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私の世界が変わったのは、つい最近のことだった。
私は、家族で海へ行って、砂浜に打ち上げられている巻き貝を見つけたの。きれいな海の色をしていたわ。その巻き貝を拾って耳に当ててみたの。ほら、貝を耳に当てると波の音がするって言うじゃない。やってみたくなったのよ。そうしたら波の音が本当に聴こえて、そこからだったの。私の世界が、音を失ったのは。
巻き貝の音を聴いてからずっと、波の音しか聴こえなくなっちゃったの。不思議ね。私の耳は壊れちゃったみたい。両親はそんな私を受け入れてくれたけれど、それでも辛かった。私の夢は歌手になることだったから、もう叶うことがなくなってしまったから。
私はもう終わりにしたかった。私の夢を水泡に帰した海で。最期に歌を歌って、そこで聴いていてくれた、たった一人の観客に笑みを送って、私は海へと沈む。徐々に、徐々に、ゆっくりと。視界の端に捉えたのは、観客のあの人。何か私に言っているけれど、ごめんなさい、私には波の音しか聞こえないの。海へと沈む。沈む。沈む。
もしも、私の耳が聴こえていたら、私は海に沈んでいなかったのに。