コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「もみじちゃん。今は何を書いてるの?」
「う~ん、正直ネタに困ってる。溺愛系の恋愛話なんだけど、ちょっとインパクトに欠けるのよね」
都田 もみじ(つだ もみじ)。
私のいとこで同い年の彼女は、153cmで小柄、あまり化粧っ気はないけど、目力がある。
「そうなんだ。インパクトがある方が読者さんに刺さるのかな?」
「そうなのよね~良い感じのネタないかなぁ」
真剣に悩むもみじちゃんは、黒髪を1つに束ね、無造作にクリップで留めたり、お団子にしたり、ラフな感じが可愛い。
小さな頃に両親を亡くした私は、母の妹であるもみじちゃんのお母さんに引き取られ、今も一緒に暮らしてる。26歳になってもまだこの家にいるのには、色々理由があるけど、ずっと面倒を見てくれたおじさんとおばさんには……感謝……してる。
「恋愛小説が書けるなんてすごいよね。私は読む方が好きだから」
「双葉ちゃんなら書けるよ。色々経験してるんだから。それを小説にしてみたら? 書くの楽しいよ」
「無理だよ、私なんて。もみじちゃんの書く小説を読ませてもらうだけで十分。次も楽しみにしてるね」
私をずっと本当の姉妹みたいに思ってくれてるもみじちゃんは、自作のお話をいくつかの小説投稿サイトにアップしている。いつもランキング上位にいて、とても人気の作家さんだ。
彼女の部屋と私の部屋は2階の隣同士だけど、たまにもみじちゃんの部屋に呼ばれて、こんな風に話をする。
「そうだ! ねえ、あの話、詳しく聞かせてよ。小説の参考にしたいの」
「あの話?」
「そう。双葉ちゃんが詐欺にあった話」
「え、あっ、あれは……」
思わず言葉に詰まる。
「実際に詐欺にあった友達とかいないし、小説にしたら絶対インパクトあるよね、きっと」
目をキラキラ輝かせて私を見るもみじちゃん。
「……ごめん。あの時のことはもう忘れたいの。だから……」
「残念~。双葉ちゃんの話詳しく聞きたかったのに。詐欺にあってお金を盗られたって……」
「ダ、ダメだよ、すごくつまらない話だから。あんなの小説にしたって全然インパクトないよ」
笑顔で言ったけど、何だか心が痛くなった。
でも、もみじちゃんには悪気はない。
「双葉ちゃんの意地悪~。まあ、いいけど。とりあえず早く書き上げてコンテストに応募しなきゃ。締め切りがあと少しなんだよ。他にも挑戦したいコンテストもあるし、もういくら時間があっても足りないよ」
「もみじちゃん、すごい。頑張ってね、応援してるから」
「ありがとう~。双葉ちゃん大好き」
もみじちゃんには才能があると思う。実際、読んだらとても面白くて、その世界観にどっぷり引き込まれる。たくさんの物語を作り上げ、様々なコンテストに応募してて、夢は恋愛小説の人気作家になることらしい。
その夢、私はいつか必ず叶うって信じてる。
「2人ともご飯だよ、降りてきなさい」
下からおばさんの大きな声がした。