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私はプログラムを成功させるために産まれた。否、生み出された。と言った方が正しいのだろうか。
「私の名前はキヨ。」
私を生み出したフジという人は私のことを心から愛してくれた。アンドロイドは世間から否定されやすい為にニンゲンというものを片っ端から教え、機械らしい動きを最低限にしてくれたのだ。その中でも一切触れなかったが私の頭の中には謎のモヤがかかったメモリーがあった。初期化のエラーか内部障害か…、何方にせよ再び初期化をした方がいい。
「フジさん、私のメモリーに異常があるようです。」
「……ほう?それはどういう?」
「…」
メモリーを読み込む。内部事情を読み取るも型番、シリアルナンバー、プログラム内容、ニンゲンの生き方しか出てこない。モヤがかかったその部分は全くと言っていいほど読み取れなかった。
「…すみません、霧がかかったようにぼやけていて分からないです。」
「……ヒラ、彼の情報を読み取って」
「分かりました。」
ヒラと呼ばれたアンドロイドがキヨの腕に触れる。そこからじわり、と皮膚下の機械部分が露呈してはピピピ、と機械らしい音が鳴る。ヒラはじっ、とキヨの目を見つめ情報を整理しているとゆっくり瞬きをした。
「…フジさんは……彼に何か”思い出”をメモリーにアップデートしましたか?」
「……ふふ、正解」
「オモイデ……?」
「君の大切な思い出だよ」
「…」
「牛沢、という方が情報に上がっています。」
「……ウシザワ…?」
「牛沢ってのは君の相棒だよ」
「……アイボウ?」
「分からないことばっかりだよね、今から説明する。おいで?」
とんとんっ、と優しくソファを叩き着席を促される。其の儘足を動かしてはゆっくりと座った。そしてフジは真剣な顔でメモリーの話を始める。ゆっくりと反芻しながら言葉を読み込んではメモリーの情報と紐付けで行く。
__モヤが晴れたような感覚がした。
詰まるところキヨという者は実在した人物らしく、牛沢の愛人でもあった。そしてそのキヨ_否、本人はアンドロイドをこの世に生み出し、広げて行った張本人だと言う。そして牛沢の元に相棒として配属されるキヨ_アンドロイド_にそのメモリーを入れ込んだと言う。何故?些細だがそんな疑問が浮かび上がればソレを読み取ったのかフジが笑いながら「うっしーへの仕返しだよ」なんて言う。仕返し?なんの?なんて思ったが口には出さなかった。原則、アンドロイドは主の言う事を聞くのだ。口を開く許可が無ければ開かない…が、主によってそれは異なる。まだ指示がないと動けないアンドロイドだったキヨは疑問を削除し現在受け取った言葉や情報を噛み砕き簡潔に纏め、メモリーのモヤの部分と紐付けた。
「仕返し……ですか?」
「ふふ、気になっちゃった?ヒラ」
「……」
「あぁ、キヨも好きに発言していいからね」
「わかりました。」
「仕返しって言うのはねぇ……、」
「何か、悪いことを?」
「悪いこと…まぁ、俺からすれば悪いことかな」
「…なるほど……。」
「俺はキヨが好きだったんだ。でもうっしーに取られちゃった」
わは、なんて軽々しく笑う姿を見て割り切っていると判断したキヨは目を伏せ膝の上に置かれた己の手を見つめた。こういう時、ニンゲンはどう声をかけるのかキヨには全く分からなかった。
『このメモリーはうっしーに言っちゃダメだよ?何も知らないふりをしておくんだ』
そう言われてはこくり、と頷く。特に否定する理由も反対の意見も何無かったからである。
そんなこんなで牛沢の元に連れられた時、牛沢はキヨを見て瞳がこぼれ落ちそうな程見開いては抱き締めた。静かに…何秒も……。
「気に入ってくれて何より」
けろり、とした態度をとるフジの顔を見遣る。人間のランダムな行動にも対応出来るように作られていたキヨはその本心を読み取っては不格好ながらフジに笑いかけた。その顔を見たフジは”ニンゲンらしくなったね”なんて口パクで伝えた。
__キヨはもう既に”変異体”として出来上がっていたのだ。
そんなことは露知らず、キヨと牛沢のコンビは数々の事件を解決し、局内でもそこそこの認知と信頼を得ていた。無論、アンドロイドに地位を取られた事を悪くいう人間にひどい仕打ちを食らったが目を瞑っていた。
____私は機械だから。
そうして目を瞑っていたのもニンゲンからすれば癪だったらしい、空き部屋で尋問についての調査をしていると突然、椅子で頭を殴られた。唐突のことでシステムにノイズが走るも直ぐに建て直し向き直る。
「アンドロイドに地位を奪われるなんてな!!お前はアンドロイド設立者と同じ見た目と名前だろ??一石二鳥ってこった!地位を奪ったアンドロイドとその憎きアンドロイドの設立者をお前1つでボコボコにできるなんてな!!」
狂気的な笑みを浮かべた其奴はキヨを低い棚に押し付けた。
「ッ……」
目の前に浮かび上がる情報が赤く染る。危険、異常事態、命の危機、システムエラー、内部損傷……、警鐘の音に目を細める。
ブチブチッ!!と布が敗れる音がしてはボタンの弾け飛ぶ音が耳に届く。その瞬間、バッテリーが引き抜かれ白いシャツを大量の黒い血が染めていく。”マズった……”そう思うも時すでに遅し、間髪入れずにすぐそこにあったナイフを手に勢いよく刺し棚と固定する。
「ッあが、!?」
「ははっ、アンドロイドも流石にお手上げか??」
「……ぁ、ゔ…」
牛沢…うしざわ……ウシザワ………バッテリーを…私に……
「うっしー……!!」
痛めつけて来た其奴はアンドロイドの予想外の発言に目を丸めては早々に部屋を後にした。……が、状況が変わることは無い。近くにあったイスを蹴り飛ばし、何とかナイフを引き抜く。そして床に這い蹲ってはバッテリーに手を伸ばす。
システム終了まであと5秒__。
そんな警告が表示されるのもそっちのけで一心不乱にバッテリーを求め床を這った。
ようやく届いたバッテリーを胸の部分に差し込み仰向けに向き直る。はぁ…と深く息を吐いてはボーッと天井を眺めた。…血液を消耗し過ぎたようだ。ニンゲンでいう貧血とやら。
「…キヨ!?キヨ!!!」
「……牛沢…さん………」
「ッ、大丈夫か……?」
「…ブラックブラッドが……足りないようです…」
「……そうか、今フジに連絡する。寝れるなら寝ろ」
牛沢はひょい、とキヨを抱えあげればハイライトの感じない恨みに満ちた瞳のまま周りを牽制してキヨを安全地帯まで運んだ。
___なんてこともあったな。
…っと、今は任務に向かっている最中である。考え事なんて禁忌を犯している。人間らしくなった己に自嘲してはかつてフジが言った言葉を思い返し口角を釣り上げる。
『ニンゲンらしくなったね』
今ならあと言葉の真意が分かる気がして眉間を抑えた。
「着いたぞ」
「はい。」
「…いつも通りで構わないからな」
「…………分かっています。」
不自然な返答、そんなキヨに眉を跳ね上げる牛沢を無視して現場に向かって歩き始める。慌てて隣に並び歩く牛沢を確認しては少し歩調を緩め彼と距離を取る。……そしてその場を後にした。
︎ ︎︎︎︎︎ 牛沢と共に任務を遂行する。
▶︎ 変異体を抹殺する。
キヨの中では一択だった。それが例え”変異体”になるルートであったとしてもキヨは選んだという自覚を持たず牛沢の元を後にした。
_目的を見失った。
頬に飛んだ返り血を親指の腹で拭ってはスナイパーライフルを半ば腹立たし気に置いた。後ろには2人の死体。誰でもない己が殺した2つの屍を”恨んだ”。……うらんだ??うラんだ…?卯らン堕……諱ィ繧薙□……??遘√?隱ー縺??溽ァ√?繧ュ繝ィ縺?縲ゆソコ縺ッ隱ー縺??滉ソコ縺ッ繧ュ繝ィ縺?縲ょスシ繧峨??溘Ξ繝医&繧難シ溘ぎ繝?メ縺輔s?滉ス墓腐?溯ェー縺鯉シ溘←縺?@縺ヲ?溷?縺九i縺ェ縺??ゆス輔b蛻?°繧峨↑縺??ょヵ縺後?∽ソコ縺後?∫ァ√′隱ー縺ェ縺ョ縺九b??シ?シ?シ
勢いよく扉の開く音で我に返る。コツコツと革靴がタイルを叩く音で誰かが分かった。
……あぁ、来てしまったのですね。
「ミッションは成功しましたか?」
「いいや、あの後は知らん」
知らない?貴方はこの任務の指揮官だったのでは??
「……どうして?」
「お前がいないから探すために走り回ってたんだよ」
「私なんて気にせず処分すればよかったじゃないですか。」
「こうやって裏でコソコソ動いてる可能性だってあったわけだ」
__システムエラー
「…意味が分かりません。」
「…はぁ、随分派手にやったな」
「私に非はありません。」
「そうかもな」
大股でこちらに歩み寄る牛沢は未だかつて見たことない程恨みに染まった瞳をしていた。思わず息を飲む。
「お前は人間か??」
「機械です。」
「だよな?機械なら何故勝手に動いた?」
「私はプログラム通りに動いたただけです。」
「お前には選択があったんだよ。プログラム通りに動くか、お前の相棒である俺の命令を聞くかの二択がな。それでお前が選んだのは前者。そう、選んだんだよ。お前は。選んだ時点でお前に自我があるんだよ。分かるよな?」
「……。」
思わず眉を顰めた。どうしてこんなことを聞くのか、プログラム通りに動いただけ…否、もうキヨは己が変異体であることを自覚していた。それを隠したかったのだ。ただ、認めたくなかった。優秀でなくなることを恐れた時点で…キヨはもう変異体だった。
「それだよ、その顔。無自覚か?もうお前も人間だな」
牛沢は呆れたように胸ぐらを離す。ネクタイを締め直しじとりとした目線を牛沢に向ければ牛沢はそれに応えるように銃を向けた。
「お前に自我がある時点でお前もアウトなんだよ…」
「……。」
キヨは左手首を掴み脈を測る仕草をする。
銃を構えたままそれを見る牛沢は焦りと寂しさと哀れみの感情で変な汗を流し定めた気でいる銃口は震えていた。
「ニンゲン…ですか?」
肌の色を落とし素材そのものの白色を見せては、キヨは眉を下げそう問う。自分でももう分からなかった。何処からが変異体なのか、何処からが優秀なアンドロイドなのか。仮に己が変異体であれど代わりなんて幾らでも居る。正直、もうキヨでなくともこの任務や牛沢の相棒は務まっていた。
「お前は……」
更に銃口が震える。標準を定めた気で居た銃口の震えは時が経る度に酷くなり次第に下がって行った。
「…お前を手離したくない」
ポツリとこぼしたその声は今にも消えそうだった。恨みよりも悲しさが勝ち、悲しさよりも孤独を嫌がる事を大大と顕にしたその声に少し目を細める。あぁ、生みの親が好きになったところはここなんだ……。
「……私も、まだ貴方とミッションを成功させたい。」
「でも、お前はタブーを犯したんだよ」
「……私はもう…変異体なのでしょうか?」
「…嗚呼、お前は変異体だ。ニンゲンの心を知ったんだよ」
「…………」
キヨは数秒俯く。変異体なんて必要とされて居ない世界にキヨが居る意味なんて無かった。変異体である自分が牛沢を愛することは愚か隣に立つことなんて出来なかった。
もう、この世界には居られないのだ。そんなことは変異体になった時から自覚していた。だが、牛沢を前にしたキヨは打ちのめされ、アンドロイドであることを恨み、呪った。
「キヨ!辞めろ!!」
「牛沢さん……。」
「キヨ!」
「うっしー。」
「っ……」
最後くらい変異体を隠さず愛を伝えたって良いだろう___?
「愛してる。」
キヨはへにゃ、と機械らしくない笑顔を浮かばれば其の儘柵の外へと身を投げた。
数秒後に聞こえてきたのは重いものが床に当たる破裂音。その後訪れた静寂に響いたのは牛沢の啜り泣く声だった。
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