テラーノベル
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椅子に乗って中央をみると、一年生の男子たちが騎馬を作って始まりの合図を待っていた。その中に、渉が一年紅組の大将として、赤いぜっけんを着ていた。大将の鉢巻きがとられたら負け。ピストルが鳴った、競技が開始する。
普通大将は逃げるものだが、上に乗っている渉が馬役の三人に指示を出して前に出た。敵の隙間を縫いながら、白い腕が敵の鉢巻きを次々に奪っていく。仲間も彼に鼓舞される形で相手に襲いかかる。
誰も寄せ付けないのに、カリスマ性があるんだよな、あいつ。聞こえないだろうが、「渉、頑張れ!!」と何度も名前を上げた。
状況は圧倒的に紅組のものとなり、渉が白の大将である……たしか、平山の白い鉢巻きを奪って競技が終わった。これで紅組が勝った。
ふと、彼が退場の際にこちらを見てきたような気がしたが、気のせいだろうと目をそらしてしまった。応援にかまけていて気付かなかったが、次は三年のリレーだった。大翔の後に続いて列について、入場する。
リレーは100mだ。紅白それぞれ三人ずつで、総勢六人で順位を争う。このとき、偶然俺の隣のレーンが大翔だった。俺達の番は12番目。女子が先に走るので、男子は時間がかかる。
「渉、お前のこと見てたな……」
ニヤニヤ顔がまた俺をみてきたので、眉間に皺をよせながら不機嫌を露わにする。
「なんで俺のこと見るんだよ……偶然だろ……」
「声援聞こえたんだろう。それにしても、お前もそうだけど渉も素直じゃないよな」
「いいよ、俺が悪いから」
「それでも、旗の練習のときは渉も一緒だったんだろう?毎日、こっちの練習がおわると屋上に行ってたし」
「……え?」
「え……違うのか?」
「渉は一回も屋上来てないぞ」
「いや、お前が旗の練習で屋上行くようになってから、毎日行ってたぞ……こっちの練習が終わってから、毎日…え…あ……」
そこでようやく、大翔が言ってはいけないことを言ってしまったことに言葉尻を呑みこんだ。俺も何も言えず、その場に固まる。つまり、渉に先に帰れと言ったあの日から先に帰っていたわけではなかったのだ。俺の練習している姿を見に来ていた。
なんだよ、それ……それなら、声をかけてくれればよかったじゃんかよ。てか、今すぐにでも謝りに行きたい。しかし、この順番を抜け出すわけにはいかなかった。
「大翔、なんで渉って俺の恋人してんだろうな」
「俺も不思議だよ……」
渇いた声で笑われた。
俺達の順番がきて、クラウチングスタートでかまえる。空砲が鳴って俺も大翔も右足を踏みこんだ。彼が先に行ってしまうが、俺は走りに集中することができなくて前に上手く進めない。走りながらも考えるのは渉のことばかりだ。
結局、彼を最後まで遠ざけていたのは俺の方だった。渉の気持ちとか決めつけて、馬鹿は俺じゃん。なんだよ。てか、声かけてこいよ。俺がどれだけ毎日声かけたかったか、お前知ってんのかよ。毎日、声が聞きたくて触りたいのに。なのに、どうして……お前が、どうしてこんなに遠く感じるんだろうか。
渉に会いたい、謝りたい。けど、どうしたらいい。遠いところに、置いてきてしまった気分だ。走って会いに行きたい。走って渉に会いに行きたい。早くゴールして会いに行かなければ。渉、渉、ごめん、俺は……。
突然左足首が曲がって、バランスを崩し前のめりに転ぶ。口の中に砂が入った。
「いっ……!!」
声援の中、急いで立ち上がろうとしたが立てない。立てない。片足だけで前に進もうとしていたら、救護班が近づいてきた。と、その中にゴールした大翔が戻ってきて俺の様子を見に来ていた。
「いてっ!!」
彼の肩を借りて立ち上がってから、立てないわけを痛みで知る。左足首を捻挫したのだ。
コメント
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うわっ、体育祭の熱気がすごく伝わってきた……!渉がこっそり屋上に来てたって知った瞬間の主人公の衝撃、すごく胸にきたよ。ずっとすれ違ってたんだなって切なくなった。最後の捻挫で終わるのも、次の展開が気になりすぎる!