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『小倉葵が、一種の➖➖➖➖になる話』
※ちょっと暗い
※流血表現あり…?
その日は突然やってきた、その日は空も晴れ渡り トラブルも無い平和な一日だった
コンビニでアイスと炭酸水を買って、日差しを避けようと電柱や建物の影を伝い歩く麻生
鷲見高を離れ数週間、大分この地域での暮らしにも慣れてきた頃だった
けどこんな時程気を抜いてはいけない、慣れて安定してきた頃が1番危険だ
なんて考えも脳の隅に置いて棒付きのアイスをかじっていると
横断歩道の向こうに見知った顔を見つけた
刈り上げられた月白の髪に、夏場に不釣り合いなパーカーの長袖長ズボンの長身の女性
鷹獲リの四陣筆頭 海堂小鳥
「ぉ…海堂、おーい」
麻生が手を振ると、小鳥もはっと目を開き小さく手を振り返した
信号が青に変わり、左右確認を横断歩道をわたる海堂
「久しぶりね、麻生 今買い出し?」
そう問いかけてくる彼女は、以前の様な荒々しさも男っ気も無い
鵜辻と小倉の喧嘩以来、多少お淑やかになった…気がする
「買い出しというか、暑かったから冷たいのが食いたくなってさ」
「へぇ、ところで この後アジトに行くかんじなの?」
一つ答えるとすぐ別の質問をかけてくる小鳥、せっかちな所は変わらないのだなと
くすりと鼻で笑う麻生
「あぁ 総代にもアイスの差し入れをと思ってるよ、海堂も行くか?」
「そうするつもりよ」
最初からそちらが目当てだったかとまた笑みが溢れる麻生
だが まぁ大体予想はしてたけどな、と心で納得もしている
何故なら、海堂が総代である小倉葵に好意を寄せているから
俺の行く所と言えば、家または総代のいるアジトだろうと小鳥も分かっているからだ
ちなみにこれは余談だが、海堂が小倉を好いているのは 鷹獲リ全員が知っている事だ
そして2人でアジトへと歩み始める__
この街に来てから新しいアジトになった鷹獲リ
新しいといっても、廃屋である事に変わりはなかった
だが鷹獲リ全員、この事に不満も嫌悪感も無いようで
むしろ廃屋の方がしっくりくるらしい、以前のアジトは廃アパートだったのだから
変に小綺麗な建物だと皆緊張したり遠慮気味になったりで部屋に上がる気になれないからだ
それに廃屋であれば、その地区の住民に許可を取れば使えるのだから安くすむ
コンビニから大体30分〜40分程の場所に、鷹獲リのアジトはある
人気は少ない、木が生い茂る中立ちはだかるそれは
もはや廃屋というより洋館に近い
多少は皆で綺麗に掃除して直せる所は直したいが外観は手をつけてないためお化け屋敷の様
ここがアジト
暑さでヘトヘトになりながら、2人はアジトの中へと入っていく
中はひんやりとした空気が漂いとても心地いい
「総代!お邪魔します!」
麻生の大きな声がアジトいっぱい響く、しかし返事は返ってこない
「総代、いらっしゃらないんですか−?」
今度は海堂が問いかける、しかし返事は返ってこない
きっと留守なのだろうと目を合わせる2人
仕方ないと買ってきたアイスが溶けてしまわないよう二階にある冷蔵庫にメモと一緒に入れておくことにした麻生
あの人の事だから帰って来たら勝手に食べるだろう、と思い
2人二階への階段を上がっていく、冷蔵庫は会議に使う広めの部屋に置いてあるのだが
あそこの部屋は床が軋むため、皆あまり好きじゃない
その部屋は今、小倉が部屋の修理をしている
ひょっとしたらその修理のための材料を買いに出かけているのではと思った麻生
だがこの予想は、大きく外れる事になる
部屋を開けた瞬間、2人は目を疑った
崩れた足場、散乱する工具に折れたはしご、中途半端に塗られた壁、そして
…小さな真紅色の水溜りにうつ伏せで倒れ込んだ小倉
それを見た途端、手に持っていた袋を落とし青ざめ駆け寄る2人
「総代っ!どうしたんですかっ、何があったんですか!?」
取り乱す麻生をよそに、急いで小倉の上半身を起こし抱き寄せる海堂
「総代!しっかりしてくださいっ‼︎何でこんなっ…!」
突然過ぎる出来事に過呼吸になりかけ、もう既に涙目になる海堂
それを見て少し冷静になった麻生が急いで119へと連絡をした
「早くしないと手遅れになるっ、どうにかしないとっ…!」
しかしその時
「…ん………ぅ……、…」
小さく唸りながら小倉が目を覚ました
「総代っ、良かった…!目が覚めて、」
「本当…死んじゃったかと思いましたよぉっ」
安心したのか、麻生は腰が抜け海堂は号泣し始めた
それを見ても何も驚いていない様子の小倉、むしろ不思議そうに2人と辺りを見回す
「…っ…ぁ、れ……ここ…」
まだ醒めきっていない体を起こし何処か様子がおかしい小倉
それを見た2人が、不安そうに声を掛けた
「ぁ、あの、総代…?大丈夫ですか、?」
「急に起きて、まだじっとしてないと…、」
すると小倉がキョトンとした表情で2人を見つめ首を傾げた
「えっと…総代…って、僕のこと、かな……」
その言葉の小さな違和感に2人は気づきさらに戸惑った
「当たり前ですよっ、⁉︎、総代っ言ったら…貴方しか……、」
「ぇ、ていうかっ、…僕…って、…??」
しかし1番戸惑っているのは、2人の反応を見た小倉の方であった
「いや、僕は僕だよ…っ…!…、と、というより… _____」
*『小倉葵が、一種の* 記憶喪失 になった話』
_続く