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「見ず知らずじゃない。同じ店で顔を合わせたんだ。もう知り合いだろ?」
ご、強引過ぎる。
その考えはおかしい。
「し、知り合いじゃないです。私はあなたのことを全然知りません。私には男性の友達なんか1人もいないです」
自信満々に言い切ってる自分が悲しくなる。
「それなら寂しい君のために俺が友達になってやる」
「は、はぁ? け、結構です。男性の友達なんて必要ないですから」
別に寂しくなんかないし、この人に同情される筋合いはない。
ちょっとムッとした私に対して、目の前の男性は余裕の笑顔を見せながら、スーツの上着から何かを取り出した。
「俺はここにいる。いつでも待ってるから」
確かに強引だけど、不思議だ……
この人の妙に惹き付けられる笑顔は何?
眩し過ぎて、クラクラする。
「ここは気分転換には1番だ」
差し出された名刺には「TOKIWAスイミングスクール」と書いてあった。
「常磐……?」
「ああ。今は、そこでインストラクターをしてる。必ず来て。じゃあ、また」
そう言って、常磐 理仁という人は、嵐のように現れて、嵐のように店の中に去っていった。
180cmはあるだろう身長に、華奢過ぎず、大き過ぎないとても均整のとれた体つきが目に焼き付いてしまった。足が長くてモデルみたいな体型に、スーツにネクタイって……あまりにも最強過ぎる。
悔しいけど、初めて会ったばかりの男性に、私はずっと目を奪われてしまってた。こんな経験は今まで1度もなかったのに。
「私、どうしちゃったの?」
思わず自分に問いかけたくなるくらいの出来事に、今が朝なのか夜なのか、寒いのか暑いのか、自分がどこにいるのか……色んなことが吹き飛ぶくらい困惑してしまった。
このハッキリしなくて、モヤモヤする気持ちの正体はいったい何なの?
「さっきのは夢だった? 違うよね……現実……だよね」
戸惑いながらも何とか足を前に踏み出し、とぼとぼ歩きながら、もう一度、意識をしっかりさせて、記憶を呼び起こし、頭の中で思い返した。
常磐 理仁さん――
髪型は……そう、前髪は少し長めだった。サイドと後ろを短めにカットして、時折おでこが見えるような無造作なスタイリングが、とても爽やかで清潔感が溢れていた。
整った眉、切なげな印象もある綺麗な二重の瞳、鼻筋の通った高い鼻に、潤いのある薄めの唇。クールな印象と色気を感じる顔立ちは、今思い出しても身震いする。
今まで見たことのない種類の、いわゆる「イケメン」。
イケメン? あの人は、そんなラフな言葉では片付けられない。もっともっと上級で……あの見た目の美しさを形容する単語は無限にありそうだ。
本当に、あんな素敵な人がこの世の中に存在したなんて……
私は、いつまでもフワフワした感覚とドキドキを止められないまま、無駄に深呼吸して、震える手で名刺をバッグにしまい込んだ。