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赤葦さんが好きだ。
僕がそれを自覚したのは悔しいけどあの山口に言われてからだった。
初めての合同合宿で出会った赤葦さんに対して僕は綺麗な人だなって思った。
顔が整ってるとかそういうことだけじゃなくて雰囲気というかなんというか…
上手く説明出来ないけどとってもキラキラして見えたんだ。
それからというもの、僕は気づくと赤葦さんのことを考えるようになっていた。
こんな気持ちは初めてで僕は山口に”友達が”っていうていで相談したら
「それは恋だよ!ツッキー!」
と返ってきた。
「でもその友達はその人に初めてあったんだよ?」
と反論すれば山口に
「一目惚れってやつだね!一体どんな人なの?ツッキー!」
と言われたので
「知らないよ。僕の話じゃないからね。」
と誤魔化し、そのままヘッドホンをして強制的に話を終わらせた。
これが恋…?
思えば僕は恋なんてしたことがなかった。
あの子が可愛いだとかあの子と付き合いたいとかそういう話は好きじゃなかったし、
告白されても付き合いたいと思ったこともなかった。
そういうの普通に面倒くさそうだし。
そんな僕が恋?
初恋が1つ上の男、それもいくら自分よりは小さいとはいえ現役運動部で体格のいい男だなんて笑えない。
こんなことよりも衝撃だったのは二度目の合宿であのウワサを聞いた時。
僕がトイレに入ろうと外の扉に手をかけた時、中からこんな会話が聞こえてきた。
「赤葦さん、また告られてたらしいぜ」
「マジ?相手はどんな子?」
「男だってさ、野球部の」
「マジか!てか前に軽音部のイケメンボーカルに告られたっていうのは?」
「あれもホントらしい。見てたヤツがいるんだって」
「それで、どうなったの?」
僕は気づくと扉を開けてそう口に出していた。
「うわッビビった~!お前は確か烏野?の…」
「月島。そんなことより質問に答えてよ」
「どうなったって赤葦さんのこと?どうもなにもどっちも振ったってよ。」
1人がそう答えた。
「なになに、お前赤葦さん狙ってんの?やめとけって!」
「そうそう、それに俺噂で聞いたんだけど 赤葦さんは黒尾さんのことが好きらしいぜ」
赤葦さんが黒尾さんを…
それを聞いて僕は強く思った。
赤葦さんを絶対手に入れたい。と。
黒尾さんのことが好きな赤葦さんを僕のものにできたらどんなに気分がいいだろう。
自分にこんな略奪癖みたいなものがあるなんて知らなかった。
その後赤葦さんが木兎さんと付き合ったと聞いてまぁそれなりには驚いたが僕の目的、略奪すべき相手は変わらない。
赤葦さんは僕のものだ。
今日は赤葦さんとデートもとい一緒にケーキを食べに行く約束をしていた…のに。
今朝、頭痛で目を覚まし、熱を計ってみたら軽く38度を超えていた。
今日に限って両親は遅くまで帰ってこない…
でも赤葦さんに移したらいけないし、無理して行ってかっこ悪いところを見られるのも嫌だ。
きっと寝れば治る。
赤葦さんに連絡をしてから眠りについた。
僕はそんなことを考えていた数時間前の自分を恨んだ。
寝ても一向に体調は回復せず、熱も上がる一方だった。
喉がカラカラだけど起きて水を飲む気力さえもない。
なんなら僕の部屋に赤葦さんが入ってくる幻覚まで見え始めた。
そろそろ僕はダメかもしれない…
「お邪魔します。月島、大丈夫?」
「幻覚の赤葦さんが語りかけてきた…」
「大丈夫じゃなさそうだね。…うわ、あっつい」
赤葦さんの幻覚?が枕元に近づいてきて僕のおでこに手を当てた。
そのヒンヤリした感覚で少し頭が冴えてきた。
「え?あか、あしさん…本物?ですか…?」
「何言ってるの月島。本物に決まってるでしょう?」
どうやら本物らしい赤葦さんはクスッと笑いながら答えた。
幻覚じゃなかった…
「というかなんでここに?なんで僕の家知って…」
「山口くんが教えてくれたよ。日向経由でね。」
そういいながら赤葦さんはテキパキとビニール袋の中に入ったものを取り出していた。
「月島、もしかして朝から何も食べてない?」
「はい…」
「ダメだよ 何か食べなきゃ元気にならないよ。食欲は?」
「あります」
「じゃあとりあえずゼリー食べてて。レトルトだけどお粥買ってきたんだ。レンジと食器 借りるね。」
赤葦さんは僕の頭を子供みたいに撫でて部屋を出ていった。
赤葦さんが僕の家にいる…
僕のためだけに来てくれて看病してくれてるんだ。
「月島、お粥なんだけど 梅か鮭どっちがいい…って月島?え、泣いてる…?」
「な、泣いてません!」
「そう?なら顔見せて欲しいな。」
「…..」
予想よりかなり早く部屋に戻ってきた赤葦さんにかっこ悪いところを見られた。
「ごめんなさい…」
僕は布団で顔を覆ったまま言った。
「なんで謝るの?風邪ひいちゃったんだからしょうがないでしょう?月島のせいじゃないよ。」
「でも僕、情けなくて…赤葦さんにかっこいいところ見せたかったのに」
「月島はいっつもかっこいいよ。可愛いところも知ってるけどね。」
「…..赤葦さんとケーキ食べたかった。」
「うん。俺も楽しみにしてたんだよ?だから早く元気になってね?」
「はい…」
赤葦さんは優しい。
この優しさが僕だけに向けられたらどれほど幸せか。
「でも今日は月島の看病できてちょっと嬉しいんだ、俺。」
「え…?」
「だって月島ってあんまり周りを頼ろうとしないから。お世話できて嬉しい。」
周りを頼ろうとしないのはあなたの方でしょ
と思ったけど口にはしなかった。
そんなことよりも今は、この人の優しさに浸っていたかった。
「それで月島、お粥どっちがいいの?」
「赤葦さんは梅か鮭どっちが好きですか…」
「俺?俺はまぁ…鮭かな。」
「じゃあ鮭がいいです。」
「わかった。すぐ持ってくるから待っててね。」
言った通りすぐに戻ってきた赤葦さんは僕にお粥を食べさせてくれた。
自分で食べれると言ったのに食べさせたいときかない赤葦さんに負けて食べさせてもらった。
本当はこれ以上かっこ悪いところ見せたくないけど赤葦さん嬉しそうだし…
いつの間に僕は寝ていたのだろう。
お粥を食べたあと、赤葦さんと話してる途中までしか記憶が無い。
眼鏡をかけて部屋に掛けてある時計を確認すれば、時刻は19時を回っていた。
赤葦さんもう帰っちゃったかな…
朝よりも軽くなった身体を起こすとベットの横に持たれかかってスヤスヤと寝息を立てている赤葦さんの姿が見えた。
帰ってなかった。まだちゃんといてくれてたんだ。
「ちょっと、赤葦さん。そんなところで寝ないでください。身体痛めますよ。」
僕が声をかけると赤葦さんは眠そうに目を擦った。
そして僕の方に近づいてきて、おでこに手を当てられた。
急に縮まった距離にドキドキする。
「良かった。もう熱はなさそう。」
赤葦さんが安心したようにつぶやき微笑んだ。
やっぱり好きだな…この人の事。
「月島、今日ご両親はいつ帰ってくるの?」
「遅くなるって朝言ってたんですけど、なんか予定より早くなるかもってさっき連絡が…」
「そっか…じゃあ夕飯の心配はなさそうだね。そろそろお暇しようかな。」
赤葦さんが帰っちゃう…
でもここから赤葦さんの家までは結構時間かかるよな…
「体調は?もう平気?」
「はい…」
「それじゃあ、俺帰るね。一応まだ安静にしてなきゃダメだよ?」
「はい…..ッあの!」
どうしてもまだ一緒にいたくて、どうしても今伝えたくて
引き止めてしまっていた。
赤葦さんは僕が話すのを帰らずに待っているようだった。
「ぼ、僕…赤葦さんのことがっ…!」
『ただいま〜』
玄関から聞こえた母の声。
最悪だ…
「月島?」
「…やっぱなんでもないです。」
「そう?なら今度会う時にでも聞かせてもらおうかな。」
そんなことを言って笑った赤葦さんは、僕が言おうと思ってたことに気づいていたのかな。
だとしたらこの反応はどう受け取ればいいんだろう。
自惚れてもいいのかな…?
ケーキのように甘いこの気持ちを早く伝えられたらいいな。