テラーノベル
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王城の大広間は、金銀に輝く魔法花によって華やかに彩られていた。枯れることのない魔法を施された、希少な花々。
高い天井からは王国旗が垂れ下がり、その両脇には、黒獅子が描かれたベルシュタイン公爵家の旗と、アイリス領の紋章旗が掲げられている。
本来なら。ここで開かれるのは、アイリス領を守り抜いた者たちを称える、華々しい凱旋式のはずだった。
けれど――。磨き上げられた大理石の床へ足を踏み入れた途端、肌を刺すような違和感を覚えた。
(……静かすぎる)
左右に並んでいるのは、王国評議会の重鎮たち。各地を治める高位貴族。そして、神殿を代表する高位神官たち。
これほど多くの人間が集まっているというのに、祝賀の席らしい浮ついた空気はどこにもない。
広間を満たしているのは、呼吸すらためらわれるほどの、重苦しい緊張だった。
私は背筋を伸ばし、床に敷かれた赤い絨毯の上を進む。隣には、礼装用の軍服に身を包んだアレク。相変わらず表情は硬いけれど、私の歩幅に合わせ、ほんの少しだけ歩調を緩めてくれている。
数歩後ろには、貴族連合を代表するジュール男爵が続いていた。
やがて、大広間の最奥に据えられた、黄金の玉座が見えてきた。歴代の国王が受け継いできた、王権の象徴。しかし。今、その席には誰も座っていない。
(……空席)
空の玉座より一段低い場所に、レオンが立っていた。
「レオン王子殿下は、本日より評議会および神殿の承認を受け、暫定的に国政を預かられる!」
王国評議会の議長が告げた。私たちが広間の中央まで進むと、レオンの視線がこちらへ向けられた。
(……レオン)
数か月ぶりに見るその姿。 以前と変わらない柔らかな雰囲気を纏っているはずなのに、どこか少しやつれて見えた。
私はドレスの裾を摘み、深く一礼する。 隣でアレクも胸元へ手を当て、後ろでジュール男爵が深く頭を下げた。 レオンも微かに頷く。それだけが、公の場で交わされた挨拶だった。
レオンが大広間に集まった者たちを見渡した。
「今日は、英雄たちの凱旋を祝うために集まってくれてありがとう」
穏やかな声が、静まり返った広間へ響く。その言葉を合図に、列席者たちから控えめな拍手が起こった。
「アイリス領は、マレフィカ侯爵軍、ウィステリア伯爵軍、そしてギルフォード伯爵軍による不当な侵攻を受けた」
拍手が静まる。
「それでも、領主バイオレッタとアレク・ベルシュタイン公爵を中心に、領民と騎士たちは命を賭して戦い、領地を守り抜いた。さらに、エルベルト公爵家と、ジュール男爵率いる貴族連合が援軍として駆けつけてくれた」
「ここにいる三人だけじゃない。今もアイリス領に残り、領地の復旧にあたっているすべての者へ――王国を代表して、心から感謝するよ」
レオンは告げた。先ほどよりも大きな拍手が湧き起こる。
「本当なら」
レオンは、空席の玉座を仰ぎ見る。
「今すぐ彼らの功績を称えて、盛大に凱旋式を始めたいところなんだけどね」
表情から、笑みが消えていく。
「……その前に、どうしても、終わらせておかないといけないことがあるんだ」
――ギィィィ……。
背後で、巨大な扉が重々しい音を立てて開いた。反射的に振り返る。入ってきたのは、剣の柄に手をかけた近衛騎士たち。
そして。その中央で引き立てられてくる人物を見て、私は息を呑んだ。
「……カサンドラ」
王妃カサンドラ。豪奢な宝石も。王妃の証である冠も。今の彼女には、何一つ残されていない。
両手には、魔力を封じる銀の枷。歩くたび、鎖が大理石の床を擦り、不気味な金属音を響かせる。
それでもカサンドラは、背筋をまっすぐに伸ばしていた。髪は乱れ、簡素な灰色の衣装をまとっていても、まるで今も、自分がこの国で最も尊い存在であるかのように、顎を上げている。
「王妃殿下が……」
「まさか、本当に国王陛下を……?」
「凱旋式の場で、裁判を始めるつもりなのか……?」
その後ろには、拘束された王妃派の貴族たちが続いていた。顔面を蒼白にした王妃付きの医師。王命を記録していた書記官。そして最後に、近衛騎士たちに挟まれ一人の初老の男が姿を現した。
「あれは……宰相のマレフィカ侯爵では?」
「まさか、長年国政を担ってきた侯爵まで捕らえられたのか……?」
「王妃殿下の実父だぞ」
先ほどまでとは比べものにならないほど、大きなざわめきが大広間を駆け抜けた。
「静粛に」
ざわめきは、波が引くように消えていった。
「これより──国王弑逆と王命偽造の罪について――緊急裁判を開廷する」
#執着
ひより
76
鷹槻れん

53,685
#ギャップ
ひより
2,239
#ロマンスファンタジー
百はな🍑
828
コメント
1件
うわっ……この92話、一瞬で空気が変わったね。凱旋式の華やかな描写から一転、あの静けさと緊張感がすごく伝わってきた。玉座が空いてて、レオンが立ち上がってる構図、象徴的すぎる……。カサンドラとマレフィカ侯爵の登場シーンは鳥肌立った。王妃が一切の装飾品を剥がされて、でも背筋だけは伸ばしてるの、逆に怖いよ。裁判でどう決着つくのか、もう気になって仕方ない……!