第7話「続けたい、止めたい」
病院を出たあと、誰もすぐには口を開かなかった。
夕方の空はやけに明るくて、
さっき聞いた言葉と、まるで釣り合わない。
「……で」
沈黙を破ったのは、いるまだった。
「これから、どうする」
その一言で、空気が張りつめる。
「どうするって……」
なつが、少し困ったように頭をかく。
「らんの体調、最優先だろ」
「それはそうだけど」
いるまは視線を逸らさない。
「活動を続けるかどうかは、別の話だ」
「……俺は……」
らんが、かすれた声で口を開いた。
全員の視線が、集まる。
「……続けたい」
一瞬、風の音だけが聞こえた。
「らん」
なつが、低く名前を呼ぶ。
「さっき、医者に言われたこと、聞いてたよな」
「……うん」
「無理したら、倒れるかもしれない」
「……わかってる」
「それでも?」
らんは、ぎゅっと拳を握った。
「……それでも」
震えながら、言い切る。
「……歌わないまま、終わる方が……」
言葉が詰まる。
「……怖い……」
「……らんらん」
みことが、辛そうに眉を下げる。
「それ、無理してるってことじゃない?」
「違う……」
否定した瞬間、息が乱れた。
「……っ、は……」
胸を押さえ、浅く呼吸する。
「らんくん!」
こさめが、すぐ横に立つ。
「無理しないで、座ろ」
「……だいじょ……」
言い切れず、喉が鳴る。
「……っ」
小さく嗚咽が混じった。
「ほら、見ろ」
いるまが、少し声を荒げた。
「今この状態で、ステージに立たせる気か?」
「言い方!」
なつが、思わず声を上げる。
「いるま、きつい」
「きつく言わないと伝わらないだろ」
二人の視線が、ぶつかる。
「らんが壊れたらどうする」
「壊れないように、支えるんだろ!」
なつの声が、少し震えた。
「……らんらん」
すちが、静かに割って入る。
「一回、整理しよ」
落ち着いた声だった。
「続けたい理由と、止めたい理由」
「どっちも、ちゃんと聞こう」
らんは、ゆっくりと顔を上げた。
「……続けたい理由は……」
なつが息を整えながら、言葉を探す。
「……みんなと、ステージに立つのが……」
喉が熱くなる。
「……生きてるって、思えるから……」
その瞬間、なつの目が揺れた。
「……止めたい理由は……」
いるまが、静かに続ける。
「……らんが……」
言葉を選びながら、
「……苦しそうだから」
誰も、反論しなかった。
「……っ」
らんの喉から、小さな音が漏れる。
「……どっちも……」
嗚咽を堪えながら、続ける。
「……俺、否定できない……」
肩が、震える。
「……ひっ……」
涙が、止まらない。
こさめが、そっと背中に手を置いた。
「らんくん」
優しい声。
「一人で決めなくていい」
「……」
いるまは、少しだけ目を伏せた。
「……悪かった」
短く、そう言う。
「止めたいんじゃない」
顔を上げる。
「……失いたくないだけだ」
その言葉に、胸がきゅっと縮む。
「……じゃあ」
なつが、深く息を吸った。
「条件付きで、続ける」
全員が、なつを見る。
「らんが苦しくなったら、即止める」
「誰かが異変に気づいたら、即止める」
「……約束できるか?」
らんは、少し迷ってから、頷いた。
「……うん……」
その瞬間、また息が乱れた。
「……は……っ」
「らんらん!」
すちが、すぐ支える。
「……大丈夫……」
震えた声でも、確かに意思はあった。
こうして、
続けたい気持ちと
守りたい気持ちが、
かろうじて、同じ場所に立った。
不安を抱えたまま——。
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コメント
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えぐい、切なさとやり切りたい桃さんの想いで泣ける。 ここからが本番感してもう号泣案件。 続き楽しみにしてます。






