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旅館の大浴場から出ると、既に矢代チーフがロビーのソファーで待っていた。
「あっ、お待たせしちゃってすいません!」
パタパタと早足で駆け寄ると、
「いや、いいよ」
と、チーフは首を振った。
「一人だとどうも味気ない気がして、早くに出てしまったんだ。きっとあんな話をしたからだろうけど」
屈託なく笑って言うその顔に、「私もおんなじです」と、笑って返した。
「……一緒に入りたかったなぁって考えてました。けど私の場合は、考えすぎちゃってのぼせそうになったんですが」
「のぼせそうに? 大丈夫だったか?」
すぐさま心配してくれる優しさに、「はい、ピンピンしてますから!」と、拳を握って答えた。
つい力が入る私に、彼がフッと顔を崩して笑う。
「ハハ、元気そうで、よかったよ。じゃあ部屋に戻ろうか」
「はい」と頷くと、彼から手が差し伸べられて、こんな風に当たり前のように手を繋いでくれるのって、やっぱり彼と恋人同士なんだと、さっきお風呂で”嘘みたい”だなんて思っていたこともあって、改めて夢なんかじゃなくてとひしひしと感じるみたいだった……。