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フレアとシンカが秘密を探り合っているところだ。
シンカがフレアの焦り顔を指摘し、秘密があることを推測する。
「そ、そんなわけないでしょっ!?」
「ディノス君に聞けばわかる話さ。ねえ? 本当のことを言ってよ」
「レアルノートっ! 変なことを言ったら、ただじゃおかないんだからっ!」
シンカとフレアが余にそう詰め寄る。
「ふうむ……」
どうしたものか。
目下の者が意見を違えること自体は、よくあることだ。
その者たち同士で解決させればいい。
そして、その意見の間に余が挟まれることもときにはあった。
その場合、余は慎重に判断する必要がある。
どちらかに寄った意見を言えば、もう片方の者が不平不満を抱く。
もちろん是非が明確な場合においては、正しい方を示してやるが。
対立がもつれて余にまで持ってくるような物事は、判断が微妙であることが多いのだ。
今回はどうか。
フレアが余の前で痴態を晒したのは、真実だ。
であれば、余はシンカに真実を話してやるべきだ。
しかし、フレアはそれを黙っていてほしい様子である。
少し悩むな……。
「ふん。レアルノートはお利口さんね。バーンクロス家を敵に回すことの恐ろしさを知っているわ」
フレアがそう言う。
確かにバーンクロス家は相当な名門ではある。
しかし、魔王である余からすればさほどの驚異でもない。
戦闘能力だけで言えば、当主本人や分家、それに直属の衛兵などを総動員しても、余の魔力や生命力の1パーセントも削れぬであろうな。
余なら、簡単に蹴散らすことができる。
だが、この世界の統治に必要なものは必ずしも戦闘能力だけではない。
彼らにはこの平和な世の安定と発展に尽力してもらわねばならぬ。
くだらぬことで余との間に軋轢を生む必要はない。
「ディノス君。僕と君は、ファーストネームで呼び合う仲になったね?」
「ああ、その通りだな。シンカよ」
いったい何の確認だろうか?
「僕たちの絆に比べれば、バーンクロスの脅しなんて屁でもないだろう?」
「……うむ。確かにそうだな。フレアの脅迫など、余とシンカとの愛の前では、無に等しい」
「ちょっ!? あなたたち、気は確かかしらっ!?」
フレアが焦ったようにそう叫ぶ。
だが、シンカはそれを無視する。
「ディノス君。バーンクロスとの間にあった本当のことを言ってほしい」
「うむ……。それはな……」
余は口を開こうとする。
しかし……。
「ま、待ちなさいっ! レアルノート……いえ、ディノスっ!」
フレアがそう叫ぶ。
「ほう? お前も余のことを名前で呼ぶことにしたか。フレアよ」
「そうよ! これでいいんでしょ!」
彼女が顔を真っ赤にしてそう叫んだ。
「ふむ……。これで、フレアともシンカとも余は愛を育んだことになるのか。二人の意向は尊重したいが、それが相反するものであれば両方を叶えるのは無理だ。いくら余が万能とはいえ」
魔王として絶大な力を持つ余でも、さすがにできることとできないことがあるのだ。
「ふうん。仕方ないね。この場は諦めるよ、バーンクロス」
「次の特別授業で、あなたの鼻を明かしてあげるわ! アクアマリン」
シンカとフレアがにらみ合いながらそう言う。
やれやれ。
級友同士、仲良くできないものか。
「ディノス陛下。黙って聞いておりましたが、この二人はいささか不敬が過ぎませんか? わたしが粛清致しましょう」
イリスがそう言う。
フレアとシンカに影響されたのか、イリスから余への呼び方が変わっておるな。
少し前までは『陛下』と呼んでいたはずだが。
これはこれで、一歩前進といったところか。
まあ、彼女は余を異性としては認識していない様子ではあったが。
「待て、イリスよ。この程度は、級友として許容範囲である」
そもそも魔王の身分を隠して学園に通っているのだから、不敬罪の適用はよほどのことがない限り行う必要はない。
「ですが……。この二人の争いがやむ気配はありませんが……」
イリスの言葉通り、フレアとシンカはまだお互いに睨み合っている。
「ふむ……。このまま放っておくのもいいが……。目下の者同士の仲違いを解消するのも余の役目だな。仕方ない、一肌脱いでやるとしよう」
余はそう言うと、二人の間に割って入った。
「ディノス君? 何か用かい?」
「ディノスっ! もはやあなたの出る幕じゃないわ!」
シンカとフレアがそう言う。
だが、余はそれを無視して……。
「ルリオス」
転移魔法を発動した。
対象は、余、イリス、フレア、シンカの4人だ。
行き先は……。
「どこよ、ここはっ!?」
フレアがそう叫ぶ。
「今のはいったい……? まさか、失われた魔法と言われる転移魔法……?」
シンカが信じられないと言った表情でそう言う。
失われた魔法というのは大げさだろう。
確かに、今の時代に使い手は相当少ないが。
いや、そういえば人族は魔族よりも魔法を不得手としていたな。
魔族内ですら転移魔法の使い手は希少なのだ。
人族内においては、失われた魔法という扱いであっても不思議ではないか。
「シンカの言う通り、今のは転移魔法だ。そして、ここは余の居城の一室である」
余はそう答える。
「なんだって!? まさか、本当に転移魔法が使える奴がいるなんて……」
シンカが驚いている。
「ふん。それは【転移の指輪】の効力でしょう? 私とのダンジョン攻略時に手に入れたものだから、私の力の一部でもあるわね!」
フレアが得意気にそう言う。
……なぜお前まで得意気になる?
「余たち魔族にとっては、転移魔法は失われた魔法というわけではない。魔道具を使えば、転移魔法を扱える者は少数ながら存在する」
転移魔法は発動難易度の高い魔法だが、条件によっては難易度が低下する。
魔道具の有無、転移先との距離、転移先の座標を正確に把握しているか、転移先に転移阻害の結界が張られていないか。
このあたりの条件を整えれば、転移魔法を発動できる者はいくらでもいるだろう。
例えば、上質な【転移の指輪】を装備した状態で、目視できる程度の距離までの転移を行うならば、練習さえすれば全魔族の1割以上は発動可能だと思われる。
余は今回、街中からこの魔王城の一室まで転移した。
余とイリス以外の転移魔法を拒む結界を張っており、かつ余とイリス以外にはほとんど馴染みのない場所だ。
ここに転移できる者は、四天王や六武衆まで含めても皆無であろうな。
まあ、それはそれとして。
余がこの二人を伴って転移してきたのは、目的があってのことだ。
話を進めていくことにしよう。