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陽が昇りはじめたと同時に、ユイ軍は目的地へと向かった——。
こたびの戦の相手は、弱小国カイ。
将もなく、
ただ守るためだけに生き延びてきた国——。
せめて鎧だけは身体に合ったものを、と家臣たちは何度も進言した。
だがユイはそれを退け、今もなお、かつて立派な体躯だったセイカの鎧を身に纏っている。
鎧だけが、
主を失ったまま歩いているような姿——。
「出陣だ——!」
ユイの号令と同時に、朝陽がその身を照らした。
その瞬間、側近たちは息を呑む。
——セイカに、見えた。
陽光を受けたその姿は、確かに亡き大将軍そのものだった。
誰からともなく、視線が交わされる。
(ユイ様に……殿が宿っておられる)
喜びと、痛みと、言葉にできぬ想いを抱え、兵士たちは進軍した——。
三日ほどで、目的地カイへと辿り着いた。
「殿……やはり、戦にはなりませぬな」
戦場を一目見て、勝敗は明らかだった。
サルビが低く言う。
「すでに敵兵は壊滅状態。
今から我らが参戦しても、討つ者はほとんど残っておりませぬ」
ユイは、光の宿らぬ目で戦場を見渡した。
(兄様……今日もまた……
あなたの元へは、行けないようだ)
「軍はここで待機していろ。
俺が行く。数人、ついてこい」
その言葉に、サルビの声が荒くなる。
「殿!なぜ、そのような無意味なことを!
残敵の始末であれば、私と数名で十分です!
あなた様が出向かれる戦況では——」
言葉の途中で、サルビは口を閉ざした。
左頬に刻まれた大きな傷。
手入れされなくなった、硬く短い髪。
それでも、ユイは美しかった。
だがその美しさの奥には、人の温度がなかった。
そこにあるのは——死者の眼。
(ただ意味もなく、人を殺したいのか……
本当に、鬼になってしまわれたのか……)
サルビは、胸の内で祈る。
(セイカ様……
どうか、あなたの愛した弟君を……)
「サルビ。命令だ。
軍は待機しろ」
「……承知しました」
「誰でもいい、数人来い。
残りを始末する」
ユイは馬を進め、終わりかけた戦場へと入っていった。
若い兵士が数名、後に続く。
もはや戦ではない。
死にかけた者に、とどめを刺すだけの作業だった。
「散って、始末しろ」
「はっ!」
敵は、どこにもいなかった。
ただ、斬られ、倒れ、命が消えかけている者ばかりだった。
ユイは情け容赦なく、剣を振るう。
ひとつ、またひとつ——
最後の灯を消していく。
——ドンッ。
馬の後脚が、何かにぶつかった。
(敵か)
振り向いた、その先に——
全身を震わせた、子供が二人立っていた。
兄と思しき少年が、必死に槍を構えている。
だが震えは止まらず、今にも槍を取り落としそうだった。
十二、三歳ほどだろうか。
その一歩後ろで、弟が泣きじゃくっている。
左腕には深い傷。
流れ落ちる血が、地面に溜まっていた。
兄は震えながらも、一歩も退かず、弟の前に立ち塞がっていた。
——守る、と決めた目だった。
その光景が、ユイの目に映る。
懐かしすぎるほどの光景が。
時が、止まった。
死人のようだったユイの瞳に、かすかな光が走る。
ユイは馬を降り、膝をついた。
剣を地に置き、弟の方を見る。
「……大丈夫か」
その声は、
かつてのユイだった——
——次の瞬間。
「カンジュの鬼めえええ!!」
震えた叫びとともに——
ドスッ。
身体の奥を、何かが貫いた——。