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『猫耳をつけた片想い相手を拾ったら、忘れていた恋まで帰ってきました』~h×j~
side樹
『猫だから今夜もここにいていい?』
北斗の放ったその一言に俺は空いた口が塞がらなかった…。
大学時代の俺はずっと北斗に片思いをしていた。
届かないとわかっている気持ちを胸の奥に隠してただの親友というポジションに甘んじていたあの頃。
どうせ叶わない恋なのだからせめて一番近くで彼の笑う顔を見ていたかったのだ。
卒業して社会人になってからも時々連絡を取り合いたまに飲みに行くような関係は続いていた。
でもあのヒリヒリするような熱い感情はもうすっかり心の引き出しの奥底にしまったつもりでいた。
新しい環境、新しい人間関係に揉まれるうちに少しずつ思い出に変わっていくものだとそう信じて疑わなかった。
社会の荒波に揉まれて疲れて帰る日々の中で北斗への想いはセピア色の綺麗な記憶として定着しつつあった。
だからこんな夜更けに突然インターホンが鳴るまでは俺の心は凪のように穏やかだったのだ。
時計の針は深夜零時を回ろうとしていた。
こんな時間に訪ねてくる人間なんて心当たりがなく俺は少し警戒しながらモニターを覗き込んだ。
そこに映っていた姿に俺は思わず息を呑んだ。
「……はい?」
「樹俺だけど。開けて」
モニター越しに聞こえたその低い声は間違いなく北斗だった。
深夜の訪問というだけでも驚きなのに俺は慌てて玄関のドアを開けた。
そこにはいつもと変わらない端正な顔立ちの北斗が立っていた。
けれど俺の視線は彼の頭上からどうしても動かすことができなかったのだ。
綺麗な髪の間からなぜかピンと立った猫耳?が生えていた。
冗談みたいな光景に俺は自分の目を疑った。
幻覚でも見ているのかと目を瞬かせたがその猫耳は微かに揺れているようにすら見えた。
深夜の静寂の中廊下の薄暗い照明に照らされた北斗はどう見ても立派な猫耳をつけて真顔で俺を見下ろしている。
脳の処理がまったく追いつかないまま俺は間抜けな声を出してしまった。
「北斗……?どうしたのこんな時間に。ていうかその頭……」
「部屋が水漏れして一週間くらい工事になる。しばらく泊めてほしい」
俺の困惑などお構いなしに北斗はひどく真面目なトーンでそう告げた。
手には無造作に詰め込まれたであろう大きめのボストンバッグが握られている。
上の階の住人がやらかしたのかそれとも配管のトラブルか緊急事態なのはよくわかった。
大切な友達として困っている彼を放っておく選択肢なんて俺の中にあるはずもない。
だけど問題はそこじゃない。
どうして水漏れで避難してきた男がよりによって猫耳をつけているのか。
ハロウィンの時期でもないし罰ゲームでもしてきた帰りなのだろうか。
「……そりゃ泊めるのはいいけど。部屋は空いてるし。でもなんでそれつけてるの?」
「なにが?」
「いやなにがって……頭のそれじゃん!猫耳!」
「猫だから」
北斗は一切表情を崩さずまるで『空が青いから』とでも言うような当たり前のトーンで答えた。
あまりにも堂々とした態度に俺のほうが間違っているのではないかと錯覚しそうになる。
いやいやどう見ても成人男性が深夜に猫耳をつけて訪問してきているという異常事態だ。
突っ込みどころが多すぎて頭が痛くなりそうだったが廊下にずっと立たせておくわけにもいかない。
「……とりあえず、中入って。夜中だし、近所迷惑になるから」
「うん。お邪魔します」
靴を脱いで上がってくる北斗の頭で黒い猫耳がぴょこんと揺れた。
俺の心臓がドクンと嫌な音を立てた。
あんなにおかしくて変な状況なのに北斗の顔が良すぎるせいで不覚にも似合っていると思ってしまったのだ。
リビングに案内すると北斗は荷物を隅に置きソファの端にちょこんと座った。
その姿が雨に濡れて拾われるのを待っていた捨て猫のように見えてしまって俺は慌てて視線を逸らした。
「お茶でいい?なんか飲む?」
「樹と同じのがいい」
「わかった。ちょっと待っててね」
キッチンに逃げ込み冷蔵庫から麦茶を取り出す。
グラスに注ぐ手が微かに震えていた。
忘れたはずだった片思いが彼の姿を見ただけでこんなにも簡単に蘇ろうとしている。
北斗のあの低い声俺の名前を呼ぶ時の少し甘い響きそして時折見せる無防備な表情。
大学時代いつも隣に座って他愛のない話をしては彼の一挙手一投足に一喜一憂していた自分を鮮明に思い出してしまう。
麦茶の入ったグラスを二つ持ってリビングに戻ると北斗は部屋の中を珍しそうに見回していた。
「樹の部屋綺麗にしてるね。いい匂いがする」
「そ、そう?普通でしょ。北斗の部屋のほうがずっとオシャレじゃん」
「俺の部屋は今、水浸しだから」
「あ……うんごめん。大変だったね」
「ううん。樹が泊めてくれるから全然大丈夫」
北斗は麦茶を受け取るとこくりと喉を鳴らして飲んだ。
その喉仏の動きすら目で追ってしまう自分に気づき俺は慌てて自分のグラスに口をつける。
沈黙が落ちると途端に深夜特有の甘くて重い空気が部屋を満たしていくような気がした。
目の前にはずっと好きだった人がいる。
しかも猫耳をつけて。
視界の端に入る黒い耳が気になって気になって仕方がないのに北斗は全く外す素振りを見せない。
「北斗。その……もう部屋の中だしそれ外したら?頭痛くならないの?」
「痛くないよ。それに猫だから外せない」
「いや意味わかんないって!猫ってなんなの。北斗は、北斗じゃん」
「俺は猫。樹の部屋に迷い込んできた猫」
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おまけ小説☆R-18 『拾ったはずの猫耳彼氏に襲われて、今夜は俺が飼い猫になりました』
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「……なにしてんの?なんで今それつけてきたの?」
俺が不思議そうに問うと北斗はソファの上の俺にのしかかるようにして距離を詰め真剣なそれでいてどこか熱を帯びた瞳で俺を見つめ返してきた。
「今日は猫ちゃんに襲われる樹だからね」
北斗のその言葉はいつもの落ち着いた低い声よりもさらに一段低く甘く掠れていて俺の背筋にゾクゾクとするような電流を走らせた。
猫ちゃんに襲われる。
その言葉の意味を理解するよりも早く北斗の大きな体が俺をソファに押し倒すように覆い被さってきた。
黒い猫耳をつけた彼氏に上から見下ろされるという傍から見ればかなりシュールな状況のはずなのに北斗の瞳の奥にある明確な雄の色気が俺の理性を激しく揺さぶる。
北斗は俺の手首を片手で軽く押さえ込みもう片方の手で俺の頬を優しく撫でた。
そして本当に大きな猫がするように俺の顔にゆっくりと顔を近づけてきた。
ちゅっと軽いリップ音が響いたかと思うと北斗の温かくて柔らかい唇が俺の頬にそっと触れた。
キスの雨を降らせるのかと思いきや北斗の行動は俺の予想を裏切るものだった。
ぺろりと。
湿った熱い舌が俺の頬を下から上へと舐め上げたのだ。
まるで本物の猫が毛繕いをするように愛情たっぷりにけれどどこか執拗に俺の肌を舐め回す。
「ひゃっ……ちょ、北斗くすぐったいって!」
「ん……樹、甘いいい匂いする。俺の好きな匂い」
「あっあはは!や、やめてそこ本当にくすぐったい……!」
俺は身をよじって逃げようとするけれど北斗の大きな体に行く手を阻まれて逃げ場がない。
北斗の舌は俺の頬から顎のラインそして耳の裏側へと移動しぺろぺろとくすぐったい感触を与え続ける。
俺はたまらず声を上げて笑ってしまった。
エロいというよりは本当に大きな甘えん坊の猫に襲われているみたいでおかしくて愛おしくて胸の奥がキュンキュンと鳴り止まない。
北斗は俺が笑っているのを見て満足そうに喉の奥で小さく「ふふっ」と笑い今度は俺の首筋に顔を埋めてきた。
すりすりと鼻先を押し付け髪の毛の匂いを嗅ぐように深く息を吸い込む。
そのたびに頭の上の黒い猫耳が俺の視界の端で揺れていて俺は本当に猫を飼い慣らしているような錯覚に陥りそうになった。
※最初から最後まで甘く、濃く、容赦なく。読み応えたっぷりのR-18作品となっております。
コメント
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いやもう、タイトルからしてずるいですよねこれ……「猫だから」って真顔で言い放つ北斗、最高すぎます。深夜の訪問もシュールなのに、樹が忘れたはずの恋を一瞬で思い出しちゃう感じがすごく共感できました。第1話であの「猫だから外せない」の押しの強さ、気になって仕方ないです。続き読みますね、これはもう。