトキの声に、
反応はない。
リョーカは俯いたまま、
ぼそりと呟く
「……いたい」
その声は、
子供みたいだった。
『危険度上昇』
白い敵が距離を取る
『ヴェルトラウム中枢へ接続反応確認』
『緊急処分へ――』
言い終わる前だった
リョーカが消えた
ドンッ!!!!!!
空気が爆ぜる
次の瞬間、
白い敵の上半身が消し飛んでいた。
衝撃だけで壁が崩壊する
ヒロトが目を見開く
「は……?」
速すぎる
今までのリョーカじゃない
いや
そもそも、
普通のサイボーグの動きじゃない
白い敵の残骸が再生しようとする
だが
黒い液体が侵食していく
『再生阻害……確認』
『RX-00、危険――』
グシャァッ!!
リョーカが頭部を踏み潰した。
一帯が凍りついたように静まる
ここにいるすべての生命が動きを止めた中で
ただ、
リョーカだけが動いていた。
ぎこちなく
壊れた人形みたいに
「リョーカ!!」
モトキが叫ぶ
反応なし
「おい!! 聞こえてんのか!!」
ヒロトも声を荒げる
その時
リョーカの首が、
ゆっくりこちらを向いた。
ゾッ――とした
目が
目だけが、
完全に“別の何か”だった。
人間の感情が、
見えない
「……モトキ、くん?」
掠れた声
だがその直後
リョーカが頭を押さえる
「ッ……あ、ぁ……!」
黒い液体が暴れる
床に触れた部分から、
肉の花みたいなものが咲き始める
バグだ
新しい個体が、
生まれかけている
「下がれ!!」
モトキがヒロトを引く
だがヒロトは動かなかった
「……違う」
「ヒロト!?」
ヒロトは短剣を下ろす
そして、
ゆっくりリョーカへ近づいた。
「お前、まだいるだろ」
「やめろ!!」
モトキの声
だがヒロトは止まらない
黒い液体が腕に絡みつく
皮膚が焼ける
それでも
「帰ってこい、リョーカ」
真っ直ぐ見つめる
「お前、友達できたって言ったじゃねぇか」
リョーカの身体が震える
黒い波が、
一瞬だけ弱まる
「……ヒロ、ト……くん」
「そうだよ」
ヒロトが笑う
いつもの、
軽い笑い方
「お前一人で勝手に化け物になってんじゃねぇ」
その瞬間
リョーカの目から、
黒い涙が落ちた
「……こわい」
小さな声。
「ボク、みんな殺しちゃうかもしれない」
モトキの胸が痛む
リョーカは、
ずっと怖かったのだ。
自分が何なのか
いずれ全てを壊してしまうのではないか
全部
ずっと
「なら」
モトキが前へ出る
銃をしまう
そして、
リョーカの前に立った。
「その時は、俺達が止める」
リョーカが目を見開く
モトキは静かに言った
「お前を殺すためじゃない」
「お前を、お前のままにするために」
沈黙
地下に、
遠くの咆哮だけが響く
やがて
リョーカの黒い侵食が、
少しずつ収まっていった。
「……ずるいなぁ」
リョーカが泣きながら笑う
「そんなこと言われたら、頑張るしかないじゃん」
その時だった
――ゴゴゴゴゴ……
地下都市全体が揺れる
天井に亀裂
警報
赤いランプ
機械音声
『警告』
『超大型反応接近』
『ヴェルトラウムを確認』
空気が変わる
重い
息が苦しい
まるで、
“世界そのもの”が近づいてくるみたいな圧
モトキが空を見上げる
天井の向こう
遥か上
地下都市を覆う空間に、
巨大な“目”が浮かんでいた。
黒い目
都市よりも巨大な、
異形
それが
ゆっくりと、
こちらを見下ろしていた。
そして
頭の中に直接、
声が響く
『――見つけた』
リョーカの顔から、
血の気が引いた
「……ヴェルトラウム」
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