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 賑やかな町の隅の方に、ひっそりと存在する店がある。その店の名は「四季紙」と云う。名前にある通り、紙の専門店だ。

 そこは若い女性が店主を務めており、彼女が唯一の店員として切り盛りしていた。

 この店に訪れる客は少なくない。その理由としては和紙だけでなく洋紙も取り扱っているからであろう。これは長年の鎖国から開放され、外国との交流が再開したからと言えど極めて珍しいことだった。

 けれども今現在、店は閑古鳥が鳴いている。当然店主である明吉珠佳は暇を持て余していた。

「今日は全くお客さんが来ないね。掃除は朝やったし……店の中に飾る紙人形でも折ろうか」

 そんな独り言を発しつつ、彼女は売り場から正方形の折り紙用紙を何枚か拝借する。そして、独り言を続けながら折り紙を始めた。

「紙人形として見かけるのは姉様ばかり。一人位兄様がいたって良いじゃないか。折ろうと思えばできるんだから」

 頭と胴体を折り、着物を折り、髪を折り終えた彼女はそれ等を糊でくっつける。

「そらできた。顔はまぁ、なくてもいいかな」

「それは困るぞ主殿」

 突然知らない声がして、珠佳は辺りを見回した。

「誰だい?今の声は」

「拙者だ。主殿の手の内におるだろう?」

「手の内?」

 言われた場所を見てみるも、そこにあるのは先程完成したばかりの紙人形だけだ。

「まさか、あんたが口を利いているんじゃないだろうね?」

「そのまさかだぞ、主殿」

「そんな馬鹿なぁ」

 珠佳は冗談だろうといった様子で笑うが、相手は至って真剣だった。

「笑うでないぞ、主殿」

「だっておかしいじゃないか」

「ともかく、拙者は顔が欲しいのだ。主殿、どうか描いてはくれぬか」

「しょうがないねぇ。そんなに望むなら描いてやろうじゃないか」

 珠佳は仕方なく書道具一式を持ってくると、細筆で紙人形に目と鼻と口を描いてやった。

「できたよ」

「感謝するぞ主殿」

 声が礼を言ったその瞬間、紙人形はまばゆい光を放ち出した。

「なっ、なんだいこの光は!?」

 目を着物の袖で覆いつつ叫ぶ。しかしそれに対する返答は無い。

 やがて、光がおさまったのを感じ取った珠佳は、ゆっくりと手を下ろした。そして彼女は目の前の光景に呆然と声を発する。

「え……?」

 驚いたことに、目の前には若い男が正座していた。

「主殿?」

 男が発したその言葉で一瞬我に返る。

「あぁ、いらっしゃい」

「主殿、拙者は客ではないぞ」

「じゃあなんだって言うんだい。至って普通の紙人形が人の姿を得るなんて、そんなこと……」

 あるわけがない。珠佳はそうはっきりと否定したかったが、何故かできない自分がいた。

 そんな彼女に向かって、男はやや困った様子で口を開く。

「信じられぬ気持ちもわかる。しかし主殿、拙者は紛れもなくそなたが作った紙人形だ」

「認めたくなくても、そうなんだろうね……」

 俯き声を震わせる珠佳。そのただならぬ様子に、心配になった男は声をかける。

「大丈夫か?主殿」

「……くふふっ」

「え?」

「あははははっ!」

 やがて彼女は堪えきれずに笑い出した。

「あ、主殿?」

「自分の顔見てごらんよ!」

 そう言って珠佳が指差した方向には一枚の鏡が掛けられている。それを見た男は唖然として呟いた。

「こ、これはいったい……」

 細い目と大きな鼻と小さな口。誰がどう見ても滑稽な顔が映っていた。

 男はすぐさま珠佳を振り返る。

「主殿!これはどういうことだ!?」

「あんたが人の姿を得るってわかってたら、もう少し格好良く描いたのにねぇ!」

「い、今すぐ描き直してはくれぬか!?」

「紙に墨で描いたんだから無理だよ」

「くっ……」

 悔しさやら悲しみやらで歪んだ表情を顔に浮かべ、男は膝をつく。そんな彼に珠佳はこんな言葉をかけた。

「変な顔を描いてすまないね。でもまぁ、あたしはあんたの顔、面白くて好きだよ」

「そう言われても全く嬉しくないぞ、主殿」

「どうしてだい?」

「どうしてって……誰しも格好が良いのが理想であろう?」

「そうかい?あたしにはよくわかんないね」

「……これは拙者がおかしいのだろうか」

 男は珠佳の耳に届かないくらいの声量でそう呟き、溜め息をついた。

かみさま達と※一旦更新停止中

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コメント

1

ユーザー

おぉー!!!折り紙の擬人化か!! 始まり方めちゃくちゃ好きだわ! それはそうと、折り紙の人、どんな顔なのか気になりすぎるww

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