――鈍い光が差し込む教室。
黒板の粉の匂いも、机に刻まれた落書きも、全部懐かしい。
それなのに、心は冷えていた。
自分は「また」ここにいる。
死んだはずなのに。
もう一度、あの地獄みたいな学校生活に戻ってきた。
机に座ると、すぐに笑い声がした。
「え、またあいつ生きてんの?」
「マジでキモい。転生とかしても、結局負け組だね」
……変わらない。
転生しても、同じ場所で、同じ言葉を浴びてる。
もう何も感じないはずだった。
でも、胸の奥で、かすかに燃えるものがあった。
――今度は、負けない。
昼休み。
机ごと倒された弁当を片づけながら、自分は笑った。
冷めた米粒が指にくっつく。
「……これ、夢か? それとも罰ゲーム?」
口に出してみると、少し楽になった。
そのとき、〇〇が声をかけてきた。
「おい、大丈夫か?」
少し乱れた髪に、焦った目。
見覚えが――あった。
前の人生で、自分を最後までかばってくれた子。
でも、あのときは自分を庇ったせいで、〇〇まで標的にされて……。
自分の中で、なにかがプツンと切れた。
「〇〇、逃げて」
「は?」
「前みたいに、巻き込まれたくない」
「……バカ。逃げるのはお前のほうだろ」
その瞬間、世界がざらついた。
視界がひび割れる。
クラス全体が、ノイズみたいに崩れていく。
気づいたら、教室は真っ白になっていた。
泣きながら笑う自分と、泣きながら怒る〇〇だけが立っていた。
「なあ、これ……現実じゃないよな」
「うん。でも、今度こそ変えよう」
自分は〇〇の手を掴んだ。
世界が音を立てて再生される。
今度の教室には、笑い声がない。
代わりに、窓の外から春風が入ってきた。
――転生しても、またいじめられた。
でも、もう怖くない。
だって、今度は一人じゃないから。
静かなハッピーエンド
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