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かんな
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学園では、あまりアルエに会えない。学年が違うと校舎が別棟になる。
昼休憩中の中庭で話ができる程度だ。
それ以外の場所では、声を掛けるのを控えていた。
(悪魔イソトマに声を掛けられたら、アルエの評判が落ちちゃう)
学園にいる間は、取り巻きが周りを固めているから息苦しい。
最近は、その取り巻きも減りつつある。
前ほど悪魔ではなくなったイソトマの腰巾着をする旨味がなくなったんだろう。
前より周りに人が減って、かえって安心していた。
(仲良しって訳じゃないのに一緒にいるのは、気を遣って疲れる)
そんなことを考えながら、一人廊下を歩いていたら。
「イソトマ、少し、いいか?」
後ろから、ノアル=アルヴェルトに声を掛けられた。
(うわぁ、意外な人物に声を掛けられた)
第二王子のノアル=アルヴェルトもまた、ゲームでは攻略対象だ。
ノアルルートにも勿論、悪役令息イソトマは登場する。だが、ルシアンルートほどの絡みはない。
(ノアルのイメージって、常に怒っている人だ)
自分勝手で傲慢なイソトマに対して、正しく注意する。そういう人だ。
だから、声を掛けられるとゲーム脳が委縮する。
「はい、何でしょうか?」
「ん? 今まで俺に敬語なんか使ったこと、ないだろ」
「え、あ、うん。そうだね」
言葉がカクカクする。動きもカタカタする。
ノアルが不思議そうな顔で首を傾げた。
「この後、アフタヌーンティの時間だろ。俺の部屋で、一緒にどうだ?」
「はぇ? ほわ?」
何を言われているのか、わからなくて一瞬、思考がバグった。
王族や一部貴族は学園に私室を持っている。イソトマも勿論、部屋持ちだ。
「いいのか、ダメなのか?」
「ダメではないです。よくもないけど」
ノアルがイソトマをねめつける。背筋がピンと伸びた。
「はい、行きます。御一緒させてください」
「じゃぁ、ついて来いよ」
歩き出したノアルに付いていった。
(せめてディルクに一言、伝えてから行きたかった)
きっとディルクはイソトマの部屋でアフタヌーンティの準備をしているに違いない。
(護衛を連れて行くとも言えないし、ノアルを待たせるのも怖い)
王族相手に護衛を侍らせるのは不敬にあたる。
自分の部屋に寄ってからなんて、言える雰囲気でもない。
仕方なくイソトマは、促されるままノアルの部屋に入った。
椅子に掛けると、侍女がお茶とお菓子を準備して部屋を出て行った。
「リザーブしてやる。どれがいい?」
「お、お任せで」
サンドウィッチにスコーン、ラズベリームースが乗った皿を渡される。
「ありがとう」
緊張しながらも、軽食とミルクティの味はわかった。
王族用の菓子と紅茶は美味い。
幸せな気持ちに浸りながら、スコーンをパクリと頬張った。
「美味いか」
「うん、どれも美味しい」
ほくほくした気持ちで応える。
ノアルが吹き出した。
「本当に幸せそうな顔をしているな」
「え? そんなに?」
ノアルがおかしそうに笑う。解せない。
「少しは緊張が解けたみたいで、良かったよ」
そう言われて、肩の力が抜けていることに気が付いた。
「最近のイソトマは俺が声をかけると背筋が伸びるよな。少し前までは嫌そうな顔をしていただろ」
「それは……」
どっちも怖いからです、とは言いづらい。
「それより、何か話があったんじゃないの?」
この話題が長引いても良いことはない。イソトマは話題を変えた。
「ん? んー、そうなんだけどな」
ノアルが難しい顔になった。
「最近……ルシアンと話をしているか?」
「いや、あんまり」
気まずくて、目を逸らした。
(遠巻きに見ているけど、話してはない。主にオタク的観察だから。壁で空気だから)
リリーと二人でいる姿を眺めて、一人で悦っている。
「あの状態じゃ、話しかけたりもできないよな」
ノアルが沈痛な面持ちになった。
すっくと立ちあがり、イソトマに向かって頭を下げた。
「いくらイソトマの性格が悪かろうと、兄上の行動が正しいと、俺は思わない。兄上に変わって無礼を詫びる」
イソトマは、あんぐりと口を開けて呆けた。
(ちょっと悪口言われた気がするけど……ノアルが、王族が頭を下げている)
やっと頭が回り始めて、イソトマは慌てた。
「待って、待ってよ。頭を上げて。僕は何とも思っていないよ」
「何とも思っていないは、さすがに嘘だろ。自分の婚約者が他の男と恋人のように睦まじくしていたら……俺なら殴る」
「ノアルなら、そうだろうね」
正義の人ノアルは剣士だ。腕も立つから殴られたら、ただでは済まない。
「イソトマは、腹が立たないのか?」
「僕は……」
むしろ眼福です、という言葉を飲み込んだ。
「ルシアンとリリーが幸せなら、それでいいよ。婚約解消の話がきたら、受け入れようと思う。父様は荒れるかもしれないけど、僕が頑張って説得するよ」
父親を説得する程度で済むのなら、易いものだ。
国外追放や断罪や爵位剥奪に比べたら、ずっとマシだ。
「本気で言っているのか」
ノアルが驚いた顔で言葉を失くした。
「だって、僕にはどうしようもないもの。リリーは魅力的な子だよ。ルシアンが惹かれる気持ちも、わかるから」
何せ、推しですから。という言葉も、秒で飲み込んだ。
(この世界のリリーは、ゲームとは何かがちょっと違うんだけど)
小さな違和感の正体は、わからないままだ。
「……今なら、いいかもな」
ノアルが、ぽそりと呟いた。
「今ならって、何が?」
「最近のイソトマは、変わったよな。少し前とは別人みたいだ。まるで子供の頃の……イデアがまだ、生きていた時に戻ったみたいだよ」
「あ……」
どくり、ドクリと、鼓動が少しずつ早くなる。
イデアは、イソトマの兄だ。
(兄さんが生きていた頃の僕は、今よりずっと素直だった、かもしれない)
イソトマが十歳の時、剣士だったイデアは試合中の事故で死んだ。それ以来、イソトマは荒れた。自己本位になったきっかけは、兄の死だったと自分でも思う。
(兄さんが生きていた頃の僕に、今の僕は近いのか)
指摘されて初めて気が付いた。
「何か、変わるきっかけがあったのか?」
ノアルの問い掛けに、素直に答える気になれなかった。
(前世を思い出して、あの頃の性格が反映されていますとは、言えない)
幼い頃も前世の影響を多少なりと受けていたのかもしれない。
子供は前世の記憶を覚えているとかいう話も、こうして前世を思い出すと眉唾な気がしない。
「……意識したこと、なかったな」
イソトマはさりげなく目を逸らした。
「そうか。今のイソトマを、俺は見直しているから、理由は何でもいいんだ」
突然、ノアルが褒めた。全身に鳥肌が立つ。
「急に、何? 何で褒めるの?」
ノアルは普通にイソトマを嫌っているはずだ。何なら、攻略対象の中で一番、嫌いなはずだ。
「もし、ルシアンがイソトマとの婚約を破棄したら、次の候補が俺になる」
ノアルが真面目な顔でとんでもない発言をした。
「…………は?」
「今のイソトマなら、俺はむしろ喜ばしいと思っている」
「いや、待ってよ」
ゲームには、そんな設定なかった。
それに、ノアルの言い方だと、ルシアンが既に婚約破棄の準備をしているようにも聞こえる。
(婚約破棄なら、いいんだけど。次の候補は知らないよ)
これではイソトマもノアルも使い回しみたいだ。
「ルシアンとの婚約解消はいいとして」
「そこはいいんだな」
ノアルが呆れ顔で笑っているが、それは無視する。
「ノアルは、本当にいいの? ルシアンのお下がりみたいに僕なんか押し付けられて」
「お下がりじゃないだろ」
ノアルが目を細めた。その顔が怖くて、イソトマはビクリと肩を震わせた。
「自分で自分を下げるような言い方をするなよ。俺は、今のイソトマなら不満はないよ」
「そんな……」
「イソトマは不満そうだな」
息を吐いて、ノアルがカップを傾けた。
「不満とかじゃなくて」
現状が整理できないだけだ。
(ルシアンに婚約破棄されたら、ノアルと婚約するの? その場合、国外追放はナシ? どこまで、どうなるの?)
混乱する頭を鎮めるため、ミルクティーを含んだ。
ミルクの甘い香りが、心を落ち着けてくれる。
「好きな相手とか、いるのか?」
「いないよ、そんなの」
ノアルの唐突な質問に、秒で返事した。
今はルシリリを眺めて、アルエとオタ活しているのが楽しい。
婚約だとか恋人だとか、考えられない。
「俺の初恋、子供の頃のイソトマだからな。覚えとけよ」
「は? 初めて聞いたよ、そんな話」
「初めて話したからな」
当然のように言い切られた。納得いかない。
「ちょっと前のお前になんか、悔しくて言えるかよ。俺が好きだったイソトマの欠片もなくなっていたんだぜ。今だから話したんだ」
思わずカップを落としそうになった。
(ノアルの、この話……かなり本気なのでは)
信じたくない。心がスルーしそうになる。
「婚約の話は、ルシアン次第だけどな。順番が回ってきたら俺は断らないって、先に言っておく。今日のお茶会は、そういう話だ」
「そんな……」
ゲームとは違う展開が動き出そうとしてる。
そういう音が聞こえた。
コメント
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第13話、読み終えたよ〜!😭💕 ノアルがまさかのイソトマに子供の頃から好意あったって…!?!? しかも「ルシアンが婚約破棄したら次の候補は俺」って本気すぎるでしょ!!🔥 イソトマがスコーン食べてほくほくしてるシーン、めっちゃ可愛くて笑ったw あと「お下がりみたい」って言うイソトマに「自分で自分を下げるな」って返すノアル、かっこよすぎる…! ゲームと違う展開に戸惑うイソトマの気持ち、すごくわかるよ。これからどうなるんだろう、続きが気になりすぎる!!⋆♡