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「これは……」
彼が見たのは、
傷だらけの、記憶だった。
「ヒビが……これ、いずれかは壊れてしまうんじゃ……」
壊れた記憶を治すだけかと思っていた。
しかし、彼の記憶は、今にも崩れて壊れそうなものだらけだった。
「_____全部治さなくては」
そして、壊れた記憶を治すのだ。
だって私は直し屋だから。
「この記憶は……エリスさんとの記憶ですか」
この記憶はヒビが入っていないらしい。随分と親しげだ。
ところで、ここはどこなのだろう? 扉が勝手に開いているのだが……
おや、これは、ヴィーナスさん……いや、違う……?
羽白、と呼ばれていますね。似た人なのでしょうか。
次はヒビのある記憶だ。修復しなければ。
_修復をしながら記憶を眺める。
これは、ユラナスさんとの記憶ですね。
ユラナスさん、苦しそうですね……
おや、テラさん、いいお言葉をおかけになる。
修復が完了した。
次もヒビが入っていますね。
この記憶は、あぁ、私との記憶ですか。
ううむ、私の態度、キョドキョドしすぎですね……お恥ずかしい……
私自身を直すことはできないのでしょうか……
修復が完了した。
次は………おや。
完全に壊れていますね。これですか。
少し時間が掛かりそうです。
_____これは、テラさんの親御さんでしょうか。
そっくりですね。
親御さんとの記憶は、しっかり治さなけれ
バチッ
「_____っ!?」
「……どうした、エピディ?」
「……これは、一体……?」
弾かれた。
手が未だヒリヒリと痛む。
「……テラさん。これは、治す治せないの問題ではありませんでした。これは、記憶のパンクです。記憶を消せばいいのですが、私はいらない記憶を消せません。そして、何よりも不思議なのが、パンクの原因が世界規模にあることです」
「世界規模……?」
「言い方が分からないのですが……そうですね……」
「世界が増えすぎている。としか……」
「世界が、増えすぎている? どういう……」
「エピディさん」
聞いたことも無い低い声が聞こえた。
___羽白?
「…………今ヴィーナスは、どうなってる?」
「え、? ヴィ、ヴィーナスさん、ですか……?」
「確か、テラさんが亡くなって少しした時からずっと 眠っていると……」
「そう…………」
「_____待っ、てください。羽白さん、あなた、」
「___別人、ですよね」
「別人……そう、別人、ね」
「そう思えてしまうよね」
「……?」
「確かに、私は羽白じゃない。____ヴィーナスよ」
「……やーっぱり」
エリスは最初から気付いていたのか、
予想通り、とでも言うように目を閉じた。
「でもね、羽白じゃないって訳でもないのよ」
「だって、羽白とヴィーナスは一緒だもの」
「え、え? 羽白さんと、ヴィーナスさん、が……一緒?」
「名前を変えてただけよ。髪も伸ばして、服装も変えて、ヴィーナスになりきった」
「でっでも、ヴィーナスさんは生きて……」
「私は、過去の私。ヴィーナスは今の私。この体は、過去の、羽白の意識を一時的に奪っているだけ」
「なる、ほど……」
「それで、私が言いたいのは、その記憶喪失が治らないことなんだけれど、私の能力の問題らしいの。解決方法は、分からないけれど………」
「ヴィーナスさんの?」
「私の力は、国に悪い使い方をされてしまうから、ずっと黙っていたのだけれど…………」
「私の能力は」
「新たな、世界」
「元あった世界の私は、死んでしまう。だって私の意識は一つしかないから。その意識……記憶を引き継いで、また新たな世界に生まれ変わる。そういう能力」
「まぁ、平たく言えば” 輪廻転生 “ね」
「でで、でも、生まれ変わるんだったら、赤子になってしまうんでは……」
「いいえ。そういう訳では無いの。好きなタイミングに戻れるというか、いや、戻れるんじゃないわね……新しい世界を生み出して、その世界の好きなタイミングに行けるというか……」
「____最強じゃない?」
「……だから黙ってたんだ。だって、こんな力悪用されるに決まってる。実際試したもの」
「それは凄いことになったんじゃない?」
「散々だったわ。もう思い出したくないくらいにね」
「……そ、れで、記憶喪失、が、ヴィーナスさんの能力のせい、とは?」
「さっき、世界が増えてるって言ったよね」
「! そういう事、ですか」
「次は解決方法を探す旅か……」
「ご、ごめんね、テラ………」
「君が悪いんじゃないよ。大丈夫」
「……うん」
何やら不満そうだ。
本当に気にする事はないのに。
ヴィーナスさんが誰なのかは分からないけれど。
話を聞く限り、羽白と同じように扱えばいいのだろう。
同じって、言ってたし。
あれ? そういえばこの羽白、じゃない、ヴィーナス、向こうの世界でも同じような雰囲気になった気が……
あ、そうだ。あの変なお客さんから庇ってくれた時だ。
あの時から、羽白はヴィーナスになってたのかな……
でも、あの雰囲気になるのはたまにだったか。
じゃあ入れ替わりだったのかな。
「____じゃあ、行こう」
「ありがとうエピディさん。お代は……」
「うーん、では、40ユーロで」
「おわー………結構な出費ですな〜」
「商人ですから」
エッヘンと胸を張って言った。
変なところで自信家だよな、コイツ。
「では、めぐり逢ふ時を、お待ちしております」
「ん」
■△■△■△
「アイツいつも最後変な言葉で締めるよな」
「あれでしょ、古い言語で話してんでしょ?」
「へー、あれ古い言語なんだ」
「そうよ! 古い言語はすごーく素敵でね、今だと解読が難しいのだけれど、とても綺麗な言い回しで、面白いの!! そうだ! 昔の人達も偉人が多くってね! みんなみんな凄い功績を残してるの!! そういうのは基本的に本とかに載っているんだけれど、実際の偉人が書いたものもあるの! 凄いわよね! 何千年も経っているのに、ずっと残り続けているだなんて!!」
「なんか急に饒舌になったぞ」
「歴オタめ………」
「ちょっと無視しとこ。その間にテラちゃんが忘れてる事を整理しよう?」
「そうだね。まず、親の事とかは全部忘れてる。本名も。あと、ヴィーナスさんの事も」
「それは聞いたわね。後はある?」
「えっと………この世界の事とかは?」
「私の事は覚えているみたいだけど……エピディの事も覚えているし」
「ユラナス……は分かるわよね?」
「うん。覚えてる」
「なら、えーと、えーと……………」
「もしかして無い? 俺が覚えていないのはヴィーナスさんの事と親と名前だけ?」
「多分……?」
「うーん、なんでそれだけを忘れているんだろう………」
「ヴィーナスの能力が原因ってのもあるんじゃないの?」
「うーむ……」
「所で私達今どこに向かってるの?」
「えっ……あー…………とりあえずユラナスんとこ行く?」
「そうね。近いし」
「へへっ、友達だしタダで泊めてくれるよな!」
「アンタ、ユラナスには雑な態度よね。」
「えー? ユラナス相手に丁寧にするの嫌だなぁ」
ユラナスに対して丁寧な対応をしているのを想像したが、やはり違和感があってなんだか嫌だ。ユラナスにはこれくらいラフな方がいいだろう。
ただでさえお堅い頭してんだから。
「お、着いた」
「ほらヴィーナス。着いたわよ」
「ん? あら、ユラナスのお家?」
相変わらずとんでもない豪邸だ。
正直言ってズルい。
「ユラナース!! いる〜??」
家に居る時は大体これで扉が開く。
その度それは辞めてと言われるが。
ギギ……
お、開いた。
やっぱ居るんだな。
「……テラ……?」
扉の奥から出てきたのは、
疲れきった顔をしたユラナスだった。
「え、どうしたその顔。また仕事か?」
「____ _」
「? ユラ、」
名前を呼ぼうとした瞬間、
ユラナスはこちらへと一気に走り出し、俺に抱き着いてきた。
「へっ? ゆ、らなす?」
「____生きてる」
「え? なんて……」
「テラっ_____!!!」
「テラ、お前何してたんだよ!! なんで、なんで俺を置いて___! あぁぁ、生きてる、生きてる…………生きてる___!!!!」
「えぇ………エリス、ユラナス怒ってたんじゃないの?」
「いや、ちゃんと怒ってはいたわよ? でも、こうなってるのは知らなかったわ」
「……まぁでも、友人を置いて自分から死にに行くテラちゃんの方が悪いんだから、我慢なさい」
「うわー……マジかぁ……」
こうして、約二時間にわたる涙の再会が始まった。
正直、自分から死にに行った俺は勿論悪いけど、
まさかこんな事になるとは思わなかった。
俺の死程度で、こうなるとは思わなかった。
まぁ、この後しっかり怒られたが。
あれは怖かった。
「記憶喪失……」
「そうなんだよ。親とヴィーナスさんと本名を忘れてんだ」
「ヴィーナスさんを__?」
「そそ。んで、ヴィーナスさんの能力が原因なんだと」
「ヴィーナスさんの能力……ヴィーナスさんって魔法が使えないんじゃ?」
「んや、魔法とかじゃなくって、世界を生み出す能力何なんだって」
「せ、世界を生み出す能力_____!?!?」
「はは、反応おもろ」
「いやいやいや、そんなトンデモ能力驚くでしょ!?!?」
「そりゃそうかー」
「……それで、なんでその能力が原因だと?」
「えっと……世界が増えすぎて容量オーバーらしい」
「……待て、じゃあなんで俺は記憶喪失になってないんだ?」
「えっ、あ、確かに……」
「___それは、私がテラを助ける事だけにこの能力を使っていたからです」
「うおっ!? 羽白……じゃない、ヴィーナスさん」
「ねぇテラ、私の事は呼び捨てでいいよ?」
「え? じゃあ、ヴィーナス」
「……テラを助ける事に使っていたとは」
「そのままの意味です。テラを、テラだけを、守りたかった」
「……テラは一人でも自衛できます」
「____そんな事ありません。テラはすぐに危ない場所へ突っ込んで…………」
「____ _」
ヴィーナスが押し黙った。
……話の流れで分かる。ヴィーナスの言う助けるとは、そういう事だろう。
はは、俺は馬鹿だな。こんな良い子に知らない所で自分の事すらをそっちのけ、護られていただなんて。
だから、嫌いなんだ。
「多分、他の人は前の世界と同じ行動を取るからあまり記憶がかさばらないの。でもテラは、私が死すらも拒絶させた。全部が全部違う行動をとった。だから、パンクしたんだと思う」
「なーるほど。だから俺は記憶喪失になっていないんだな」
「問題は……それをどうやって治すか……」
「____私は、分かりません。だから、皆さんに協力してもらいたい」
「オーケー。協力しますよ」
「! 随分あっさりと……」
「テラの為だろう? ならば文句は無い」
「やっぱりすごーく仲良しなのね」
「な、仲良しじゃ……」
「え、違うのか?」
「仲良しです」
「ふふっ、じゃあ、協力お願いしますね」
こうして、俺達とユラナスは協力関係を結ぶ事になった。
これで、より早く記憶が戻ってくるかもしれない。
待ってて、必ず、
取り戻すから。
ー 補足 ー
テラはヴィーナスを恋愛面で好きな訳じゃないです。
ユラナスは未だに劣等感を抱いています。テラも同じく。
エリスちゃんは可愛い。