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#恋愛
桜咲かな
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ヘリオスが部屋に戻ろうとすると、廊下のドアの前にはネグリジェ姿のローサが立っていた。
ずっとここで待っていたのか、帰りの遅いヘリオスを見ると不満そうな顔をして頬を膨らませた。
ローサの表情はバツが悪そうで明るいものではない。対するヘリオスも沈んだ表情でいつもの明るさがない。
「よぉ。もう終わったのか?」
「シャイン様はご自分のお部屋に戻りましたわ。私とは何もありませんでしたわ、残念ながら」
シャインを色仕掛けで落とす計画は失敗したらしい。いや、真実はローサがキス以上を拒んだ。やはりレイニルとして抱かれるのはプライドが許さない。
なぜかこの時、ヘリオスはローサが失敗した事に対して安堵した。今では、お互いがこの計画に対して乗り気ではなくなっている。
レイニルの純愛とシャインの溺愛。愛し合う夫婦を見て毒気を抜かれたのかもしれない。
「でもキスくらいはしたんだろ」
「……キスだけですわ」
あれもローサにとっては不本意なキスだった。そしてヘリオスも、ローサとシャインを結ばせようとした割には心に痛みを感じている。
ヘリオスは、その無自覚の痛みこそが本当の愛の片鱗なのだと気付いていない。
「まぁ、オレもレイニルちゃんにキスしたし……おあいこだな」
「はぁ? それにしてもあなた、ずぶ濡れですわね。服を着たまま水浴びでもしましたの?」
「まぁな」
ヘリオスはレイニルの哀しい笑顔を思い出していた。あの様子だと、かなり思い詰めている。
レイニルはシャインを本気で愛している……ヘリオスは今、兄のシャインが政略結婚ではなく愛ある結婚なのだと気付き始めた。
「呆れた。もう一度入浴なさった方がよろしいんじゃなくて?」
「ローサちゃん、一緒に入るか」
「ご遠慮申し上げますわ」
いつもと様子が違うヘリオスを不審に思いながらも、ローサはヘリオスと共に部屋に入った。
朝になってシャインが目を覚ますと、ベッドの上で一人で仰向けになって寝ていた。
昨晩の事は覚えていないが、寝巻きに着替えずに寝てしまったらしい。昨日は強い酒を飲んでしまって二日酔いで頭が痛い。
ベッドは1つしかないのに隣にレイニルがいない。先に起きたのだろうか。
(朝なのに暗いな……それに、この音は何だ?)
痛む頭を押さえながらベッドから下りて窓の外を確認する。窓ガラスの外では、寝起きでも目視できるほどに降り注ぐ大粒の水滴が確認できる。
「雨……!!」
シャインは思わず大きな歓喜の声を上げた。これで形式上の勝負はシャインの負けになるが、それは逆に本望。
これでレイニルも夫婦でいる事を納得してくれるだろうし、雨女としてのプレッシャーからも解放される。
(ははっ! やっぱりレイニルと交わったからだな!)
昨日の温泉での情事を思い出しながらも思わずガッツポーズをする。
本当は雨の事はどうでもいい。降っても降らなくてもレイニルは手放さない。雨で国が救われる事よりも、レイニルの心が救われる事が何よりも嬉しい。
(レイニルはどこだ!?)
レイニルが喜ぶ顔を早く見たい。嬉しい気持ちを抑えきれずに、シャインは部屋のドアを開けて廊下へ出るとレイニルを探す。
しかし広間にもいないし、スタッフに聞いてもレイニルの居場所を知る者がいない。こんな大雨で外に出るとは考えにくいが、いちおう傘を持って外に出てみる。
だが、外に出てみると嘘のように雨が止んで日が射していた。晴れ男が起床したせいか、レイニルを探し回っていた短時間で雨の能力は打ち消されてしまった。
それでも結果は変わらない。一時でも雨が降ればレイニルの勝利なのだから。
宿の外の庭には馬車が停まっている。王城から2台の馬車でこの宿に来たが、なぜか今は1台しかない。
その1台の御者が雨に濡れた馬車を手入れしている。シャインは御者の男性に近付いて問いかける。
「仕事中すまない、レイニルを知らないか?」
「シャイン様、おはようございます。レイニル様は、朝早く馬車でどこかへ発たれたご様子でした」
レイニルが一人で馬車に乗って、どこかへ……シャインは不思議に思った。何か胸騒ぎを感じる。
ふと振り向くと、宿の方から自分と似た容姿の男性が向かってくる。それは双子の弟のヘリオスで、陽気な彼らしくなく神妙な顔つきをしている。
「ヘリオス。レイニルがどこに行ったか知ってるか?」
「……たぶんアメリア国だぜ」
「は? なんだと?」
「レイニルちゃんは母国に帰ったんだ」
昨晩の記憶がないシャインには、何が起きたのか……レイニルがなぜその行動に至ったのか想像もできない。
雨を喜ぶ事もなく、シャインから逃げるようにして姿を消したレイニルの心に気付きもしなかった。
コメント
1件
第17話、読み終えました。雨が降ってシャインが喜ぶシーン、すごく切なかったです…「レイニルの心が救われることが何より嬉しい」って思ってたのに、肝心のレイニルはもういないんですもんね。お互いすれ違ってる感じがもどかしくて、胸がぎゅっとなりました。ヘリオスがローサに「一緒に入るか」って軽く言うところ、ちょっと笑えたけど、その後の神妙な顔つきとのギャップがまた…。続きが気になります!