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俺の記憶は、どこに行っちゃったんだろう。
今の俺は、ナニカが欠けてて、不安定だ。
親の事すら、覚えていないから。
だから、記憶を探すんだ。
きっと何処かに落ちているから。
探さないと、いけない。
ぜんぶ、すててでも。
「あっちの世界、俺が居なくなった後どうなってた?」
「んー? なんかー混乱してたよ? 英雄殺しを殺せ〜って」
「英雄……そんなことした覚えないんだけどな」
「しらね〜」
「ねぇねぇエリスちゃん、向こうの世界はどんな感じなの?」
「みんなクズ〜」
「えっ?」
「羽白、ソイツの話は聞かなくていいと思うよ」
「そうなの?」
「アンタ……騙されやすいでしょ。気を付けなさいよ?」
「へっ?」
「てかエリス、その服似合ってんね」
「私可愛いから!」
「おーおー可愛い可愛い」
「ふふ、二人ともとっても仲良し! いい事ね!」
「そうだねぇ」
「ほんと、ヴィーナスそっくりね。あなた」
「エリス、ヴィーナスって知り合い居たっけ?」
「は? テラちゃん、頭おかしくなったの? ヴィーナスはいつもテラちゃんの傍にいたじゃない」
「え? そんな記憶ないんだけど」
「エリスちゃん」
「_____あぁ。そういう」
「……面白いわ」
■△■△■△
私は、私はあなたが好き。
だから、あなたのためなら何だってする。
でも、私のやり方はどうやら普通ではなかったらしい。
私は彼を苦しませた。
彼は自身の記憶を”半分”無くした。
私の事も忘れてしまった。
でも、それはそれでいいかもしれない。
だって、あなたを苦しませてるのは私なんだもの。
あなたを苦しませるものは、全部排除しなくちゃいけない。
勿論、私も例外ではない。
あなたを闇から救いたい。だから、
私を殺して。
■△■△■△
「普通ってなんだと思う?」
「普通……? うーん_____わかんない」
「そうだよね」
「普通って、他人から強要されるアレでしょ? 私嫌い」
「エリスはそうだろうね………」
なんせ過去が過去だ。
強要が嫌いなんだろう。
当たり前の強要が。
「普通でいると、お得なんじゃないの?」
「………基本的には」
「じゃあ普通になった方がいいんじゃない?」
「さぁ、どうだろう」
「俺ももう、とうの昔に普通なんて忘れたよ」
「____ _」
羽白は、呆気にとられたような顔でこちらを見つめてくる
なんだろう。なにか気に触ったかな。
「……そっかァ」
と思えば、今度は寂しそうに笑った。
羽白、なんか変わったな。
別人みたいだ。
「ふつうなんて、きらい」
羽白がボソリと何かを呟いた気がした。
よく聞こえなかったけれど。
「ねぇ、テラちゃんはあっちの世界に戻りたいとか思わないの?」
「_____んー、戻りたいとは思わないかな」
「なんで?」
「……何となく、かな」
「ふーん。変なの」
「どうせ、戻ったって変わんないよ」
変わらない。
どうせみんな変わらない。
世界は何も変わらない。
世界は、ずっと終わり続けてる。
なら戻る必要もない。
だって世界は何も変わらない。
「みんな、きらいだし」
「テラちゃんってそういうとこあるよね。そこが面白いけど」
「テラ、向こうの世界のみんな嫌いなの?」
「_____あー……そうだね」
「そう……」
人間なんて、嫌いだ。
俺も、嫌いだ。
■△■△■△
「テラって、記憶喪失、なのよね?」
「ん? うん」
「向こうの世界にそういうの治せる人っていないの?」
「んー、いたっけなぁ……?」
「いたじゃない。アイツが」
「え?」
「エピディ・オルソシよ」
「あー、エピディがいたか」
「記憶喪失を治せる人なの?」
「うーん、試した事はないけれど、彼、直し屋だし、できるんじゃないかしら」
「直し屋って、物しか直せないんじゃ……」
「いいえ、彼の能力なら身体だって治せるのよ。だから、できるんじゃないかって思ったの」
「わぁ、向こうの世界って凄いのね!!」
「私を見た時点で凄いのは分かるでしょ?」
「うんうん、エリスちゃんもとーっても凄いよ!」
「もっと褒めなさい」
「こらエリス。調子乗るな」
ゴン、とかなり強めにエリスの頭を叩く。
やべ、力加減間違えたかも。
「いっっっっっったぁぁい!!!!」
「ごめん、加減ミスった」
「最ッ低!!! こんな可愛い女の子にこんな酷い仕打ち!!」
「お前の方が酷いことしてると思うんですがー」
「私何も悪いことしてないわよ!! 勝手にアイツらが争ってるだけよ!!」
「はいはい」
「まぁ、向こうの世界には治せそうな人がいるってことなのね?」
「そうだね。でも、どうやって戻ろう……」
「なによ、私の力があるでしょう?」
「あ、そうだコイツ神様だった」
「はん! テラちゃん如き片手で捻り潰せるくらい強い神様なんだから!」
「シャレになんないなぁ……」
「そうだ。どうやらこの世界にも歪みができてるみたいだから、簡単に向こうの世界に行けると思うわ」
「____歪み?」
「簡単に行けるのね! 良かった! テラの記憶喪失、治るかもしれないね!」
歪みというのが気になり口に出したが、
羽白が食い気味に言葉を重ねてきた。
____テンション高くない?
「早速行きましょう!」
「え、えぇ、そうね」
________羽白?
■△■△■△
「これが歪みよ」
「ほへー……」
案内先は、エリスが現れた場所だった。
確かにそこには、歪みのようなものがあった。
ぐちゃぐちゃとした、沼のようなものが。
「ここを、こう、ぶん殴って……」
「……ほんとに女の子なのか……?」
「うっさいな」
「ほら、割ったよ。ここに入って」
「気持ち悪いな……」
「我慢しろ」
「なんかエリス最近男らしくなったよね」
「どうでもいいから早く入って」
「はいはい…… ん? 意外に気持ち悪くないな」
「ほんとね!」
「よっと、世界超えマース」
「しれっとスゲーこと言ってんぞ」
「わぁぁ! なんか、キラキラして……!」
____そして、
彼らは世界を超えていった。
「い、てて……」
「ごめん、場所ミスった」
「いいよ、戻ってこれたし」
「わ! ここがテラのいた世界___!」
羽白は目を輝かせる。
目の前には、一面に広がる花畑があった。
「あれ、ここってこんなに花咲いてたっけ」
「咲いてたわよ? 綺麗よね」
「エリスって花には甘いよね」
「花に甘いって何……」
「そんな事より、エピディの所行きましょう」
「そうだね」
■△■△■△
「エピディ? エピディ、いる?」
エリスが暗い部屋を覗く。
と、そこには動かない黒い塊があった。
エピディだ。
「まーた寝てんじゃないの?」
「お寝坊さんなのね、その人」
「……エピディ!!」
「へぁ!? お、え……? あー、エリスさん…………とテラ、さん……!?」
エリスの大声に驚き、塊はばっと起き上がった。
そこにあったのは、ボサボサの長い髪、というより、翼の様な真っ赤な美しい髪をした、
不健康極まりない、生活感丸出しの部屋を背景に、それに見合わない顔の良さをした男だった。
「相っ変わらずお顔がよろしくて」
「テラ、さん、なんで……生きてる……?」
「はいはい、生きてまーす」
「えぇ、なん、なんで……っ? し、死んだって聞いた、んですが……」
「うん、死んだよ?」
「うえぇ!? しし、しん、死んだっ……?! しんッ……えぇっ___?」
「はは、おもしろ」
やはりエピディで遊ぶのは楽しい。
めっちゃいい反応が返ってくる。
「まぁ、そこはほっておいて……」
「ほ、ほっておいちゃダメ、なような……」
「俺な、記憶喪失らしいんだよ。治せる?」
「記憶喪失……ですか。そうですね……やったことはないのですが」
「やってみて損はないよな」
「そうですね。とりあえず、やってみましょう。お駄賃は成功したら頂きますね」
「よろしくな、天才直し屋」
「てて、天才だなんて……」
「……二人、仲良いのね」
「そうね。あの二人はいつもあんな感じ」
「ふふ、いいお友達ね」
「えーと、記憶喪失、なら………」
ブツブツと小さく呟く。
その呟きには、直し屋として頂点に君臨する、天才という事が分かるものが感じられた。
___やはりエピディに頼んで正解だった。
コイツは、本物だ。
「では、失礼します」
あなたの記憶は、どこに落ちている?
「ねぇ、直し屋って言っていたけれど、記憶の干渉もできるの?」
「えぇ。あれは後から身に付けた能力だけれどね」
「へぇ、そうなのね」
「まぁ、だからか記憶の干渉といっても、記憶を捏造したり、消したりは出来ないわ。本当に、干渉するだけ。でも、彼は直し屋。後は分かるわね?」
「_____記憶の修復」
「彼は、何だって直す」
「だって_____世界一の直し屋だから」
世界一の直し屋の名にかけて、
テラさんの記憶も、治してみせましょう。
「_____これは……」
彼が見たのは、
ー 第一章・終 直し屋・エピディ・オルソシ ー