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「ただいま」
ムツキがサラフェとキルバギリーを連れて家に戻ってくると、朝食を終えた4人が彼らの方を見て同時に声を掛ける。
「ムッちゃん、お帰り♪」
「……お帰り」
「お帰りなさーい」
「旦那様、お帰りなさい。やはり、サラフェと一緒か」
ナジュミネとリゥパはムツキに近付き、その後ろあたりにコイハとメイリが並んでいる。サラフェもいるからか、2人は少し警戒気味である。
「まあ、分かっていただろ?」
「そうだな」
「そうね。女神様のお導きだからね♪」
ムツキの少し申し訳なさそうな声に、ナジュミネとリゥパは首を縦に振る。創世神ユースアウィス、もとい、ユウの決めたことで彼女たちに不満はない。彼女が神様ということもあり、大きな間違いはないと信じているのだ。
「あぁ……女神様のな……」
「ムッちゃん?」
「旦那様……?」
一瞬、ピリっとした空気を感じ取り、リゥパとナジュミネが息を呑んでムツキの顔色を窺う。
「ん? ところで、サラフェの隣は……誰だ? もしや、2人目のサラフェか?」
ナジュミネはふと目の前の見知らぬキルバギリーに訊ねる。
「はい。私はキルバギリーと申します。先ほどはサラフェの姿をしておりましたが、実はレブテメスプ様が造った自律型兵器です。自操モード、偽装モード、外装モードなどのいくつかの種類を有しています」
キルバギリーは恭しくお辞儀をする。ナジュミネもリゥパも、もちろん、コイハもメイリも何を言っているのかさっぱりで、彼女たちが唯一理解できたのは誰かに変身できるということだった。
「む。難しいな……。で、サラフェとキルバギリー? とやらは、すっかり大人しくなっているが、旦那様に許してもらったのか?」
ナジュミネに問われ、サラフェはここでようやく口を開く。
「ムツキさんは許すも何もないそうです。ただし、コイハさんとメイリさん、あと、先ほどこちらに戻って来た猫ちゃんの許しを得る必要があります。許してもらえるまで、いつまでかかっても」
ある意味、許す側も許される側も苦行である。ムツキがそれを理解しているのか、理解していないのかは定かではない。ただ、ナジュミネとリゥパは彼が願うのであれば全力でフォローする心構えである。
「そうか。旦那様らしいな。では、これから話し合いの場を設けよう」
「そうね。ゆっくりと話し合いましょう」
「ナジュ、リゥパ、ありがとうな。すまないが、細かい自己紹介はその時にお願いしたい。コイハとメイリさん、後でサラフェとキルバギリーの詫びの言葉を聞いてやってほしい」
ムツキは申し訳なさそうな顔でコイハとメイリを見る。彼女たちはゆっくりと肯いた。
「……わかった」
「はーい。あと、僕はメイリでいいよ、ダーリン♪」
メイリが突然、ムツキに向かって突進したので、ムツキは思わず抱き留めて、そのまま近くの椅子に腰かける。
「おっと。やんちゃなタヌキさんだな。わかった、メイリ、よろしくな。メイリは僕っ娘か……こうやって素直に甘えて来られるのは嬉しいな。それに、ダーリンか、いい響きだな」
ムツキがメイリの頭を撫でながら、彼女のぶんぶん振られている尻尾やしきりに動く耳を凝視している。それに気付かないナジュミネではない。
「むむ。妾もダーリンと言った方が嬉しいか?」
「ナジュからは旦那様と言われた方が嬉しいな。その方がこう安心する」
ムツキはナジュミネがそう呼ぶ姿を想像し、即座に振り払った。いつも通りが一番と言って、彼女が暴走しないようにする。
「わかった。やはり、旦那様が良いようだな。妾もその呼び方が気に入っている」
「もちろん、どんな呼び方でも、俺を慕ってくれているなら何でもいいさ」
ムツキは笑顔を見せ、全員に向かってそう伝える。
「呼び方が……ハ、ハビーでもいいのか?」
コイハがおずおずとそう言う。
「もちろん。ハビーか、いいじゃないか。嬉しいよ」
「ムッちゃん、私も構って、ぎゅってしてー」
リゥパがメイリの隣に入り込む。
「リゥパとメイリは積極的だな」
ナジュミネは出遅れたようで、少し残念そうにしている。
「お帰りニャさいニャ。朝食ができているニャ。手を洗ってきてほしいニャ」
「すまん、ケット。その前にやるべきことがある。ユウを起こしてきてくれるか?」
ケットが妖精たちと一緒に朝食を持ってくると、ムツキは申し訳なさそうにそう伝える。
「……本気かニャ?」
ケットは驚いた。この家の暗黙のルールとして、ユウを起こさないというものがある。それは、彼女が寝起きの機嫌が悪く、起こされた時にはすこぶる悪いためだ。
どうしてもの時以外は起こさないことになっている。今まで、その時は来たことがない。
「あぁ、本気だ」
「ユウ様の寝起きは厄介ニャー……」
ケットはどうにかできないかとムツキと言葉を交わし合うが、ムツキも今回ばかりは譲る気配がない。彼は今回の事態、成り行きをなあなあに流せないと思っている。
「すまない。頭では分かってはいるんだが」
「……どうしてもニャ?」
ケットの声のトーンはかなり落ちている。ムツキはそれも心苦しいが、やはり、譲る気配はない。
「すまない、どうしてもだ。必ずすぐに伝えなきゃと思っている。でも、俺もちょっと落ち着く時間が欲しいから、ケットにお願いしたい。もし、ユウの機嫌が悪そうなら、こう言ってくれ」
「ニャ?」
ケットはムツキに何か秘策があるのかと思い、耳を傾けた。