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過ごしていた
あの夏の思い出は
今でも瞼の裏で生きてる
畳敷きの真っ暗な部屋に、元貴と滉斗がそっと入る。暗闇に目が慣れると、ぼんやりと見えてきた。
部屋の奥の腰窓は、カーテンが開いており、月明かりが部屋の中を薄く照らす。 その腰窓の下には文机が鎮座し、パソコンや書類などが置かれている。部屋の左右には天井までピッタリと備え付けられた本棚があり、IT関連やウェブデザイン、漫画や小説、元貴と滉斗の雑誌や、元貴の出演作品のシナリオブックなんてものまであった。その横には、分厚い資料用のファイルも沢山並んでいる。ここが、彼の在宅ワークの場所なんだと、一目で分かった。
そして、この部屋全てが、二人への愛で満ちているような、そんな錯覚さえ覚える程の暖かな部屋だった。
部屋の中央に、所狭しと三つ布団が並べられ、その真ん中に、涼架が眠っていた。身体を真っ直ぐに伸ばし、お腹に薄い布団を掛け、両手をお腹の上で組んでいる。
「…白雪姫だ…。」
元貴が、ポツリと零す。
「…懐かし…あったな、そんなの。」
滉斗が薄く笑うと、元貴が涼架に近づき、その傍らに片膝をついてしゃがみ込んだ。
横から、涼架に覆い被さるように、両傍に手を着いた。
「…さあ、白雪姫。私の愛のキスで、どうか目覚めてくれ。」
元貴はそう呟くと、今度はゆっくりと、優しく唇を涼架に乗せた。滉斗は、黙ってその様子を見下ろす。
ちゅ、と音を鳴らして顔を離すと、涼架が薄っすら眼を開けた。
「涼ちゃん、起きて。」
元貴がそう言うと、涼架の身体を支えて強制的に起こす。滉斗も反対側にしゃがんで手を添え、それを手伝った。
「………ふぁ〜…。」
少しぼんやりと眼を開けて、あくびを一つ落とすと、涼架がようやく覚醒した。
「…どうしたの?…なんかあった?」
目を擦り、下を向きながら訊く。元貴と滉斗が、少し移動して、涼架の足元に二人で並ぶ。
「涼ちゃん、聞いてほしいことがある。」
元貴がそう切り出すと、涼架は目をぱちくりさせて、なんだか様子がいつもと違う、と察したようだった。
「え…なに…?」
「うん…。」
元貴が、少し下を向いて言い淀む。滉斗が不安そうに元貴を見つめるが、意を決したように元貴が顔を上げた。
「俺、涼ちゃんのこと、好きなんだ。」
「え…。」
涼架は、驚きの表情で元貴を見る。
「子どもの頃ね、涼ちゃんが初恋だった。思い出だと思ってた。でも、今日涼ちゃんに会って、やっぱり、俺は涼ちゃんが好きだって、思ったんだ。俺には、もう何もないけど、涼ちゃんへの気持ちは、確かなものだって、今日わかったから。だから、どうしても、伝えたくて。」
ドラマの台詞とは違う、不器用で、真っ直ぐな、元貴の言葉だった。元貴が、縋り付くような眼で涼架を捕らえる。涼架は、揺れる瞳で元貴を見つめ返す。しかし、ふと不安そうに、滉斗に眼を向けた。元貴の告白は分かったとして、なぜここに滉斗もいるのだ、そういう視線だった。
元貴も、滉斗の方へ顔を向け、目配せをする。滉斗も、意を決したように涼架と眼を合わせた。
「…涼ちゃん、俺も、涼ちゃんのことが、好きなんだ。」
「…え…。」
今度は、先ほどよりも動揺が見て取れる反応だ。久しぶりに再会した幼馴染の二人に、急に同時に告白されたのだ、当然とも言える。
「俺、カメラの道に進んだのは、涼ちゃんに喜んで欲しかったからっていうのもあるんだ。今日、また涼ちゃんに会って、気持ちが、溢れちゃって。涼ちゃんがさ、俺の仕事、全部見ててくれてたってのが、ホントに嬉しくて。大好きだなぁ、って、思った。俺も、初恋だけで終われなかった。いきなり、ごめんね。」
涼架の眼に、涙が溜まる。受け入れられる情報の容量を超えてしまったのだろう、瞳は二人を交互に見て揺れ動き、そして一雫の涙が頬を伝った。
「…涼ちゃん、悪いけど、答えてほしい。」
元貴が、涼架を真っ直ぐ見据える。
「どちらかの気持ちに応えるか、どちらも断るか。」
涼架が眉根を顰める。
窓の外の月が、雲に隠れ、部屋が一層暗がりになった。
「…どちらにも、応えるか。」
滉斗が、第三の選択肢を口にすると、涼架と元貴が驚いたように滉斗を見た。
滉斗も、元貴と同じ、既に狂気の中にいたのだ。元貴が如何に強く涼架を欲したとして、例え彼にはもう涼架しか無いとしても、そう易々と渡せるほど、滉斗の気持ちは軟くはなかった。
元貴が、涼架に躙り寄る。びくっと肩を震わせた涼架の頬に伝う涙を、手で拭い、そのまま頬を包み込む。
「俺たち、涼ちゃんに引き戻されたんだよ。」
「え…?」
「涼ちゃんが、ここに居てくれたから。あの頃と変わらずに笑ってくれたから。俺たちは、もう涼ちゃんを失えない。」
滉斗が、涼架の後ろに回り、そっと抱きしめる。
「…俺らのこと、嫌い…?」
後ろから涼架の肩に顔を埋め、滉斗が掠れた声で涼架に縋る。随分と狡いやり方だな、と元貴は頭の隅で考えた。優しい涼架が、嫌いかと問われて、嫌いだと二人を突っぱねられる筈がないと、そう確信しているのだ。
少し伏目がちに思案していた涼架が、ゆっくりと元貴を見つめ、滉斗の腕に手を添えた。
「…僕は、どちらともに応えるよ。」
その真っ直ぐな眼光に、元貴はごくり、と喉を鳴らした。
「…大好きだよ、涼ちゃん…。」
「…うん、ありがと…。僕も、大好きだよ、元貴。」
また、涼架が微笑む、全てを受け入れる優しさで。涼架の顔を両手で包みながら、ゆっくりと顔を近づける。唇が重なると、何度か食むようにキスを繰り返し、元貴が熱い息を吐きながら、涼架と眼を合わせた。
「…劇の時は、痛かったね。」
「…ふふ、うん、そうだったね。」
今度は、ぶつかって唇が腫れたりしないように、元貴は優しく、ちゅ、ちゅ、とキスを繰り返す。
滉斗の腕にぎゅ、と力が込められ、涼架は後ろを振り向いた。
「…俺は…?」
「…大好きだよ、滉斗…。」
涼架の片頬に手を添え、滉斗も後ろから口付ける。
「…駅でハグしてくれた時、ホントはこうしたかった。」
「滉斗…。」
滉斗は、にっこりと笑うと、涼架の唇を食べるように熱いキスを交わす。涼架も、眼を閉じて、細い首を反らせて滉斗と舌を交わす。
元貴は、その首筋に舌を這わせ、涼架の裾に手を入れる。
「あ…。」
滉斗に口内を蹂躙されながら、元貴にシャツをたくしあげられて胸元の尖りに舌を這わされた。涼架は、喘ぎながらも滉斗にその唇を塞がれる。
「涼ちゃん、もっともっと、熱に浮かされて。」
もっと、正気を失わないと、と元貴が頭の中で思う。
こんなの、夏の暑さの所為にでもしないと、出来ないでしょ?
元貴も滉斗も、はなからどちらかに渡すつもりなど、無かったのかもしれない。
元貴が、涼架の下腹部に手を伸ばす。
雲が晴れ、また三人が、月明かりに照らされ始めた。
「涼ちゃん、ローションとゴム、持ってる?」
元貴が涼架の中心を口内で玩弄している間に、滉斗が後ろから耳元で囁いて確認する。
「ん…あ…つ、くえ…にばん…め…。」
滉斗は、後ろに手を伸ばして、文机の右側にある引き出しの、上から二番目を開ける。手を入れ、目当ての物を取り出した。
「…これ、なんで持ってんの?」
元貴が口淫をやめ、涼架に訊きながらローションを受け取る。
「…ローション、は、自分でちょっと…。ゴム、は…練習しようと、思って…まだ使ってないけど…。」
確かに、ゴムの箱にはビニールが付いており、使った形跡はない。ただ、ローションは少しだけ、減っている。
「これ、どこに使ったの?」
元貴が、ローションの蓋を開けながら、涼架に訊く。
「…言わない…。」
涼架は、顔を真っ赤にして顔を背ける。元貴は、意地悪な笑顔を浮かべて、涼架の腰を掴んで四つん這いの形にさせた。
「…てことは、ここだ。」
そう言いながら、ローションを後ろの孔に垂らす。びく、と震えたが、そんなことはお構いなしに、元貴が雫を指で掬って、孔に塗り込む。案外すんなりと指が入ったので、元貴が驚く。
「涼ちゃん、自分でここ触ってるんだ。」
「や…ちが…。」
「違くないでしょ、ほら、こんなに入るよ。」
元貴が、指を増やして孔を広げる。滉斗が涼架の髪を撫でて、顎に手をやり顔を上げさせた。
「…こんなところは、大人になっちゃったの?」
顔を真っ赤にした涼架の唇に、滉斗が噛み付くようなキスをした。前後から攻められ、涼架の口からは甘い声が漏れる。
孔から指が抜かれ、ぶる、と震えた。
「…涼ちゃん、口でして?」
滉斗が、甘い声で誘う。涼架は頷き、ズボンをずらして取り出した滉斗の中心を口に含む。濡れた音が響く中、ビニールを破く音が重なった。しばしの後、涼架の孔に、元貴の熱いモノが当てがわれる。
「好きだよ、涼ちゃん。」
そう呟くと、元貴がナカへと挿入っていく。
「あぁ…っ!」
涼架が、切ない声を漏らす。元貴に揺さぶられる中、滉斗の中心に顔を寄せ、小さな口で一生懸命に愛撫する。滉斗は、顔を歪ませ、愛おしそうに髪を撫でる。
「あ、ダメだ、出そう…。」
幾許かの時間揺さぶられ、口淫も続けていた涼架だったが、滉斗がそう漏らすと、元貴が動きを止めて、ゆっくり引き抜かれた。
「若井、こっち。俺も限界。」
「ん。」
グッタリとへたり込む涼架の前で、入れ替わりに座った元貴が、ゴムを外す。
「涼ちゃん、俺にも、可愛い顔見せて…?」
こく、と頷いた涼架が、元貴のモノをペロ、と舐めると、顔を顰めた。
「ん…苦…。」
「ごめん、ゴムのせいだわ、洗ってこようか?」
「ううん、ビックリしただけ…。慣れれば、平気。」
にっこりと笑って、涼架は髪を耳に掛けて、中心を口に含んだ。元貴は、食い入るようにその様子を見つめる。ゴムを付けた滉斗が、涼架のナカへ進んでいく。
「涼ちゃん、好きだよ。」
「涼ちゃん、大好き。」
行為の間、ずっと二人分の愛を囁き続け、ほぼ同時に涼架の中で果てた。
身なりを整えた三人で、布団に横になる。涼架の腕の中に元貴が収まり、滉斗は後ろから涼架を抱きしめる。
「寝にくいよ…。」
恥ずかしそうにふふ、と笑って、涼架はそっと目を閉じた。
翌日、元貴は、二人より先に目を覚まし、そっと下へ降りる。
そして、朝陽が爽やかに降り注ぐ縁側に立ち、朝一番に事務所へ連絡を入れた。
「もしもし、鈴木だけど。…俺、やっぱりあの週刊誌訴えるわ。…うん、分かってる。でも、このまま黙ってるのは、やっぱムカつくし。…うん、大丈夫。…はい、よろしく。」
電話を切り、元貴は軽く息を吐いた後、ひとつ伸びをする。
涼ちゃんは、俺の全てを受け入れてくれた。狡いところも、弱いところも、強がってしまうところも。
俺の事を信じて、無茶苦茶な俺たちの愛を、包み込んでくれた。
今度は、俺の番だ。その大きな愛を受けて、応えたい。まだ、俺は自分を諦めたくない。
あの夏に涼ちゃんがくれた俺の夢を、必ずまた、取り戻してやる。
背後から、階段を降りる音がした。元貴が振り返ると、滉斗が欠伸をしながら近づいてくる。
「ふぁ…おあよ…。」
「…おはよ、頭すご。」
「お前もだよ。」
「…涼ちゃんは?」
「まだ寝てる。」
「そっか…。」
二人の間に、沈黙が降りた。朝の風に、ちりん、と風鈴が可憐に音を奏でる。
「…俺たち、無責任なことしちゃった…よな。」
滉斗が、口火を切る。
「いや、俺は、ちゃんと責任取るよ。涼ちゃんを東京に連れてく。」
「え、それはいくらなんでも強引すぎるんじゃ…。」
「丁度、涼ちゃん在宅だっていうし、場所はどこだっていいなら、俺の傍でもいいはずだろ。」
「お前な…そーいうとこ、直したほうがいいぞ。」
「なんだよ、じゃあお前はどう責任取るんだよ。」
「俺は…仕事は不定期だし、ほぼ根なし草だし…。」
「ふーん、じゃあお前にとったら、ひと夏の思い出か。いい思いできたってわけだ。」
「…そんなわけ無いだろ、怒るぞ。」
「怒ってないで考えろよ。」
二人が黙ったまま、視線をぶつけ合う。
「わかった、じゃあ俺もお前んとこ行く。」
「はあ?」
「だって、涼ちゃんは二人を選んでくれたんだろ。だったら、俺たち一緒にいるしか無いじゃん。」
「…確かに…。」
「そうだよ、そうすれば、俺が根なし草になってても、お前が涼ちゃんといてくれるだろ。その方が安心だし。」
「あー…でも俺、今からちょっとゴタつくからなぁ…。涼ちゃんがオッケーしてくれたとしても、それが終わってからな。」
元貴がキッチンに行き、お茶を注ぐ。滉斗の分も、ちゃぶ台へ運んだ。
二人で、向かい合わせに座る。
「ありがと。ゴタつくってなにが?」
「ん、あの週刊誌、訴えることにしたの。」
「え!マジ?!」
「ここに来るまでは、正直腐ってたんだけどね。全部無しんなって、全部ヤんなって、もうやめたー!って。それでさ、俺ん中に唯一残ったのが、涼ちゃんだった。」
「今まで忘れてたのに?」
「ほんとだよな、都合良すぎって自分でも呆れるよ。」
元貴が、毒気の抜けた顔で、嘲笑する。滉斗は、そんな元貴を見て、ふ、と笑った。
「でもまあ、俺もそんな感じだし、初恋なんて、そんなもんなんじゃない?」
「…そうかな。」
二人で静かに、お茶を飲む。
「涼ちゃんに、話してみようか。」
「怒られるかもな。勝手すぎって。」
「…どうかな。」
風鈴がまた、ちりりん、と鳴って、どちらも緩やかにその方を向いて、しばし見つめていた。
涼架が目を覚まし、下に降りてきた。ボサボサの髪を手で少し整えて、小さな声でおはよう、と呟いた。その頬は、少し赤い。
「涼ちゃん、ちょっとこっち来てくれる。」
「…なに?」
ちゃぶ台から少し離れたところに、二人並んで座っている。なんとなく、涼架はその前に正座をした。
「…なんでしょう…。」
「…涼ちゃん、俺、あの週刊誌、訴えることにした。」
「え…!ほんとに…?」
「うん。涼ちゃんに受け入れてもらえて、俺も、自分を諦めないことにしたの。」
「…大変、なんだよね、裁判でしょ?」
「まあ、上手くいけば、和解に持ち込めるかな、とは思ってるけど。あっちだってまさか捏造記事で闘わないでしょ。」
「そっか…うまくいくといいね。こんなことしか言えないけど、頑張って。応援してるから。」
「うん、ありがとう。涼ちゃんのおかげだよ。」
「僕は、なにも…。」
「ここに、居てくれたじゃない。俺たちの、帰る場所になってくれたでしょ。」
元貴が、優しく微笑む。滉斗も、続いて話し始めた。
「それが、俺らにとってどんだけ大きいことか、わかる?俺だって、ここに来るまでは分かんなかったけど、涼ちゃんがあの頃と変わらずニコニコ迎えてくれたから、俺たちホントに救われたんだよ。俺もね、自分が大した仕事できてない事に、ちょっと腐ってた。」
「そう…だったの…。」
「でもね、涼ちゃんが、涼ちゃんだけは、見ててくれたんだって、それで、それだけでもう、俺は全部溶けちゃった。」
「俺も、涼ちゃんだけが信じてくれて、嬉しかった。力を、取り戻せたんだよ。」
涼ちゃん、愛してる。
二人の声が、甘く重なり、夏の空に溶けていく。
「だから、俺たちと一緒に、東京に来て欲しい。」
「え…。」
眼を丸くして、涼架が固まった。二人で、涼架の手をそれぞれに握る。
「何もかもいきなりで、ごめん。でも、俺たち、本気だから。」
「元貴のゴタゴタが片付いたら、一緒に暮らそう?」
「でも…。」
「…俺たちのこと、嫌い?」
元貴が、また確信めいた言葉を、上目遣いで涼架に投げかける。涼架は二人を交互に見つめた後、ふふ、と困った笑顔を見せた。
「…狡いなぁ、二人とも。」
二人が、両側から近づいて、涼架を抱きしめた。
「涼ちゃん、俺たちの傍にいて。」
「もう、思い出だけにはならないで。」
「…うん。」
そっと二人の腕に手を重ね、涼架が頷いた。
空には白い雲が湧き立ち、風が風鈴を揺らす。ちりん、ちりん、と、優しい音色で。
三人が抱擁する場所には、夏の影が落ちていた。
コメント
36件
え、待って、ノニサクウタ大好きな曲♬ 何かに躓いた時に聴いてるの!!何かに躓いてもこれ聴くと立ち直る強さを得るというか、、楽しみ〜♡ 最終話もじっくり読ませてもらうね😎
うわあああああ!!最終回かああつぎ!!!!
3人素敵すてき💕 もう白雪姫のところから涼ちゃんが可愛い💛 で、あなた何練習してたの〜っ😆💛🫠 1番アレじゃないですか!!💛💛💛 最後どうなるのかな? もし連れて行っちゃう事になったら、それはそれで新鮮☺️ もうね、新作どんどん出しちゃってください💕 ボツ勿体無いです〜💦💦