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気がついたら地獄に居た。
爽やかには広がらないどろっどろの赤い空。
辺りから響く阿鼻叫喚の叫び声。
正直意味が分からない。
隣には地面に転がって眠る千空。
情緒もクソもなく速攻叩き起こす。
「千空ちゃ〜ん朝ですよ〜」
「…あ゙?」
目を開けた千空は、何か…なんとなく健康に良くなさそうな空を眺め、
自分を無理やり起こした白黒メンタリストを見る。
「…地獄じゃねえか」
「起きて数秒で理解するとかすごいね」
千空が身を起こす。
「なんで俺ら地獄にいるんだ?」
「俺はともかく千空ちゃんは世界の救世主なのにね〜」
「あ゙ー…ちーと心当たり思い出したわ」
「ジーマーで?…俺も俺も」
ゲンは苦笑いを浮かべる。
「あれね、司帝国無血開城の時のリリアンゾンビね」
「ガチで落ちるとは思わねえよ」
「俺は結構覚悟してたよ」
「どうなってんだ情緒」
「千空ちゃんに言われたくないね」
事態の核心に触れようともせず無駄話を続ける2人。
物語の進行上進める必要があるため、背後から出てきたご都合地獄鬼が2人をどこかへ引きずっていった。
絶賛引きずられながら会話は続く。
「今思ったけど地獄落ちたってことは俺等死んだってこと?」
「マジか。まだタイムマシン乗ってねえぞおい」
「ゼノちゃんに丸投げってことじゃん可哀想に」
「俺だって乗りてえよ」
「タイムマシンに乗る話してない」
ひたすらに科学を純愛する少年を、複雑な感情で眺めるゲン。
「100億年も前から、科学の世界に神はお留守なんじゃなかったの?」
「知らねえよ」
「それもそうか」
話のラリーはそこで途切れた。
遠くに霞む山に針が生えているのを見て、もはや面白くなってくる。
インド人もびっくりの電光石火で。
赤い壁、黒い屋根に金色の装飾がゴテゴテに施された和風建築が目の前に現れた。
尖りまくった建築センス。
誰が設計書かいたんだろう…
面白いことこの上ない。
何故かオートロックの自動ドアを相変わらず引きずられて通る。
37
ねむ
75
1,784
郁不
19
いつまで引きずられているのだろう。
千空を盗み見するも、地獄流自動ドアに気を取られていたため目は合わなかった。
裁判所のハンマーみたいなやつの音が聞こえてきた。
長蛇の列は途切れない。
210時間待ちの列の先には、某夢の国のネズミ…ではなく。
閻魔大王がハンマーをカンカンしているに違いない。
「210時間て、約何日だと思う?」
「秒単位までいるなら出すぞ」
「約9日弱」
「並びっぱで一週間以上はキチーな」
やはり雑な会話。
会話のキャッチボールとは良く言ったもので。
この2人に限っては、野球ボール投げたらバレーボールが返ってくる。
「地獄の一時間は実は一分でした!みたいなオチだと予測」
「俺らが悪行やらかしすぎて速攻裁かれる隠しショトカルートに一票」
「負けたら何か奢りね」
「ラーメンだな。折角世界が復興したとこだ」
戻れるかも怪しいのに当たり前のようにラーメンを奢る前提で話が進んでいく。
「てか、もう一人の共犯者はまだ来ないね」
「あいつは健康にくっそ長生きしてそうだからな」
「俺が不健康みたいに言わないでよ」
「事実だ」
「千空ちゃんのが不健康でしょ」
「…間違いねえ」
千空のネギと白菜のハーフのような逆立った髪が向こうを向く。
露骨な視線外しにゲンは笑った。
「あからさますぎでしょww」
「るっせえ」
−地獄裁判所34階−
「おらてめえら、何しやがったよ。白状しやがれ」
褐色の肌に、乱れた黒髪。
長い前髪の隙間から全部面倒くさいとか思ってそうな気怠げな瞳が覗く。
想像する閻魔大王とは、かけ離れた若者だった。
「ねぇ千空ちゃん」
ゲンが千空に囁きかける。
「あ゙?」
「思ってたんと違くない?」
「てめーはどんな閻魔大王を想像してんだよ」
「貫禄しかないおっさん」
「年齢なんぞどうでもいいだろ」
「まぁそれはそうだけどさぁ…!!」
「本人の目の前で本人の噂するとかどうなってんだお前ら」
閻魔が普通にツッコミ役にまわる。
「最近の人間は皆こんなんこんなん♪」
「「なわけねえだろ」」
千空と閻魔のツッコミが被る。
「なんか俺お前と気合いそう」
「誰が閻魔大王なんかとお近づきになるか」
なぜか寄せられた閻魔の好意をあっけなく切り捨てる千空。
「ねぇ閻魔大王って複数人いるの?」
「そりゃそうだろ。世界中で一日何千人と死んでんだぞ?一人で裁いてたのは初代だけだぜ」
「閻魔大王にも世代交代とかあんのかよ」
「ちなみに初代が『貫禄しかねえおっさん』こと俺のじいさんだ。地獄観光中らしいがな」
「何か知りたくなかったな」
「聞いたのお前だろペラペラ男」
閻魔が思い出したように手元の古めかしい手帳を一枚めくる。
「浅霧幻。嘘をつき人を騙しまくる。電子機器、レコードおよび声帯模写を使用し、多数の人間を騙した。他にも簡単に他人を裏切り、▓▓▓▓▓▓や■■■■■もやらかしている…おい何やってんねん」
「改めて言葉にされると地獄行き要素しかないねぇ」
「次、石神千空。浅霧幻と共に多数の人間を騙す。その手で友を殺めたことがある。なおその友に一度殺されている模様。そして生き返せたという禁忌を犯している」
「これはどうなるんだ?」
「千空ちゃんはちょっと天国行けそうな…」
「てかお前ら、世界救ったってマジ?」
「ジーマー」
「やべえな」
「でっしょー?千空ちゃんは凄いのよ」
自分のことのように誇るゲン。
「お前書面上地獄行きじゃん」
「ドイヒー…」
「そっちのネギは微妙なとこ」
「誰がネギだ」
あ、とゲンは手を打つ。
「そーだそーだ。閻魔ちゃん、一個頼まれてくんない?」
「お前みたいなやつ天国には行かせないよ?」
「もー、罪くらいは償うってば♪俺が言ってんのは別案件」
ゲンの顔から一切の温もりが抜け落ち、真顔になる。
それを見た千空も察したようだ。
「今後数十年以内?俺と千空ちゃんみたいに、ケータイで人騙した〜的な罪状持ってるまっすぐな青年が来ると思うんだよねぇ」
「そいつは天国に行かしてやれって話だ」
「俺らは地獄でも、その子だけは…ね?」
閻魔は面白いものを見た、という風にふぅん、と笑う。
「…考えとくね!」
「おいおまふざけんな言質取らせろ…」
「お情けで見逃してあげるから残りの寿命楽しく生きてねー☆ばいばーい」
「はい!?今なんて…」
「善処しまーす」
閻魔が指パッチンする。
千空とゲンの姿が消えた。
地獄で、しかも閻魔大王の前で。
あんなに堂々とふざけていた人間は初めてだ。
珍しいものを見た。
しかも、
「…あいつら、まだ寿命尽きてないじゃん」
次回ここに来るまでに、このくっそめくりにくい和紙の手帳に、彼らの善行が記されていたらもっと面白い。
弄りがいのあるやつだったな。
褐色の肌の青年はくくっと目を細めた。
目が覚める。
頭上に広がるのは澄んだ空。
3700年の時を経て、旧世界より綺麗になった青空。
草原に寝そべって暫くその青を眺めていた。
羽京がそんな2人を覗き込む。
「やっと起きた…!大丈夫?2人共」
ゲンは起き上がって首をかしげる。
「どうしたの、羽京ちゃん」
「急にいなくなったと思ったら、9日くらい草原で寝てるんだもん…びっくりしちゃうよ」
「…100億%非現実的じゃねえか」
「猛獣とかに襲われないように交代で見張ったんだよ。大変なんだから」
「わざわざ見張ってないで、動かせば良かったのに…」
「何か、動かせる状態じゃなかったんだってさ」
「怖」
千空とゲンの顔が引きつる。
「具体的に聞くのはやめとくわ」
「…俺も」
「じゃあ僕、先に戻ってるからね。後から追いかけて来て」
羽京は草原を突っ切って歩いていった。
「俺さ、変な夢見た」
「俺も」
「閻魔大王が気怠げなのに親しみやすい青年だった夢」
「俺そいつにネギって言われた夢」
ゲンと千空は顔を見合わせた。
「「……ん?」」