目が覚めるとベッドの上にいた。
朦朧とする意識の中、頭にズキンとした痛みを感じた。
時計を見ると、夜中の12時を少し過ぎたところだった。
腰を起こすと、痛みが頭を貫く…。
頭を手で押さえゆっくり首を振る。目を閉じて眠る前の記憶を辿ってみた………。
(リビングのこたつに入って…………夕食を食べながら…お酒を飲んで…たんだよな………それからどうしたっけ……?)
そこまでの記憶に辿り着いたところで違和感を覚える。
やけに静かだ…………
物音ひとつしない。
誰かいる気配もない。
「……!」
ガバっと起き上がると、今度はズキンっと鋭い痛みが頭を走る。
痛みの増す頭を右手で押さえながら部屋を飛び出す。
「シンっ!!」
…………。
返事はない。
嫌な予感がした。
家中をシンを探し回る。
「シンっ」
部屋にもいない。
「シンっ」
風呂にもいない。
広い家だが見つけられない程複雑な造りではない。
なのに、どこにもシンの姿はなかった。
まさか……
玄関に行くとシンのお気に入りの靴が見当たらない…。
湊があげたシンのお気に入りの靴がどこにも無かった。
湊はその場にへたり込む。
そう言えば……
「湊さん。お酒は程々にしてくださいっていつも言ってますよね。介抱するこっちの身にもなってください」
「介抱してくれなんて頼んだ覚えはねぇよっ」
「放っといたらそのまま朝まで、こたつで眠るじゃないですか」
「別にお前の部屋占領してるわけじゃねぇんだから放っとけばいいだろっ」
「そう言う問題じゃないんです」
「うるせぇな。せっかくいい気分が台無しだ!!」
「なんですかっその言い方は!俺は湊さんの事を……」
「文句があんなら出て行けばいいだろっ!!」
「……」
ああ………思い出した…。
俺が…シンに出て行けって言ったんだ……。
頭を押さえていた手を胸にあてる。
こっちの方が…もっと痛い……。
「ばか…じゃねぇの……本当に出て行くとか………ありえねぇだろ………」
胸を押さえる手で服を強く握りしめる。
怒りの矛先はシンではなく自分に向けられた。
「さいっっってぇ!!………だな……俺…………」
頭を垂れる。
取り返しのつかない事をした…。
大切な人に酔っていたとは言え酷い事を言った…。
後悔しても、もう遅い。
シンはこの家を出て行った。
俺を……捨てた……。
拳を握り床に叩きつける。
そして……
「シンっっっ!!」
今出せる精一杯の声でシンの名を呼んだ。
呼んだって返事なんかないのに…
ばかだな…俺……
虚しさだけが込み上げてきた。
シンの姿が見えないだけで…シンが居なくなった事で…こんなにも弱くなっちまう…
「はっ………」
我ながら情けなくて…笑える……
頬を涙が伝う……
「どうしたんですかっ!!湊さんっ!!」
玄関の扉が開くと、そこには慌てたシンが立っていた。
(えっ……)
涙で霞んだ瞳がシンの姿を捕らえる。
「外まで呼んでる声が聞こえて……」
たまらず、シンに駆け寄り抱きしめた。
シンの服を強く握り
「どこ行ってたんだよっっ!ばかっっ!!!!」
叫んでいた。
「どこって…」
「何も言わずに俺の前から居なくなんなっ!!ばかっ!!」
「まだ酔ってるんですか?」
「酔ってねぇよ…ばかっ」
「もう、ばかばか言わないでくださ…」
シンを抱きしめる湊の手が身体が震えていた。
(湊さん……?)
手に持っていた袋を下駄箱の上にそっと置くと湊を強く抱きしめた。
「……すみません」
「どこにも行くなっ!!勝手に俺から離れるなっ!!!ばかっ!!」
あんたが言い出したら聞かないからだろ…そう心の中で思ったが今は何を言っても無駄だとわかってる。
涙ぐんだ声が湊の寂しさを表しているのをシンは既に察していた。
「まだ…ばかって言うんですか…謝ったじゃないですか……」
「うるせぇ…ばか…」
強がる湊の指がシンの服を握ったまま離さない。
「まったく…これ以上ばかって言うなら、その口塞ぎますよ……」
「やれるもんならやってみろ……ばーか………んっ……」
シンは湊の顔を両手で覆うと唇で湊の口を塞いだ。
離れたシンの唇を湊は名残惜しそうに見つめる。
「……続き…してもいいですか?」
「こんなんで許すわけねぇだろ……早く…しろよ…………」
お気に入りの靴を脱ぎ、湊を抱き上げると再び湊の部屋に運ぶ。
ゆっくりベッドに湊を下ろすと
「俺が居なくて寂しかった?」
湊に問う。
虚ろな目でシンを見上げ湊は頷く。
「今日はやけに素直ですね…」
そう言って服を脱ぎ捨てる。
「さっきは我慢しましたけど…誘ったのは湊さんの方ですからね……」
湊を抱きしめるとベッドに横たえ身体を重ねた……。
寝息を立て、満足気に眠る湊の顔を見ながらシンは思った…
こんなに素直になるなら…たまになら酔うのも悪くないかと…。
そう思いながら湊の髪をそっと撫でた。
布団の中で湊がシンの手をギュッと握っている事は 内緒にしておこう…
目が覚めた時、この人はきっと覚えてなんかいないだろうから…
俺が…自分だけが覚えていればいい。
それだけで十分だと……。
「シンっ!ちょっと来いっ」
玄関で湊がシンを呼ぶ。
「どうかしたんですか?」
シンが近寄ると
「どうしてこんな所にアイス置きっぱなしにしてるんだ?溶けちまってんじゃねぇーかっ!」
昨夜の自分の発言を湊は覚えていないらしい。
「湊さんが言ったんですよ。暑いからアイス買って来いって!」
「こんな寒いのにアイス食べたいなんて言うわけねぇだろっ」
「……」
シンの顔は完全に呆れた表情になっている。
「なんだよ…」
「それ。俺も言いました。寒いのにアイスなんか食べるんですか?って」
「……」
「なのにあんたは、こたつにどっぷり浸かって、『暑いからアイス食べるんだっ!』ってきかないから……」
「そんな事…言った覚えはねぇな……」
バツが悪そうな顔をする。
「何度も言いますけど、お酒は…」
「わーってるよっ!」
みなまで言うな…湊はそんな顔をして頭を掻く。
「でも…たまになら良いです」
にっこり笑ってみせた。
「意味ありげな笑み浮かべんじゃねぇよ…こぇわ……」
「酔うと素直になる湊さんすっごく可愛いので…」
「ああ〜っっ!!もうっ!可愛いとか言うなっ!!」
「お姫様抱っこ…またしてあげますね」
「…しなくていい」
「じゃ……させてください」
「……」
「返事は…?」
「ふっ…やだねっ!誰がさせるか、ばーか!」
「素直じゃねぇな………」
「なんだって!?」
「あんた俺の事、好きで好きで仕方ないクセに……素直じゃねぇっ」
「うるせぇなっ!そんな事より、アイスなんとかしろよっ!」
「俺の事、好きだっ。て言ってくれたら片付けます」
「言わねぇよ…」
「俺の姿が見えなくて泣いてくせに……」
ボソッとシンが呟く。
「泣いてなんかねぇよっ!」
ムキになる湊がまた、可愛い…。
「好きですよ…湊さん」
「るっせぇ……知ってるよ………ばか」
照れる湊も…可愛いくて……また抱きしめてしまう。
「いてぇよ…」
「もう少しだけ…このままで……」
【あとがき】
書く予定は無かったのですが…
いきなり頭の中で話が出来上がってしまったので大急ぎで書いてみました。
誤字脱字は多めに見てくださいね。笑
ほっこりしていただけたら幸いです。
それでは、また次回作にてお会いできますように…
月乃水萌
コメント
11件
最高ですね💕︎湊さんかわいすぎる😊 また待ってますね(⁎˃ᴗ˂⁎)
可愛いー😍最高です!!😊
もう最高っす‼️待ってました